ナビゲーションを飛ばしてコンテンツへ
  • 金属部会のホーム
  • 地域本部・県支部・部会・委員会
  • 公益社団法人日本技術士会
  • RSSについて
金属部会

2006年(H18)7月から12月例会講演アーカイブス

所属は講演当時で示してあります。

2006年7月19日

テーマ:航空機整備における金属材料の修理
講 師:高科健太郎氏(日本飛行機株式会社)
(概要)
 講師は東海大学大学院を卒業し日本飛行機(株)に平成14年入社されました。大学院時代の研究はPZT素子、チラノ繊維の電子線照射による引張り強度改良、形状記憶セラミックス、アモルファス金属などの研究をしてきましたが、日本飛行機(株)に入社後は、厚木基地の隣地にある航空機整備・改造を行う航空機整備事業部の特殊工程である、溶接、溶射、表面処理などを行う部署に配属され現在に至っています。
 日本飛行機には航空宇宙機器事業部と航空整備事業部があり、航空宇宙機器事業部は主に航空機部品の製造と宇宙機器の部品の製造を実施しており、航空機整備事業部では航空機の整備及び改修を実施しています。私は航空整備事業部の生産技術グループで特殊工程(溶接、表面処理、熱処理)などの作業指示を行っております。本講演では、あまり知る機会がないと思われる航空機の整備・修理作業および金属材料部品の修理方法について説明を致します。
 航空機の整備とは、耐空性を維持するための作業であり、定期整備、修理作業、改修作業の3つの内容がある。定期整備は、航空機の信頼性を維持するため種々の整備作業(整備要目)を定期的に実施することであります。各々の整備要目の実施間隔は様々で、まとめて実施した方が効率的なものは機会(整備の段階)を設けて同時に実施する。修理作業は、飛行中や地上での定期整備の点検中に発見された不具合の部品の交換・修理を実施することである。計器、システム、などの不具合は、それぞれの装備品を交換することによって修理される。また取り外された装備品・エンジンなどは担当の整備工場へ送られ整備される。機体内の配線、配管等については機体に取り付けた状態で交換・修理をする。改修作業は、航空機および装備品等が、設計通りの強度、機能或いは寿命を発揮できず種々の欠陥を生じた場合、これらを改善するために原設計の変更ならびに改修作業を実施することである。
 機体は大きいので簡単には動かせないので、飛行場(エプロン)から工場(ハンガー)に入れ、ペンキは全てはがした上で分解作業を行い、欠陥箇所の補修やNG箇所の取替えなど修理改造を行う場合が多い。整備作業が完了したものはフライトチェックをする。備品の場合は修理可能なものはショップメーカに送り修理し、分解できないものは代替品を取り付けることになる。
 航空機整備事業部では、定期整備などでの検査により発見された金属材料部品の不具合などを修理する場合は、Doubler修理やBushing修理などが主に実施されている。例えば航空機の機体外板に発生したCrackの修理では、Doubler修理が実施される。本修理の場合には顧客および航空機製造会社より指示されたSRM (構造修理マニュアル)に従い規定範囲の不具合について修理する。Crack及びCorrosionなどのダメージをNDI(蛍光探傷・超音波探傷・渦流探傷)にて確認し、SRMに従い不具合箇所を除去し、製作したDoublerを取り付けます。また、航空機の室内のラックやエンジン周り、配管のCrackおよびScratchの修理では溶接での肉盛り修理なども行っている。バードアタックなど航空機は予測できない事故が起こり、その対処の仕方は現物をよく観察・検査し適切な修理や改造を行っている。

