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金属部会

2009年(H21)1月から6月例会講演アーカイブス

新年会参加者集合写真(拡大画像へのリンク)

新年会参加者集合写真

(画像クリックで拡大 76KB)

所属は講演当時で示してあります。

2009年1月21日

新年会
場所:ニューオータニイン東京「ももきりの間」
次第(司会:理事 山崎 宏)
 ソプラノ歌唱:加藤江美女史
 物故者に黙祷:司会者
 開会のことば:金属部会長 清水 進
 挨拶:会長 高橋 修、副会長 吉田克己、副会長 岩熊まき、専務理事 高木譲一、常務理事 西村文夫
 乾杯:名誉金属部会長 吉武進也
 年頭の抱負・近況など: 各出席者
 音楽:二期会ソプラノ歌手 加藤江美女史、ピアニスト・シンセサイザー 法領田れい子女史
 閉会のことば及び締め:評議員 神戸良雄

2009年2月4日

見学会(化学部会と共催)
見学先:高エネルギー加速器研究機構(KEK)
1.講演:素粒子について(講師:高崎史彦様 素粒子原子核研究室長)
2.見学会

2009年2月18日

テーマ:自動車エンジン弁ばね用材料の変遷と今後の課題
講 師:本間達氏(鈴木金属工業(株) 常務執行役員 生産技術本部 研究開発部長 兼 特品開発グループ長)
(自己紹介)
 名古屋工業大学金属工学科を1969年に卒業し鈴木金属工業(株)に入社、研究部に配属され1999年同社取締役特線部長を経て現職に至る。
 2008年3月技術士金属部門合格、技術士会に入会した。
(内容)
 入社後2年目に、長大橋用パラレルワイヤーの巻きつけ時破断の原因調査にあたった。丁度、安価な走査電子顕微鏡が販売された時期で、線表面の微細クラックが破断の原因であり、微細クラックは伸線前の酸洗い不足によるボンデライト被膜生成不良に拠ると判明した。現物を素直に見ることが問題解決の第1との認識を強くした。
 自動車弁ばねとの出会いは、入社2年目にばね疲労試験を担当した時に始まる。ピアノ線より強度の高いシリコンクロム鋼オイルテンパー線の疲労寿命が何故、低いのか。表面疵と非金属介在物が原因だった。
 表面疵はシェービンク゛技術の開発により改善したが、非金属介在物は形態制御技術の導入まで時間が掛かった。とにかく、現状を正しく的確に高炉メーカーに伝える事が必要であった。
 その後、某2輪車メーカーと窒化用オイルテンパー線の研究に入った。現在は、このコンセプトに合致した弁ばねが4輪でも主流になりつつある。
 自動車、2輪車のエンジン弁ばねに対する要求はエンジン出力の向上、燃費向上などのために、カムのリフトアップや回転数アップと同時に益々、弁ばねの耐久性と耐へたり性が求められる。しかし、設置場所は限られているので、荷重を高めるにはコイル線径を大きくすることはできないため、降伏応力の高い材料が必要になる。回転数が上がり応力が増加するとばね荷重が足りないと共振(サージング)が起こり、跳ね上がり現象が生じる。
 1960年代には弁ばね用材料の主流は弁ばね用ピアノ線と弁ばね用炭素鋼オイルテンパー線であった。その後の自動車の性能向上に合わせ、弁ばね用シリコンクロム鋼オイルテンパー線が主に使われるようになった。
 ばねの性能向上には、線の性能改善とばねの造りこみ技術の改善が挙げられる。ここでは、弁ばねに要求される重要な特性である耐久性の向上のための材料開発とばねの後処理技術改善の中で行われてきた例について以下の内容について説明された。
[1].耐熱性向上、窒化に向いた化学成分を持つ合金設計:素材供給の鉄鋼メーカーとの緊密な打ち合わせ、独自の添加元素、Cを0.6%以上にし、Si量を2%、Cr0.85%と増加、Mn量0.35%とP量は最低限にし、V、Moを添加した材料開発。
[2].非金属介在物の低減非金属介在物の低減の精錬:一次精錬、二次精錬+圧延によって介在物が小型化、減少した。
[3].ばねの精度向上、特にピッチ間管理の厳格化:ばねコイルの線間隔を均一なピッチに仕上げるコイリング加工と成型
[4].ショットピーニング多段化:高硬度のショット粒と高弾性・高比重粒化、細粒高速度化によって、より深く圧縮残留応力を付与し疲労強度を高める。
[5].ばねに見合った窒化処理の改良:窒化は表面硬度を上げて疲労強度の向上を図るが、この窒化処理の温度を上げると窒化の深さは深くなり、硬さ高が高くなる。しかし母材の焼戻し軟化抵抗を上げなければならない。
 また、バルブ弁ばねの高強度化には上工程メーカーから部品メーカーまで含んだ共同研究・開発が重要である。
*今後の課題:非金属介在物の低減、レアメタルの使用量の削減、窒化処理技術の改良のほか、使用者にばねに対する認識を持っていただくことが重要である。

