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2025年11月 建設部会講演会(報告)
■開催日時:2025年(令和7年)11月19日(水) 18時00分〜19時30分
■講演名:鉄道の安全性向上の歩み 〜歴史の振り返りとこれから目指すべきもの〜
■講演者:西日本旅客鉄道(株)常務技術理事 社員研修センター所長 潮崎 俊也氏
■講演場所:機械振興会館 6-66会議室(東京都港区芝公園)
■講演方法:会場(対面)+WEB会議方式
■参加者:会場参加:25名(うち非会員 1名) WEB参加:75名
1.はじめに
鉄道は社会の基盤として多くの人々の生活を支えており、その安全確保は極めて重要なテーマである。過去の事故の教訓や統計データを踏まえ、ヒューマンファクターや施設・設備の維持管理、さらにはイノベーションの導入など、多角的な視点から安全性向上の取り組みが進められてきた。
鉄道事故の歴史的背景や社会的インパクト、現代における安全対策の進展、そして今後の鉄道事業に求められる課題について考察いただいた。安全の追求には終わりがなく、常に新たなリスクへの対応と改善が求められている。これからの鉄道の安全確保に向けて、関係者一人ひとりの英知と努力が不可欠であると考え、本講演会を企画した。
2.講演の概要
本講演会では、「安全論に関する根源的考察」、「鉄道事故の歴史と教訓」、「鉄道事故統計に見る変化」、「社会全体の安全について」、「今後の安全対策にとって最も重要なことは何か」、このような構成で講演が行われた。以下にその概要を記載する。
(1)安全論に関する根源的考察
鉄道の安全の本質は、常に存在する「危険」に対して人間が知恵と努力を重ね、より高い安全を追求し続けることにある。安全は自然に得られるものではなく、絶え間ない取り組みが不可欠である。鉄道運行の初期はダイヤのみが頼りで、信号もなく危険が多かったものの、手旗や機械式信号の導入など技術革新によって危険度は低減した。しかし、新たなシステム導入ごとに新しい危険も生じ、対策の歴史が積み重ねられてきた。
東京大学井口名誉教授の見解によれば、危険率が一定以下であれば人は安全を意識しなくなる。鉄道の死亡危険率は極めて低く、社会的にも高い安全性が評価されている。
しかし、社会の安全意識や評価は時代とともに変化しており、鉄道には「ヒューマンファクター」「レール・車輪の宿命」「ハコ物の宿命」「部外事故」という4つのリスクが存在する。ヒューマンファクターによる運転取扱い誤り、システム由来の脱線、火災・災害、踏切や人身事故などが主なリスクであり、これらに対して技術的・人的な対策が積み重ねられてきた。
(2) 鉄道事故の歴史と教訓
鉄道の安全性向上は、過去の重大事故の教訓をもとに積み重ねられてきた。ヒューマンファクターによる事故やシステムの宿命、火災・災害、踏切や人身事故など、鉄道には様々なリスクが存在する。1950年代から1960年代にかけて、信号見落としや運転ミスによる重大事故が相次ぎ、ATS(自動列車停止装置)の導入が進んだ。国鉄・民鉄それぞれで異なる経緯をたどりながら、技術的・社会的な安全対策が発展してきた。
新たなシステム導入ごとに新しい危険も生じ、対策と改善の歴史が続いている。システムと人間の関係性にも課題があり、保安システムの誤作動やコミュニケーションエラーが事故の遠因となることがある。複数の事業者や関係者が関わることで、体制や立場の違いが新たな不安定要素となる場合もある。火災や災害による事故も発生しており、車両の難燃化や盛土崩壊対策など、現場の教訓をもとに具体的な対策が講じられてきた。貨車の脱線事故や通勤路線での乗り上がり脱線事故など、原因究明と対策の共有が重要視され、運輸安全委員会などの役割も強調されている。事故調査の結果をもとに、管理値の設定や脱線防止ガードの設置など、具体的な安全対策が提言されてきた。
(3) 鉄道事故統計に見る変化
鉄道の安全性は、事故の教訓と安全対策の積み重ねによって明らかに向上している。統計データによると、鉄道運転事故の発生件数や列車百万キロあたりの事故件数、死傷者数は長期的に減少傾向にある。踏切事故や人身障害事故も減少しているが、一方で輸送障害(30分以上の遅延や運休)は増加傾向にあり、その要因分析と対策が重要となっている。
輸送障害の増加には、動物の線路侵入や沿線火災、踏切関連、線路内支障など部外原因が大きく影響している。特に動物による障害は過去20年で約16倍に増加しており、踏切関連や沿線火災も増加していることから、その他の要因も含めて複合的な対策が求められている。
(4) 社会全体の安全について
鉄道の安全性に対する社会の評価は、事故の統計的減少にもかかわらず、報道や社会の安全意識の変化によって常に高い水準が求められている。マスメディアの報道量は時代とともに増加し、死者数が少ない事故でも大きな社会的インパクトを持つようになっている。道路交通事故の死者数も大幅に減少しており、社会全体の安全水準は向上しているが、安心感は必ずしも比例していない。
安全の向上には終わりがなく、事故につながる芽を摘む姿勢と洞察力が重要である。統計データや社会状況から、部内原因のトラブルについてはソフト・ハード両面で重点的な対策を行い、重大な事態の発生を限りなくゼロに近づける努力が求められる。ヒューマンファクター由来の安全の深度化や、施設・設備・車両の適正な維持管理が今後も重要な課題となる。
(5) 今後の安全確保について最も重要なことは何か
鉄道の安全確保においては、ヒューマンファクターが重要な課題となっている。自動化や機械化が進んでも人の役割は不可欠であり、科学的知見を活用してエラーの低減を目指すことが求められる。ヒューマンエラーの背景には、作業の慣れや意識の錯誤、体調不良、知識・経験不足、コミュニケーションエラー、権威勾配、組織の心理的安全性など、個人・組織両面の要因がある。
安全最優先の風土づくりやコミュニケーションの活性化、経験事象の共有・共通化が重要である。特に「確認会話」のルール化や、他部署・社外のトラブルを自分ごと化する姿勢が推奨される。また、施設・設備・車両の維持管理については、従来の人手中心の方法では限界があり、イノベーションの導入や働き手のパラダイムチェンジが必要である。
3.まとめ
鉄道の安全性は、過去の事故の教訓や技術革新、そしてヒューマンファクターへの対応によって着実に向上してきた。人の役割や現場の知恵、組織的な対策がますます重要となっており、人口減少や働き方の変化にも柔軟に対応する必要がある。AIやロボットなどの新技術の導入、施設・設備の維持管理や標準化、CBMなどの新しい手法も今後の課題である。安全確保には、現場と組織が一体となった継続的な改善が不可欠だと教えられた。最後に、貴重なお話をいただいた潮崎様に心から感謝いたします。
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