未来の人類から評価される
ものづくりを目指して
杉山 耕治さん機械部門株式会社ミヨシ 代表取締役

推薦者から一言

杉山氏は日頃から自社の従業員、地元町工場、わが国のモノづくり、地球環境等を大切にし、外部環境変化に対応した新製品開発、「かつしかライブファクトリー」創設、コロナ禍での「奇跡のラストワンマイル・サプライチェーンチャレンジ」の働きかけ等を実践してこられました。結果として、省エネ大賞中小企業庁長官賞、精密工学会ものづくり賞等を受賞される等、技術士経営者として幅広く活躍されています。

機械部会 幹事 横田英靖

1.自社の業務紹介

私は(株)ミヨシの2代目代表取締役で2012年12月の35歳の時に事業承継をしました。従業員は正社員が10名、パート5名で葛飾区の住宅街にある小さな町工場です。
事業内容はプラスチック製品の試作が主業務で、アルミ金型製作から小ロット成形まで自社内で一貫して対応しています。近年ではサスティナブル素材のプラスチック需要が高まり、生分解性プラスチックの他にも木材を原料としたCNF(セルロースナノファイバー)、WPC(木材プラスチック複合材料)、廃棄されてしまう牡蠣殻、卵の殻、コーヒー豆のカス、麻などを石油由来のプラスチックに混ぜて成形サンプルを作成する依頼が増えています。強みは試作用の金型製作とトライ成形が自社内で対応できることによりフィードバックが早いことです。様々な企業の技術者が弊社で立ち合いの元、トライ成形を行います。

2.趣味を通じて自然環境を考える

私の趣味はスノーボード、サーフィン、山歩き、家庭菜園です。どの趣味も自然の中で行うもので、自然のエネルギーや自然の偉大さを感じています。このため、人間が出したごみが海や山のいたるところにあることも実感しています。海の中で波待ちしている時にごみが流れてくると、どれだけのごみが海洋上を漂っているのかと危機感をおぼえます。ごみの問題は深刻です。大量生産と大量消費を繰り返して便利さを追求し、人類の欲求を満たして、地球上の生物が繁栄できない環境を作るために技術を使うのではなく、この美しい地球環境を後世に継いでいくために技術を活用するべきだと、自然の中で遊びながら考えています。
環境に配慮したモノづくりに取り組むべく、自社の企業理念を「捨てられないものづくり」「人の役に立つものづくり」にしています。

趣味のスノーボード

3.葛飾区のオープンファクトリー

葛飾区は住工混在地域で弊社のような小さな会社が沢山あり、小さい頃は工場の入り口から覗いていると「内緒だよ」といわれて失敗したブリキのおもちゃをもらっていました。かつては8000社以上あった工場が現在では2000社以下まで減ったといわれており、近年では新たに転入してきた住民から騒音や振動で苦情をいわれることも多くなっています。町工場に悪い印象を持たれるのはとても悲しいことです。町工場には世間には知られていないが、ニッチで高い技術を持っている会社が沢山あります。

昨今はDXやAIに目を向けがちですが、現場、現実、現物の三現主義でものづくりの経験を積んできた技術者は様々な課題抽出ができます。
「職人の勘で」といわれることがありますが、言葉にして解説するのが苦手なだけで、身をもって経験したことから導かれた原理原則に則って実践していることが多く、勘ではなく基本に忠実にものづくりをしています。そんな貴重な技術を持った職人と、ものづくりの工夫が詰まった町工場は、美術館や博物館に匹敵する来訪者の知的欲求を満たす場だと考えています。
ものづくりの楽しさ、難しさをもっと多くの人に知ってもらいたい。見るだけでなく、職人が使う道具を使って、モノづくりの勘所を職人に聞きながらものづくり体験をしてもらいたい。作ったものは持って帰って大切に使ってもらいたい。

第1回かつしかライブファクトリー(2019年)

私は葛飾区でワークショップ型のオープンファクトリーを開催したいと考え、葛飾区内の町工場仲間に声をかけていきました。しかし、想いだけでは人は動きませんでした。中には利益にならないことを誘ってくるなという社長もいました。
自社が実践していないことを誘っても説得力がないと考え、1社だけでオープンファクトリーを開催しました。すると、共感してくれる町工場仲間が現れ、今では9社が参加して年に一回、「かつしかライブファクトリー」を開催できるようになりました。かつしかライブファクトリーは2022年に第4回を迎え、毎年10月の最終土曜日に開催するものづくり体験ができるオープンファクトリーです。

4.技術士としての会社経営

ものづくり系の会社経営で大切なことは技術士法の中にあります。ものづくりの不正は、最初は軽微なものでも後々大きな問題になります。長く会社を存続させるためには公益確保と信用失墜行為の禁止は重要な概念であり、会社を存続させながら成長していくためには、まずは経営者が覚悟を持ちながら率先して実践し、会社の方針として全社員で取り組むことが望ましいと考えています。
技術士としての考えと経営者としての資質を向上させ、今後会社組織を大きくし、ものづくりで社会貢献をしていきたいと考えています。
会社組織は同じ理念や目標を持つ仲間が集まり、一人ではできないことを実現する場です。経営者がすべきことは会社の方向性を示し、社員が力を発揮できる環境と仕組みを作ることです。社員が仕事に満足する条件の中に「自己の成長と社会的評価」があります。社員全員が研鑚を重ね成長できる仕組みを作り、小さくても社会から評価されるよう仕事を積み重ね、未来の人類からも評価されるような会社にしていきたいと考えています。

プロフィール
  • 2001年 三造環境エンジニアリング(株)入社
  • 2003年 (株)ミヨシ入社
  • 2012年 技術士(機械部門)取得
  • 同年 代表取締役就任
勤務先
  • (株)ミヨシ 代表取締役
現在の業務
  • 試作用射出成形金型設計製作・小ロット射出成形
趣味
  • スノーボード、サーフィン、山歩き、家庭菜園

(本記事は、月刊「技術士」2023年2月号掲載の『活躍する技術士』を基にしました。活躍する技術士の現在の業務や推薦者の肩書は、掲載号当時のものです。)

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