2009年3月18日

テーマ:さびと防錆〜私の足跡〜
講 師:田尻勝紀氏(田尻技術士事務所 所長)
(自己紹介)
 日本大学工学部工業化学科を昭和34年に卒業、同年(社)日本防錆技術協会に入社、研究・技術畑で仕事をされ、平成3年定年、平成9年に退職された。
 ・昭和43年技術士試験合格(金属部門)、44年登録・日本技術士会入会、その後会長表彰を受賞。
 ・昭和61〜63年 千葉大学教養学部非常勤講師
 ・平成5〜12年 福島県技術アドバイザー
 ・平成9〜14年 腐食防食協会腐食センター技術相談員
 ・平成6〜18年 同運営委員 などを歴任
(講演内容)
 「さび・腐食」は金属とそのおかれた環境により生じる。金や白金以外の金属は天然では化合物として存在する。これが鉱石で、この安定な姿になろうとするのが腐食である。各金属の電位に序列があるが、環境によって変化する。例えばチタンはマグネシウムの様に活性な金属であるが、大気中では貴金属の様に耐食性が良い。理由は表面に不動態皮膜が出来るからである。
 鉄は水の「有る」「無し」でがらりと変わる。高温では水が無くても「乾食」が起こるが、水の存在下で起こる腐食を通常「湿食」と称する。鉄が水と酸素の共存環境で腐食するのを「さびる」、その腐食生成物を「さび」という。一般に酸素濃度が高いと腐食し易いが、港湾鋼杭では干満帯の部位に比べ干潮位直下は酸素濃度が薄く、酸素濃淡電池を構成して干潮位直下の部位に腐食が集中する。
 そして異種金属と接触している場合は、電位の低い金属は電位の高い金属の犠牲になって腐食が促進する。
 さびは美観を損ねて商品価値を下落させ、構造物は腐食により強度低下により耐久寿命が短縮し、可燃物タンク・配管の腐食は漏洩事故から爆発する可能性もある。
 鉄は希硝酸中では激しく腐食するが、濃硝酸中では金の様に腐食しないのは、鉄表面に不動態皮膜が生成されるためであると説明された。
※防錆・防食の対策について、下記の項目について具体例を挙げて説明された。
 防食設計:次項の4つの手段と構造物のデザインやライフサイクルコスト等を総合的に検討する。
 耐食材料:環境に応じた材料(Fe-Cr11%など不動態皮膜強化、耐候性鋼)を選択する。全面腐食すると予測される場合は、予めさび代分を肉厚に加える。
 環境遮断:金属を腐食環境からめっき・溶融塩めっき、塗装、溶射などにより遮断する。防錆被覆では前処理が重要である。
 環境処理:環境中の腐食物質を除去。環境中に、乾燥剤、脱酸剤、防錆剤を添加する。大気環境での部品の保管にはDICHAN気化性防錆紙による包装が簡便である。