2006年9月20日

テーマ:ドイツ、アメリカにおける燃料電池車輌関連水素利用技術の開発と法規制の状況について
講 師:木村英隆氏(株式会社日鐵技術情報センター)
(概要)
 講師は昭和60年、新日本製鐵(株)入社後、ステンレス鋼厚板の研究開発に約18年携わった。その後、水素用材料の研究開発に移り、高圧ガス保安協会に出向し、NEDOおよび経済産業省の委託事業で、高圧水素中材料試験、海外調査、水素容器用CFRP試験等に関与した。本年5月より、現職で鋼材等の知財管理業務に就いている。
 経済産業省委託事業の一環として海外調査した内容(「高圧ガス」誌2006年1および3月号投稿記事)を紹介する。
 日本、ドイツ、アメリカの3極で燃料電池車関連の水素利用技術開発と関連法規策定活動が盛んである。
 日本は経済産業省の経済支援のもと、世界に先駆け、35MPa高圧水素ガス車載に関わる法規改正と技術基準策定を行った。また、NEDO委託事業では、水素利用に関わる各種技術開発が行われている。燃料電池車ではトヨタ、ホンダ、日産が独自に先駆的な開発を行っている。さらに、JHFCプロジェクトでは、燃料電池車の公道走行試験、水素ステーションの運用がなされ、貴重なデータ蓄積が進んでいる。
 ドイツでは、連邦政府よりも民間企業が主導的に、水素利用技術開発に取り組み、燃料電池車では、DaimlerChryslerとGM/OPELが70MPa高圧水素車載または液体水素車載を、水素燃焼エンジン車では、BMWが液体水素車載を前提に研究開発を進めている。水素ステーションでは、ガス会社であるLindeが、液体水素および70MPa級高圧水素充填機器類の先導的技術を保有しており、日本の水素ステーションや液体水素プラントでも一部技術導入されている。水素中材料データは民間企業或いは連邦政府研究機関が保有して公表しない方針である。DaimlerChrysler、GM/OPEL、Lindeはいずれも意欲的に世界戦略や将来ビジョンを公表し、中国市場を狙った動きも見られる。法規策定は、EUとして液体水素または70MPa高圧水素車載を念頭に、活動が進められている。
 アメリカでは、2003年大統領教書演説の後、大型国家予算が組まれ、過去の水素利用関連データの整理と、新規試験設備の整備が進められている。関連法規に関しては、カリフォルニア州政府と民間企業の共同体で燃料電池車と水素ステーションの実証試験を行っているCalifornia Fuel Cell Partnershipでの自主基準・規制が、各州の事実上の標準となって行くと考えられる。現在、ASMEや国立研究所が中心となり、15000psi (105MPa)級の高圧水素充填を考慮した材料試験データの採取が進められている。特に「破壊制御設計」を基準に盛り込むべく、Sandia国立研究所は世界最高圧力レベルの200MPa高圧水素中静的破壊靭性試験機を用いてデータ収集を行っている。その結果は、ウェブサイトで順次公開される。尚、ASME研究会の中で、高圧水素中動的特性データ取得の重要さも議論されたが、むしろ日本のNEDO委託事業のもとでの100MPa級高圧水素中引張り/疲労試験機整備の方が先行している。すなわち、期せずしてお互いの試験体制は相補関係にあり、協力できれば技術基準策定を迅速に進められる可能性がある。
 今回、日本の「技術士」に相当する“Diplom-Ingenieur”(ドイツ)または“Professional Engineer”(アメリカ)と名刺に記した多くの技術者と面談した。彼らの自信と意欲にあふれ、公平で責任感を持った態度に感銘を受けた。技術士試験受験直後であったので、ぜひ技術士を取得し、海外の技術者と対等の立場で議論したいと思った。

