技術士制度の改善方策について


第1章 基本的な考え方

1-1 技術に携わる者の備えるべき倫理要件

 現代社会において、技術は社会の隅々まで浸透し、多くの便益をもたらし、安全で豊かな生活を可能とすると同時に今後の経済社会の発展の基盤として不可欠な存在となっている。 しかしながら、一方で、技術は安全問題や環境問題を生じさせる場合もある等、技術が社会に及ぼす影響の大きさは、正の効果も負の効果も拡大する傾向にある。
 従って、技術に携わる者は、実務担当能力を有することはもちろんのこと、社会や公益に対する責任を企業等の活動の前提とする旨の高い職業倫理を備えることが必要である。
 また、自己の能力の範囲を明確に認識し、業務遂行上、専門的な助力の必要性に関して的確に判断し、適切に助力を得ること等も重要である。
 こうした職業倫理を徹底するためには、技術者が属する企業等を含め社会全体がその重要性等について十分に理解することが不可欠である。


1-2 急速に進展する技術者資格の国際的な相互承認への対応

 経済社会のグローバリゼーションに伴う国際情勢の変化に対応して、世界貿易機関(WTO)により専門職業人の自由な移動促進の枠組みが策定されるとともに、欧州においてはヨーロッパ技術者[European Engineer(Eur Ing)](FEANI)、カナダ、米国、メキシコの3国においては技術者免許相互承認(NAFTA)が制度化されている。 こうした状況の中、アジア太平洋経済協力(APEC)域内での技術者の自由な移動を目的としたAPEC技術者資格相互承認プロジェクトが1995年に提案され、既に、APEC人材養成作業部会の下で、技術者資格の概念や相互承認の枠組みが合意され、相互承認協定の原則に関する協議に移行する段階にある。
 即ち、国境を越えて活躍できる技術者(グローバルエンジニア)の具体化は加速度的に進行している。
 こうした国際的な動向に対応し、我が国の技術者が、国際的にその能力を適切に評価され、不利益を被らないよう、必要な対応を図ることは極めて重要である。
 即ち、技術士資格について、その国際的な同等性に関し、透明性があり、かつ、他国に対する明解な説得力を持つよう、その主要な要件に関する国際的な整合性を確保することが緊急の課題となっている。


1-3 質が高く、十分な数の技術者の育成、確保

 科学技術創造立国を目指す我が国としては、技術革新による産業フロンティア創出と産業の国際競争力の強化の観点から、質が高く、かつ、十分な数の技術者を育成、確保することが重要な課題である。
 このためには、技術者教育の段階から、技術士資格付与、継続教育までの生涯に亘り、一貫した整合性のあるシステムを構築し、これが十分に機能することが重要である。
 かかる観点から、技術士制度については、高等教育機関の技術者教育に関する専門認定が制度化された段階において整合性、一貫性のあるものとなるよう、また、多くの技術者、学生が技術士を目指すよう、必要な改善を図ることが重要である。


1-4 有資格の技術者の普及の必要性等

 前述の1−2及び1−3に加え、技術者資格が確固たる地位を得ている諸外国との技術業務の連携・協力の増大に伴い、その業務の実施上、我が国側に対し、単なる技術者ではなく有資格の技術者が求められる局面が増加していること、雇用体制の変化に伴い技術者の流動化が進みつつあること等の情勢変化に対応するためにも、我が国においても、諸外国と同様に、個々の技術者の能力資格の普及が重要である。
 このような観点から、技術士資格をみると、分野によりかなりの活用が図られているものの、全体としては、十分な状況とは言えない。
 このため、技術者資格の国際的な相互承認が及ぼす影響及び効果、また、高い職業倫理を備え、十分な知識、経験を有する技術士を活用することの有用性、重要性等について、社会的認識の喚起、増進を図りつつ、技術士資格の活用を我が国の技術活動の全般に亘って飛躍的に拡大することが重要である。


1-5 技術士の数

 技術士の資格については、一部の業務資格取得上等の特典があるものの、基本的には、弁護士や医師のような業務独占資格でなく、名称独占資格であること、我が国においては、従来、組織としての技術力が重視されてきたこと等により、社会的な評価は十分ではなく、一部の分野以外では活用が進んでいない状況にある。 このため、技術士資格に関する周知度も低く、米国のプロフェッショナル・エンジニア(約41万人)や英国のチャータード・エンジニア(約20万人)等の欧米の先進主要国に比べ、我が国の技術士の総数は約4万人と格段に数が少ない状況にある( 参考6 参照)。 また、国内の他の資格との比較においても、例えば、業務独占資格である一級建築士は約29万人であり、技術士資格が普及していないことが明らかとなっている。
 今後、技術者資格の国際相互承認の具体化等の諸状況の変化の下、活用の促進とともに、以下のような具体的な改善により、技術士資格取得志望者、特に、現在、活用が進んでいない部門を中心に全部門に亘って資格取得志望者数が拡大し、技術士の質を維持しつつ、技術士の数が増大することは、科学技術創造立国を目指す我が国として極めて重要である。 我が国の技術士の人数については、当面の目標と考えられる欧米程度に向けて増大し、我が国の約240万人( 参考8 参照)の技術者に活用される制度となることを期待する。

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