 電気防食:地中埋設管・港湾施設等に外部電極法、船舶の船底はZn、Alなど犠牲陽極となる金属を用いた流電陽極法により防止する。これらの対策も10、20年の経年変化における補修を考えて対策する必要がある。
※防錆協会の目的 ―錆による被害を撲滅すること−
 昭和30年代初め輸出振興の花形ミシン、カメラなど輸出品にさびが頻発した。
 産学官の協力で防錆協会が発足し、技術顧問の山本洋一先生の研究室に協会の試験機器が預けられた。まもなく電気試験所の一室に試験機を移動する時期に卒業したのでそのまま協会に研究員として就職した。
 各種の防錆方法の効果を実証するため、さび発生の実験として各種防錆処理試験片を「巡航見本市船」に搭載を依頼し、中南米・東南アジア・中近東・地中海沿岸等の航路別の貴重なデーターが得られた。
 防錆技術の普及が協会の使命なので、防錆剤の品質規格・試験方法・使用方法・用語のJIS規格作成、普及活動などにより通産大臣賞を受賞。
 技術者養成のため、防錆技術学校を開設した。企業の若い技術者が参加でき易くするため通信教育を提案実施し、指導は技術士の方に協力して戴いた。
 欧米に追いつけ追い越せと海外視察にはアメリカ、ヨーロッパの超大橋梁の見学し、本四連絡橋の防錆塗装系や移動足場等の参考になった。
 また、マイアミの屋外暴露試験場などを参考にして、銚子に協会附属の大気暴露試験場[現:(財)ウエザリングテストセンター]を設置した。
 造船における防錆問題は山積しており、互いにライバル同志でもあるが共通の敵“さび”と戦うため、IHI,NKK,三菱重工,日立造船,浦賀船渠で造船会社防錆技術協議会を組織し、共通の課題を協議した。各社の長所、短所の補完によりお互いが勉強になり効果が上がった。
 船舶の予備スクリューシャフトの防錆には、アメリカ軍が使用した可剥性プラスチック(ベトナム戦争でライフル銃の保護に使用)が便利であった。飲料水タンク内面ライニングでは船揺れによるパンチングで剥離に悩まされたが、付着性向上のため共同実験を繰り返した。
 貨物船の甲板上蒸気管では、一航海で防錆塗膜とさびが瓦煎餅のように剥離するなど問題があった。実船実験により各塗料メーカー製品の一長一短を活かす工夫した。
 各社とも船底の藻や貝殻対策の苦慮話になると、山本先生の「アザラシやイルカの肌に付いてるいのを見たこと無い」の発言に皆爆笑。その後何年かして動物の皮膚を参考に、塗膜表面が経時的に表面が劣化して剥離し常に新しい面が現れる「鰻塗料」自己研磨塗料SPPを開発したところがあって感心した。船の抵抗も減少して殺藻剤や燃費の節減になり、地球環境にも優しくコストダウンと一石二鳥である。

