防災特別委員会

     



 
第12回 2007年9月12日

熊井 文孝

熊井技術士・労働安全コンサルタント事務所 所長
技術士(建設部門/総合技術監理部門)

 地震とまち歩き訓練
 日本列島は4つのプレートが競り合う上に存在している。その結果、歴史的に繰返し大きな地震災害に見舞われ、昔から地震・雷・火事・おやじと言われるように地震に対する恐ろしさが私たち日本人のDNAにインプットされている。しかし、地震はいつも不意打ちであるため大きな被害を受けている。
 現実に地震による被害が発生し、また近々発生する恐れのあることがマスコミで報道されると、人々の地震に対する関心は一挙に高まり、不安がる傾向にある。しかし、地震に対する備えを実践しようとする人は極めて少ないのはどうしたことか。

 いま、地域住民のつながりが無くなってきている。これは、コミュニティ(自治会・町内会等)に参加する住民がすくなってきているからである。隣近所との濃密な関係が薄れ、またそのような関係がわずらわしく感じる人たちが多くなっているからであろう。コミュニティ加入者は地域住民の20%〜40%程度といわれている。一方で高齢化が進み健康問題を抱える人が多くなり、この人たちに対する災害時の支援が課題である。しかし、個人情報保護の問題が大きく影響し要支援者名簿ができない状況にある。コミュニティで役をやりたくないが恩恵に浴したいという「我がまま」や「モラルの欠如」も地域のつながりが薄くなっている原因に挙げられる。

 地震に対する防災・減災に関する情報、書籍等は多く出回っているが、真に地震対策を考え実践している人は少ないように感じられる。それは知識として受け入れるが身のまわりで起きるとは考えていないからである。地震を呆然と迎えるのではなく、住宅や公共施設の耐震化の促進、コミュニティの強化、等、今すぐやらなければならない事が山積している。そのためには、人々の意識改革が先ず喫緊の課題であろう。基本となるのは、自分の身は自分で守ること、他人に迷惑を掛けないことである。地震を避けることが難しいうえに、予知することが不可能である以上、被害を最小限に食い止める努力が必要になる。いわゆる減災である。減災は、自助・共助・公助の三段階に区別されるが、不意に襲われる地震のような広域災害では、共助が極めて重要である。共助は、平時に考え、訓練等で改善しておくことがいざというときに役立つものである。

 前述したようにコミュニティ加入者は少なくなっているものの、組織化して地震災害に臨めば大きな効果が上げられる。1995年の阪神淡路大震災でも、平時のコミュニティの強さが地震直後の対応やその後の復興に影響を及ぼしたと言われている。コミュニティ内の強さ・弱さを事前に共通認識とし、危険要因をできるだけ避けて行動できるように準備することは、地震災害が現実となったときに効力を発揮する。
 コミュニティ内の強さ・弱さを探る方法として「まち歩き訓練」がある。普段歩きなれていない道路を通るとちょっとした発見に驚きを感じると言う。自宅から避難所へ、どの道筋が一番安全なのか、行政が一元的に指定した避難道路に問題は無いのか、自分達の目線で確認し納得することが重要である。

 私たち防災支援委員会の役割は極めて大きい。地域住民と接し、一緒になって地域内を歩き、住民の目線で解決のお手伝いをする。まち歩きに参加する技術士は、多くの部門から多くの専門家の参加を得ることが重要である。それは、地域内を違う目で発見することになるからである。またこの時、まち歩きに参加する技術士は、地域コミュニティの住民に分かるように説明する必要がある。
 いま東京都が進めている「都市復興模擬訓練」に参加して感じることは、住民が具体的に自分達のどこに危険要因が存在しているのか気付かないことである。危険要因を発見し、その対応策を実践するようにやさしくお手伝いすることが私たち技術士に課されている役割ではないかと痛感している。

   


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