2006年10月18日

テーマ:アルミニウム複合材料開発
講 師:上井久雄氏((株)曙ブレーキ中央技術研究所)
(概要)
 講師は昭和51年千葉工業大学工学部金属工学科を卒業し、曙ブレーキ工業(株)に入社、アルミニウムの鋳造法に関して金型鋳造の生産技術、高圧鋳造の生産技術、アルミニウム基複合材料の開発などの金属加工を行い現職に至っている。
 アルミニウム基複合材料(MMC)の複合化方法としては鋳造法、加圧法、非加圧法など色々な方法で実施されているが、現在は鋳造法、加圧浸透法が生産の主流となっている。今後は粉末冶金法や反応浸透法へと移行するものと考えている。MMCの市場については自動車部品への適用は一段と進みつつあるが、自動車以外の部品への適用事例も広がっている。例えば高速プレスのスライド部は軽くて高速化が可能であり、工作機械部材や半導体装置の部材は軽くて熱膨張が小さいなどの特徴から使用されている。アルミニウムMMCはその特徴を生かした電装部品や精密機械部品へと展開するものと思われる。しかし、MMCは量的にも技術的にもこれからの技術であり、地道な研究開発が必要である。
 米国のLANXIDE社が開発した非加圧浸透法は加圧や減圧処理を行わずに溶融アルミニウムをセラミックスに浸透させることができる方法であり、セラミックス強化材の体積含有率の高いMMCが製作でき。強化材の偏析の少なくコストパフォーマンスの高い製法である。
 今回は講師らが開発した「非加圧浸透法による自動車用ブレーキディスクロータの開発」はMgおよびN2雰囲気で加圧や減圧を行わずに、溶融アルミニウムをセラミック成形体(プリフォーム)に浸透させる方法である。
 特徴はアルミナ粉末の表面は溶融アルミナが濡れ難い性質があり、その濡れ性を改善するためにアルミナ表面にMg3N2層を形成する。この層は熱力学的に不安定であり、安定なAlN膜が形成される。この反応が繰り返されてアルミナ粉末の微細な間隙まで毛細管現象によってアルミニウムが浸透する。これによって製作された材料の特徴は強化材の体積含有率(Vf)を30〜70%と任意に選定でき、強化材はAl2O3、SiC、Si3N4、B4C等の粒子や繊維が選定可能である。また、製造方法はAl2O3とバインダーを攪拌し、金型にてブレーキディスクロータ形状に成形し、炉内でMg+N2雰囲気、温度750〜900℃でアルミニウムを浸透させる。作成した製品の機械的・物理的特性は鋳鉄(FC200)と比較し、引張強度、疲労強度、縦弾性係数に優れ、熱膨張率は鋳鉄に近い値を得た。ブレーキディスクロータの評価試験においては、効きの安定性、耐熱性、摩擦特性、ロータ熱変形対策等について試験データをもとに示し、Al2O3 37Vol%/Al MMCをブレーキディスクロータに適用した結果、ロータ評価試験より良好な結果が得られている。しかし現行装着されているFCロータと比較すると、耐熱性が低いため車両への適用に当っては、車両重量、性能に応じたロータ形状、容量等の設計上の工夫が必要である。

2006年11月1日

見学会
見学先:新日本製鐵(株) 総合技術センター 君津製鉄所
1.新日本製鐵(株) 鉄鋼研究所の見学(10:20〜12:45)
(1)執行役員 技術開発本部鉄鋼研究所 所長の大下滋様から新日鐵(株)鉄鋼研究所の概要をご説明戴き、日本技術士会の皆様をお迎えできて大変光栄に思うとのご挨拶があった。
(2)新日鐵(株)技術開発本部鉄鋼研究所、溶接接合センター所長石川忠様から鉄鋼研究所の研究内容及び見学する予定である主な技術の具体例の紹介を戴いた。
(3)研究本館のセントラルコリドー展示物及び開発棟の見学:
 自動車の衝突時の安全性向上のため高強度鋼板のミクロ組織の解明や衝撃エネルギー吸収能力の解明をした例や厚さの違うハイテン鋼板を溶接、テーラーブランクで自動車ボディに成形後の衝撃性能の評価例。接合用Li系ろう材の開発、ハイドロホーミングによる成形例、Tiクラッドでメンテナンスフリーになった海ほたるの橋脚の例。酸化物添加によりHTUFF鋼は溶接温度で微粒子の開発などの説明を受けた。
 試験室ではアトムプローブ電解イオン顕微鏡により結晶構造と原子の配列を観察し明石大橋に用いるケーブル強度160Kgf/mm2を180Kgf/mm2に高め長スパンの橋を可能とした例。また、2電極のVEGA溶接機による船舶用鋼板の厚板のテスト溶接作業を見学した。実験棟には高速破壊試験機を始め100、200、400、2000、8000トンなどの大型破壊試験機と破断サンプルを見学した。
(4)昼食を取りながらビデオにて研究所内の詳細な紹介を戴いた。
(5)吉武名誉部会長から所長大下滋様始め関係者に見学会のご配慮に対して感謝のお礼を述べた。