2009年4月15日

1.講演会
テーマ:ゴルフクラブヘッドの製造方法・材料・性能及び最近の話題」
講 師:中原紀彦氏(横浜ゴム(株)スポーツ技術部)
(自己紹介)
 平成元年に横浜ゴム株式会社に入社し、スポーツ事業部にてゴルフクラブのヘッドとシャフトに関する生産技術・評価・構造設計・研究を行ってきた。日本技術士会には2008年3月入会。
(内容)
 横浜ゴム(株)の全事業の内、「タイヤ」が全体の7割を占めて、他に工業品事業部として、航空機部品、接着剤、ベルト、ホースなどの事業のほかにスポーツ事業として「ゴルフ」のみ「PRGR」のブランドで販売している。
・最近のドライバーヘッドは非常に大きくなり容積は最大460CCある。ヘッドを大きくするとスイートスポットが大きくなる。ドライバーは、鋳造加工品と鍛造・プレス品がある。鋳造品はTi合金(Ti‐Al6‐V4)でロストワックスの真空遠心鋳造法によって行い、鋳造後にカットし、ソール部分をレーザー溶接し研磨、完成する。鍛造・プレス品のフェース部は丸棒材から、荒、中、仕上げ鍛造で成型し、ボディ部は平板→ブランク→加熱→曲げ成型を経て、溶接して仕上げている。アイアンのヘッド部は主にSUS630のロストワックス鋳造で製造しているが、そのほかに鍛造品では軟鉄鍛造品がある。最近のドライバーヘッド構造は中空で、その容積が400〜460CCで昔のヘッドの約2倍大きくなっている。
[1].ヘッドの単一構造品は鋳造によるチタン合金であり、鍛造・プレス品はボディ部とフェース部がTiベースである。フェースの厚さは、2.5〜3.0mmと変化させるなどにより機能、性能を高めている。
[2].チタン合金とCFRP(カーボン繊維強化プラスチック)の接合構造の場合、フェース側にチタン合金を使い、他はCFRPを使っている場合がある。接合技術が向上し十分に接着剤で耐えられるようになってきている。ただ、カーボンや薄い金属製の場合は、打ったとき気持ちの良い金属音が得難いため、内部構造を工夫し、リブなどを設けて打球音の音質を高めている。
 アイアンのヘッドは、フェース材料としてYAG350マルエージング鋼、1770M,455などの析出硬化型ステンレス鋼(極低炭素マルテンサイト鋼)を時効したものなどを使用し、ボディ材料はSUS630を使用している。その他軟鋼鍛造品はフェースとボディ両方に使われている。
 ヘッド容積を大きくし、慣性モーメントが大きい設計、製造技術によってヘッドの性能が向上し打点位置がばらついても、飛距離が落ちなくなった。慣性モーメントを横浜ゴム製品の慣性モーメント3800対5700(g‐cm2)で比較した結果、5700の飛距離が、最大で約10ヤード向上し、左右の振れのばらつきが最大8ヤード小さくなっている。
 こうしたヘッドの物性や性能(慣性モーメント)が向上しているので、アマチュアの方はヘッドの大きなものを使うと良い結果が出る。当然、打ち出し角度やバックスピンによっても飛距離が向上する。現在使用されている他社のヘッドの内部構造の比較や慣性モーメントの違い、製造工程や材質の違いなど、調査した結果を詳しく紹介された。
 最近の話題:ゴルフの道具やゴルフボールの性能が向上し飛びすぎる。ゴルフの規格を制定しているR&A(ゴルフ発祥の地「 St.Andrews 」にあるゴルフ協会)がこれ以上の高反発品の道具の開発は駄目としたこと、ヘッドの大きさも460CCが限度と決まった。従って、最近はこの流れに沿って個人に合った道具選び、如何に個人に「フィッティング」させるかに関心移っている。道具もクラブのヘッドとシャフトが別々に多数用意して選択できるなどの工夫がされているのが販売されている。
 横浜ゴム(株)ではフィッティングのための「ヘッド挙動測定器」を開発し、実際にその装置の前でスイングして、打点位置の算出、インパクトの瞬間のヘッドの状況、ヘッドが打点に至るまでの軌道の上下、左右の動きなど正確に捉えることのできる装置によって、プロも自分のスイングの確認や修正をしている。男子プロはヘッドも真直ぐで50m/sec、300ヤード飛ばすが、女子プロはパワーがないのでアッパー気味に打ちインサイドアウトに打って、パワーを補っている。こうしたクラブヘッドの入射角と進入角をフィッティングマシンで調べると、プロは全員、入斜角がスクエアかアッパーブローで、進入角がスクエアかインサイドアウトの範囲にはいっている。アマチュアは色々なスイングをしている。例えばプロの正反対のダウンブローのアウトサイドインで打つ人が多いが、クラブのフィッティングだけで約10ヤード飛距離が向上する。フィッティングとレッスンを融合すればアマチュアゴルファーほど向上の可能性を秘めている。
 こうしたインストラクションを行っている横浜ゴム(株)のPRGR Science Fitが銀座一丁目にできている。是非、皆さんも来て頂けると幸いです。

2.合格者歓迎会
 次第
  1)開会のことば
  2)新合格者の喜びの言葉
  3)乾杯
  4)会食
  5)出席者全員から一言
  6)中締め

合格者歓迎会における集合写真(拡大画像へのリンク)

