推薦者から一言
佐々木修平氏は科学技術振興委員会での活動において、子どもたちに理科・技術を楽しく伝えるべく邁進している。彼は単にコンテンツを開発するだけでなく、参加者が楽しく科学技術に触れながら、新しい知識を得る楽しさを伝えられるよう創意工夫を重ねている。相手の目線、状況を考慮し行動できる技術士である。
中田よしみ 埼玉県支部 科学技術振興委員会委員長
1.これまでの業務経歴について
私の大学卒業時は就職氷河期の真っ只中で「ロスジェネ世代」といわれる年代です。特に公共工事が主体の土木分野においては、その影響が顕著で、就職活動は非常に厳しかったですが、農業土木のコンサルタントに何とか入社することができました。そこでは、農道やため池.用排水路の設計など様々な経験をさせていただきました。その後、大学時代に土質力学の研究を行っていたことから地盤に関するスキルを高めたいと思い、地盤に強い会社に転職しました。そこでも、河川堤防や斜面安定工、鉄塔基礎の研究など多岐にわたる経験をさせていただきました。しかし、この期間は公共事業費の削減が続きながらも業務量は減らず、体調等の維持が困難だったため、再度転職をしました。
現在は住宅メーカーで宅地の地盤に関して全国から寄せられる相談対応や地盤調査方法や補強工法の研究及び開発などを行っています。
2.現在の主な業務について
家を建てる際は地盤調査を行い、その調査結果や地形及び地質、土地の変遷や周辺状況などから総合的に分析して、家が傾くなどの不具合が生じないよう地盤を評価する必要があります。その評価の結果、地盤が弱い場合は適した方法で地盤を補強対策する必要があります。しかし、家を建てる際は機能性や意匠性などに関心が向きがちなことが多く、目に見えない部分(地盤調査や地盤対策工事)に費用をあまりかけられないといった制約があります。また、狭い宅地で工事を行う際には施工上でも様々な制約があります。課題は山積みで日々考えることは多いですが、それらを無事に解決し、縁の下の力持ちとして安心安全な住宅を提供することにやりがいを感じております。
3.技術士資格について
技術士は土木分野において公共工事の入札などに有利な資格であり、これまで勤めてきた会社でも資格取得手当などで推奨され、上司や先輩も取得している(または目指している)ことから私にとっては比較的身近な資格でした。しかし、土木分野から建築分野に転職したことで、技術士よりも建築士といった業務独占資格の方が知られており、周囲にも技術士という資格を知らない方が多く、同じ建設業でも分野によって資格の価値観が異なることに驚きがありました。
資格取得までの過程は、2006年に筆記試験で技術士補を取得し、翌年から技術士試験を受け始めましたが、取得まで8年かかりました。しかし、8年のうち真剣に勉強したのは取得した1年間のみです。この1年間は子供が生まれたこともあり、真に技術者として認めてもらうため絶対に受かってやろうという強い意志で挑みました。
技術士取得後の変化としては、発言に対する信頼度が増したように感じます。例えば、展示会で説明していた際、始めはあまり信頼されていない感じでの受け答えでしたが、技術士と記載している名刺を渡した途端から話を素直に受け止めてくれることがありました。技術士を取得した知り合いの方も同様なことがあったと伺い、この資格取得による変化を感じております。
4.プライベートについて
休みの日は近所の市民農園にて野菜づくりをしていることが多いです。技術士では専門として「土質及び基礎」を選択しましたが、プライベートでも結局、土をいじっているのが好きなんだと実感しています。素人なので発芽しないことや成長しても腐らせてしまうことが多く、プライベートでも日々頭を悩ませております。
理科実験の模型造りは、後述する理科教室で用いるために空き時間に試行錯誤しています。自分で作製したのは砂時計と液状化模型1)の2つのみですが、砂は産地などで特徴が異なるため、様々なバリエーションを造ることが可能です。砂時計は単に時間を計測するだけでなく、その動きを観察すると安息角という斜面などのある一定の勾配を見ることができます。理科教室の時には砂時計の製作のほか、砂山を造ってそこに霧吹きなどで水をかけ続けるとその山がどのように崩れていくのか観察することで防災に対する意識づけも行ってきました。また、液状化の模型については昨年開催されたイベントでの際に教えていただいた方法でペットボトルや100円ショップで販売されている容器を用いて複数の模型を作製しました。今後、独自にバリエーションを考案していきたいと思います。
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液状化模型の試作① -
砂時計の試作
5.日本技術士会における活動について
2017年より埼玉県支部の科学技術振興委員会に所属させていただき、理科教室や講演会を手伝っています。始めは自分の子どもの自由研究のネタ集めも兼ねられそうだなと軽い気持ちで応募しましたが、子供たちの楽しそうな笑顔やどうしてそうなるのかを納得した時の顔を見ていると、こちらの方が忘れていたものを思い出し、逆に元気をもらえることが多いです。
最近では高校で地学を学習する機会が減り、大学でも地盤工学を教えられる先生が減少しているため、今後地盤に携わる技術者の減少が懸念されますが、理科教室を通じて次世代に少しでも土の楽しさや魅力を伝えられればと思います。
<参考文献>
- 1999年 芝浦工業大学工学部 土木工学科卒業
- 2015年 技術士(建設部門)取得
- 2017年 日本技術士会埼玉県支部 科学技術振興委員会委員 就任
- 日本技術士会(埼玉県支部 科学技術振興委員会委員)
- 日本建築学会・地盤工学会・地盤品質判定士協議会
- 地盤品質判定士・一級土木施工管理技士
- 二級建築士・測量士・eco検定ほか
- 住友林業(株) 住宅事業本部 技術商品開発部
- 宅地の地盤に関する計画、研究、設計、分析、試験、評価、管理及び指導
- 家庭菜園(主に野菜づくり)、理科実験模型造り
(本記事は、月刊「技術士」2023年6月号掲載の『活躍する技術士』を基にしました。活躍する技術士の現在の業務や推薦者の肩書は、掲載号当時のものです。)