2.新日本製鐵(株) 君津製鉄所の見学(13:15〜15:30)
(1)君津 製鉄所の概要の説明とビデでの紹介;
 「日々新たに」が合言葉。1000万トンの生産を誇る世界最大級の製鐵所である。鉄鉱石は海外から輸入、高炉にて溶解しスラグと銑鉄にし、銑鉄は転炉で炭素をのぞき二次精製後、連続鋳造によってスラブ、ブルーム、ビレットにする。さらにユーザーの要望ごとに熱間圧延薄板は自動車、家電、建材用にする。各種の鋼管は水道、ガス管、ビル、橋や各種の産業用に使われている。また、冷間圧延薄板を溶融亜鉛めっきして自動、家電、建材用に供給している。線材はスチールタイヤ、つり橋ロープ、ボルトなどにする。大型鋼片(ブルーム)は建設、橋、工事用度止めなどに利用されている。一方、副産物であるスラグ、ダスト、スラッジの再利用を積極的に行い例えば、スラグはセメント材に、工場排熱は電気エネルギーなどに利用している。
(2)講演:新日鐵の環境経営(講演者:環境資源エネルギー部 スラググループリーダー 遠田祐治様)
 君津製鉄所におけるリサイクルは1990年までは産業廃棄物の副産物の拡散を防ぐことを中心行ってき1990年以降は資源保全のための製鉄所内のリサイクルを実施した。天然の鉄鉱石はCaO、SiO2が残る。これを高炉セメントに25%ほど含め使用している。これまで捨てられていたダストや含水スラッジ、亜鉛含有ダストなども資源保全のために再利用している。
 環境に配慮して廃プラ処理によって発生する炭酸ガス排出を削減する取り組みとして、自治体から回収されたプラスチック系の廃棄物を事前処理してコークス炉で熱分解処理工程を経て再商品としている。新日鐵の全体で19万トン、君津では8万トンを利用している。産業廃棄物は分別がされているが家庭の廃棄物は千差万別で問題、自治体の処理費用の負担が増し困っている。
 ビデオにて「生まれ変わるプラスチック」コークス炉での再生が紹介された。
 君津でのリサイクルのプロセスは自治体から搬送されたプラスチックを人手で選別する。粗破砕してさらに磁気、比重などによる機械選別とPVCの除去をする。次に二次破砕をして小さく整形し、熱分解処理の工程であるコークス炉で石炭と混合して炭化室内に投入される。プラスチックは1200℃で熱分解してメタン、水素、ベンゼン、トルエンなどに分解さる。再商品に利用されるのは炭化水素油にして40%がスチレン系樹脂やベンゼン、トルエン、キシレンなどの軽質油とタールにしてピッチコークス、カーボンブラック、フェノール樹脂などになる。また20%はコークスとして高炉に投入して鉄鉱石の還元剤として利用される。あと40%はコークス炉ガスが製鉄所内の発電などのエネルギー源に再利用、エネルギーを無駄せず地球環境を守る努力をしている。
(3)君津製鉄所の見学;
[1].廃プラリサイクル処理設備
 容器リサイクル法が制定され7年前から君津 製鉄所にて廃プラの処理工程が設備され、一般家庭からの廃棄物を含め処理する設備は新日鐵の北海道から九州までの5箇所ある。君津製作所では3ラインあり処理能力が7500万トンで日本の約13%を処理している工程を見学した。
 工場自治体から梱包され搬送された廃プラを保管する部屋、梱包を供給コンベヤーで開梱破砕装置に投入、破砕された廃プラはコンベヤー上でプラスチック以外の金属、ガラス、土砂などの異物を手作業にて選別し粗破砕装置に供給する。そのあと電磁式で鉄を除き、渦電流式ではアルミなどの非鉄金属除去する機械選別機にかける。さらにPVCを除去する装置にかけたのち、二次破砕装置でさらに粉砕し風力選別によって重いものおよびライター、スプレー、電池など危険なものをとり除き、減容成形装置にて20〜50mmほどの塊の造粒物に成形する。この状態ですこし離れた場所のコークス炉にパイプコンベヤーにて供給して、石炭と混合し炭化室に投入して密閉した無酸素状態で熱分解し、炭化水素油、コークス、コークス炉ガスなどに再利用されるとの説明を受けた。
[2].第4高炉の見学
 君津製鉄所には現在高炉が3基あって、今回は最大の高炉である第4高炉の見学をした。この高炉には数多くの鉄道線路が敷かれ鉄道の運行管理を別会社が行っている。これは高炉で溶解された銑鉄とスラグを搬出するためである。原料を投入し8時間で溶融された銑鉄が取り出される。当日も列車に繋がれたイピードルに銑鉄の溶湯が流し込まれそれを転炉に移すために順次搬出していた。
 転炉では銑鉄に酸素を吹き込み脱炭し0.1〜0.01%まで炭素分を低減し鋼材にする。この第4高炉前にて、以前天皇陛下がご覧になったといわれる場所で全員の集合写真(写真)を撮った。
[3].質疑応答
Q:中国、韓国に新設備が入っている。新日鐵の競争力は?10年20年後になると果たしてどうか?
A:設備が良くても必ずしも良い品質のものが現在はできてはいない。鉄は基盤材料であることにかわりないので技術のイニシアチーブは今後もとっていきたいと考えている。
 また鉄鋼業がなぜ日本にある、海外に進出した日本企業、例えば自動車などの材料を供給し続けることも重要な役割である。そのために高い技術力、品質で競争力を持つ努力をしていきたい。
(4)化学部会長北本様から本日の工場見学をさせて戴き感銘を受けたと感謝の意を述べた。