合格者歓迎会における集合写真

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2009年5月13日

テーマ:無電解ニッケルめっきの高機能化と環境対応技術
講 師:齋木幸則氏(日本カニゼン株式会社基礎研究グループ)
(自己紹介)
 1987年に当時、日本カニゼンの親会社であった小野田セメント(株)(現:太平洋セメント)に入社し、中央研究所にて表面改質技術を研究。1997年に日本カニゼン(株)に出向し、研究開発室にて無電解ニッケルめっきの高機能化、環境技術の研究開発業務を担当し、この間に新製品の海外ライン立上げにも従事した。2009年4月から現職。2008年12月に技術士会に入会。
(内容)
(1)カニゼンめっきの特徴
 「カニゼン」はC(K)atalytic Nickel Generationの略、ドイツ系の発音?頭文字「C」が「K」で「キャ」が「カ」と発音。カニゼンめっきは装飾用ではなく、工業用の機能、特性を必要とする電子工業や自動車産業で用いられている。例えばハーディスク、モータ軸、アクチュエーター、磁石、ヨーク、カバー、シャフト、ブレーキピストンなど様々な用途である。
 電源を使わずに化学反応でNi-P合金を析出させるカニゼンめっきは、膜厚の均一性・耐食性・生産性が高いことから広く利用されるようになった。その理由は、電気めっきの場合は表面に金属結晶が粒状に析出、点在し、その結晶が成長していくが、カニゼンめっきはある点から核生成し水素が発生し、それが面状に急速に広がり、積層状にめっきされるのでピンホールが出来難い。この特徴を更に高度な機能、特性を持たせ、環境問題にも対応するための技術が求められている。ただ、薬品価格が10cm2×1μmでの比較は、電気めっき約0.15円に対しカニゼンめっきは1.0〜1.5円と高い。(析出硬度が高く、生産性が良いが、環元効率が低く、還元剤価格が高い。)
(2)高機能化:Ni-P合金は、P%制御、複合化、合金化により高機能化することが出来る。
[1].P%制御による高機能化は、低リン化(P=1-2%)で高温下の耐アルカリ耐食性が向上し、高リン化(P=12%)で耐熱非磁性が向上する。
[2].複合化による高機能化として、SiC微粒子の場合、液が泥色になるが、めっき内に分散共析し複合化されて硬さがHv1200まで向上し耐磨耗性用途として応用される。PTFEの複合化は難しいが、界面活性剤を使用しきれいに分散させ、低摩擦係数が低下するのでプランジャーなどの無潤滑剤下での用途に利用されている。クラッチカムプレート、ワッシャーなどでは消音の効果が認められている。
[3].合金化による高機能化として3元、4元合金の開発をしている。Ni-P-Cu、 Ni-P-Wの低抵抗温度係数から薄膜抵抗体皮膜として利用され、Ni-P-Bは熱処理なしで720HVと硬く、アルミとの非凝着特性が良いので、アルミ素材の摺動部材の表面処理に使われている。Ni-Co-P-Wは高温硬度が高く高温時の摺動性が良い。そしてNi-P-Zn(カニブラック)は光の反射率が要求される複雑形状の光学部品に優れた機能を発揮して、黒色皮膜としての用途が広がってきている。
[4].還元剤・添加剤コントロールにより析出皮膜の形状制御をすることが可能で、LSI検査装置用プローブとして、アスペクト比の高いバンプ成型を行っている。これは添加剤の非線形拡散性を利用した技術である。ヒドラジン還元剤によって針状皮膜を析出させてモールド樹脂と接着力の強いリードフレームができている。
(3)環境対応技術
 カニゼンめっきプロセスではPb・6価Cr等の規制物質を工程内で使用している。また、電気めっきとは異なり使用済み老化廃液が大量に発生する。この対策として規制物質の代替と長寿命化・リサイクル技術を開発してきた。
[1]. 規制物質の代替技術としては、安定剤のPbを別の金属(Bi等)に代替することがほぼ終了し、後処理剤で使用してきた6価クロメートの代替品も開発した。海外での立ち上がりの方が早く自動車業界では閾値内であればゼロにする必要はないとの考え方もある。
[2].廃液量削減のための長寿命化は、選択的に老化物を除去する電気透析技術を実用化し、不純物金属蓄積による短命化対策には、溶媒抽出技術を利用し実現している。ただ電気透析膜が非常に高く交換サイクルが2〜4年と短いので償却費・維持費が高くなる。アルミ合金用めっきでは前処理でアルミ表面にZn微粒子を析出させないとめっき反応は起こらない。従って、めっき液はZnイオンが蓄積することによりめっき性能が低下し浴寿命が短くなる。有機溶媒と混合しZnイオンだけを抽出する方法でめっき液の長寿命化を達成している。
[3].リサイクル技術は、老化廃液中に5-6g/L含まれているレアメタルのNiを、溶媒抽出法によりNiを回収し補給液として工程内リサイクルしている。Ni価格が高かった昨年秋までは良かったが、現在は価格が下がりコストが厳しい。溶媒抽出技術で抽出剤は高いが、ランニングコストは安い。リサイクルによっても廃液量は微増加し、その廃液中には有機酸とPが残っているため、酸化処理に費用がかかるので今後の課題である。
(4)まとめ
 今後の課題としてカニゼンめっきには、微量重金属、炭素、グレインサイズ、配向性等の制御により新たな機能の発現が期待できる。一方、性能・環境・コストを意識した研究開発が必要である。

