推薦者から一言
森美景氏は、筑波大の文系のご出身で、(株)SHIFFONの企業内技術士として活躍されている女性技術士です。文系の方の目を通して、新しい技術士の可能性を、さらに拡大できうる人材と期待しています。
繊維部会 部会長 有瀧宗重
1.はじめに
私が技術士という資格を知ったのは2018年、そして合格したのは2022年です。このように技術士歴があまりにも浅い私が今回「活躍する技術士」に寄稿させていただくのは力不足なのですが、なぜ技術士を目指すことになったのか、そして新米技術士としての現在を僭越ながらご紹介させていただこうと思います。
2.繊維に関わる仕事と出会ったきっかけ
高校では文系を選び、大学では政治・経済・社会学などを学ぶ社会科学系統の学部に進みました。多くの学生が地方出身の一人暮らしという中で、自活力とコミュニケーション力を養うことができ、人格形成に大きな影響を受けた4年間でした。
1994年にフェニックスというスポーツアパレルの会社に就職したのですが、スキーウェアの企画部門、しかも素材開発チームに配属された時は「なぜこんな素人を?」と非常に驚いたことを覚えています。ですが、この配属が技術士を目指す起点になったのだと改めて思います。
入社当時4人いた素材開発チームのメンバーにはアパレルや繊維の学校を出た人がいませんでしたが、それで困った記憶もないほど先輩方は繊維メーカーだけでなく機業場や染工場の方々とも渡り合って仕事をされており、私もそれを見ながら必死に食らいつく日々を送りました。とにかく専門的知識は全部現場で教わり、関わってくださった全ての皆さんが私の先生です。
3.技術士という資格との出会い
2017年に一番信頼していた先輩が会社を退職され、「どういう仕事をして今後生きるのか」ということを真剣に考えるきっかけになりました。その結果選んだのが「繊維に関わること」でした。第一歩としてTES(繊維製品品質管理士)の受験に挑み、初めて繊維に関するテキストを購入しました。この受験を通し、これまでの経験が全て自分の身になっていることが証明されたようで嬉しかったことを覚えています。
そしてTES合格後の歓迎会の場で知り合った方から「技術士の方が主催している講座を受けてTESに合格した」という話をうかがい、ついに「技術士」という資格があることを知ります。
4.技術士受験記
TES受験を経て「繊維に関する知識を更に身に付け、繊維のプロに近づきたい」という思いが強まり技術士試験のことを調べたのですが、文系出身の私には第一次試験の「基礎科目」の突破口が全く見えず、暗澹とした気持ちになりました。
また、オープンセミナーや受験講座で話を聞くにつれ、自分のような経歴の者が技術士となることに意味があるのだろうかと悩むこともありました。ですが講師の皆さんや技術士の先輩方からたくさんの励ましをいただき、自分も技術士として一緒に活動をしたいという気持ちが徐々に芽生え、何とか受験勉強を乗り越えることができました。
2019年の第一次試験は台風で試験延期、やっと迎えた再試験は2020年3月でコロナ禍に突入していました。奇跡的に1回の受験で第一次試験を突破することができましたが第二次試験では「視野を広く持ち、技術士の立場からあるべき姿や課題解決を描く」ことに非常に苦労しました。この時に繰り返し試行錯誤したことが今の自分の糧になったと思っています。第二次試験と格闘している間に当時所属していた会社がなくなり、人生初の転職も経験しながら、なんとか2022年に合格にたどり着きました。受験対策の講座という形で専門性の高い話をそれぞれのプロからうかがい、自分のこれまでの経験値を学問的知識として裏付けできたことはとても有意義でした。そして「まだまだ新しい知識を吸収することができる」ということを実感したことから、自分に対しても少し自信が持て、今後の活動に対する期待も広がりました。
技術士受験を通してたくさんの新しい繋がりも得ることができ、本当に感謝しています。
5.現在の業務と技術士活動について
現在はスキーウェア企画生産チームのマネージメントと素材開発を主に行っています。国内・海外両方に販売していることもあり、各国からの要望に対してコストと品質のバランスを取りつつ、企画/生産/営業の各部門と調整をしながら商品開発を進めています。
個人的には、スキーウェア用素材に対するデザイナーの抽象的な要望を、糸や生地組織、加工内容に落とし込んで試作を行い、最終的にデザイナーの納得のいくものに仕上がった時が一番楽しいです。
技術士としては社外での活動が主ですが、現在は一般社団法人日本繊維技術士センターが開催している教育講座に携わらせていただいています。早い段階でこういった活動に関わることができ、自分自身の研鑚の場にもなっています。技術士にはコンピテンシーが求められますが、今回この原稿を書く機会をいただきいろいろと振り返ったことで、自分がこれまでの業務で学び、経験したことが技術士としても活きているのだと改めて実感しました。
「技術士=新しい技術を開発する人」だと勝手に解釈していましたが、それだけではない自分なりの形を見つけていきたいと今は感じています。技術を正しく上手に活用することで繊維業界に少しでも貢献し、また私のようにバックボーンが理系ではない技術士の方が増えるような活動もできればと思っています。
- 1994年 筑波大学社会学類卒業後、(株)フェニックス入社
- 2021年 (株)SHIFFON入社
- 2022年 技術士(繊維部門)取得
- 一般社団法人日本繊維技術士センター
- 繊維製品品質管理士
- (株)SHIFFON 企画生産部
- スポーツ観戦(ラグビー、陸上など)
2027年W杯はオーストラリアで観戦したい! - 演劇、ライブ鑑賞
- 文房具集め
(本記事は、月刊「技術士」2024年8月号掲載の『活躍する技術士』を基にしました。活躍する技術士の現在の業務や推薦者の肩書は、掲載号当時のものです。)