新日本製鐵(株)総合技術センター(富津)(拡大画像へのリンク)

新日本製鐵(株)総合技術センター(富津)

(画像クリックで拡大 43KB)

新日本製鐵(株)君津製鉄所第4高炉前(拡大画像へのリンク)

新日本製鐵(株)君津製鉄所 第4高炉前

(画像クリックで拡大 43KB)

2006年11月15日

テーマ:高強度ボロン鋼部材の表層組織を均一化する焼入れ方法
講 師:四十物剛介氏(TRWオートモーティブジャパン株式会社)
(概要)
 講師は大学卒業後、平成7年にTRWオートモーティブジャパンに入社した。会社は1970年TRW社との合弁会社として設立され、主に自動車のパワーステアリングを製造、高強度材料を横型の多段ヘッダーや、異型部品のパーツホーマーなどによって冷間鍛造部品を製造している。その中の特殊ボルト類の冷間鍛造による製造の技術業務を担当してきた。当初は熱処理工程の管理の改善や金属材料試験の技術の向上につとめた。その後「真空浸炭方法の低コスト化による耐磨耗部品の高寿命化と量産技術確立」や「強度1000MPa級ボルト材料の低廉化」および「ボルト材料の超高強度化(強度1,400MPa超級)」などの開発を行い、現在は「非調質鋼の超高強度化」の開発に取り組んでいる。
 各国でもこの種の製品が加工できるようになったので、今後は高強度材の品質向上やネットシェープによるコスト削減などが重要な課題である。
 高強度ボロン鋼とは、強度1000MPa級の従来鋼SCM435(JIS)に対し合金元素を節約し、コストを20%ほど低廉化できる将来有望な材料である。しかし、この材料を用いた部材に従来の焼入れを施すと表層は不完全焼入れ組織となり、表面組織にフェライトの層ができる。この問題を解決する焼入れ方法を開発したので紹介する。
 高強度ボロン鋼の採用が進まない理由は、従来の焼入れにおいて表層に不完全焼入れ組織(フェライト)が発生し、疲労強度が低下し遅れ破壊が発生する。これまでの解決法は焼入れ炉内雰囲気を調整して脱炭を防止する方法が一般的であった。しかし、この方法では焼入性の向上に必要な元素を多く含むクロムモリブデン鋼(SCM)を始めとした高級鋼に対しては有効であるものの、ボロン鋼に対して完全対策とはならない。この問題に潜在する不可避な原因として、焼入れ加熱中に生じる脱ボロン現象が既に知られている。
 表層のフェライト発生の原因を究明するため要因分析を行い、試行錯誤を繰り返したが要因にあげた項目では解決しなかった。その解明のきっかけは、焼入れ油の違いである。炉内雰囲気調整を含む試行錯誤の末、焼入れ初期段階の焼入れ油中における「蒸気膜崩壊時間」に着眼した。従来の油に較べてマルテンパー油では蒸気膜崩壊の速度が速く、下部冷却が遅い。このことによって表面層にはベイナイト組織が混在するが、フェライトは存在しないことがわかった。そして脱ボロンによるフェライト変態線図の変動を解明した上で、焼入れ油の冷却性能改善を行い、量産試験によりその効果を確認した。今後は表層フェライトの定量評価、実炉での評価方法の確立、類似鋼種への応用及び標準化が課題となる。

このページのお問い合わせ:金属部会

ページトップへ