2009年6月17日

テーマ:町工場の三代目が技術士を目指す理由
講 師:有限会社 小柳塗工所 代表取締役
(自己紹介)
 中央大学理工学部・土木工学科卒、平成4年に(株)ザナヴィ・インフォマティクス(日立・日産の合弁会社)に入社。開発本部で日産自動車研究所から依頼されたカーナビゲーション機能(音声誘導、バードビュー)の開発を担当してきた。平成9年に家業の(有)小柳塗工所に入社し、専門外の金属塗装(特にカチオン電着)の基礎からはじめ、父の急逝によりその後を引き受け、生産技術・設計・環境および設備対応などを行ってきた。平成12年より現職。
(内容)
(1)(有)小柳塗工所の紹介
 昭和34年設立されて現在、私で3代目である。都内(墨田区)で半世紀にわたり金属塗装を生業としてきた。自社設計ラインで静電塗装とカチオン電着塗装を得意技術とし、従業員7名で現在操業している会社である。受注も本年2月以降落ち込み厳しいが、静電塗装ラインを一般より短くした独自設計により、時間短縮をはかり効率を上げて、営業活動はホームページを中心に半分以上の受注をとっている。
(2)塗装技術について
 工業塗装は屋内工場で専用設備を用いた塗装である。その性質上、素材、塗料、設備、生産システム、環境と多岐にわたる技術要素を必要とする。
 中でもカチオン電着は、塗料に被塗物を浸漬して、電気泳動にて品物の表面に塗膜を析出させて、その後に焼きつけするもので、特徴は付き回りが良く、塗着効率も90%以上、水性塗料なので環境にも優しい。反面、設備が大がかりでイニシャルコストが高いことや常時、塗料を管理する必要があり、色替えが困難などの制約もある。
(3)塗装のトラブル事例
 数十年稼働の工場内におけるトラブルは、配管の腐食、センサー接点の摩耗、チェーンの疲労破断、雨漏りなどのトラブルに直面するとともに、製品としては顧客からの依頼図面に反映されてない内容、例えば前処理工程が電着塗装に及ぼす影響、ダイカストの離型剤に何を使用したか、高温によるクリープ変形など誤った素材情報、板金のレーザーカット端面の酸化皮膜、ヘラ絞りの潤滑油の焼きつき、板金の仕上げ後のバリによって使用者が怪我をする事故など様々な出来事が現実には起こっている。
 また、客先での環境対策や技術革新で製品の加工技術が向上しても、後工程にある塗装では、必ずしもそのことが好結果になるとは限らない。製品設計者は、最終工程となる塗装工程のことを良く考えて、素材から組み立てまでの一連の工程における設計について、より深い配慮が必要であると感じている。
(4)工業塗装業界の現況
 日本国内の塗装を扱う事業所は数万社あるが、それに対して何らかの団体に属する事業所は、数%に過ぎない。現状は工業塗装の組合に加盟する事業所も年々減少している。その理由は、工業塗装はものづくりの中間工程であり、儲けすぎると発注先に引き上げられ、結果的には大きくなれず、零細企業同士は特徴がないと仕事を取りあう。発注先からみて、塗装屋の存在価値は自分たちがやれない仕事や面倒な仕事、量的な調整などと考えられていて、結局はメーカーに取り込まれるか零細企業のままか、二極分化されている。
 しかしながら組合は環境対策などの施策について行政と折衝するなど、重要な役割も果たしている。
(5)業界が抱える課題
 早急に対応すべきは、揮発性有機化合物、「VOC」の削減である。改正大気汚染防止法では、H12年ベースに対してH22年に3割削減を目標としている。しかしながら、技術的・コスト的にも困難であり、現実進んでない。また、団体に属さない事業所の取り組みが情報として入ってこない問題があり、塗装を扱う事業所の協力が今後不可欠である。
(6)まとめ
 塗装は、防食・装飾など「ものづくり」の一端を担っている反面、環境に大きな負荷を与えている。「VOC」削減をはじめとする環境対策は、業界の重要課題であり、課題解決には、塗料・設備メーカー・塗装事業者の協力とエンドユーザーの理解が必要である。また、塗装事業者が業界としてまとまるために、世間への周知と鳥瞰的な立場での情報発信が必要であると痛感している。

このページのお問い合わせ:金属部会

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