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建設部会

2025年7月 建設部会講演会(報告)

1 開催概要
日時:令和7年7月16日(水)18:00〜19:30
場所:機械振興会館会議室(WEB開催あり)
講師:柏田 仁 氏 技術士(建設部門)
東京理科大学 創域理工学部 社会基盤工学科 講師
演題:激甚水害時の水理現象把握・予測のための新たな観測・解析技術
参加者:会場23名(内訳:会員22名、非会員1名)Web参加者152名

2 講師紹介
柏田 仁 氏は東京理科大学卒業後、建設コンサルタントで河川構造物の設計,河川流の観測・解析・実験業務に従事した経験を持つ。その後、大学院博士課程修了(工学博士)を経て、現在は同大学で講師を務め、マルチハザード都市防災研究拠点にて水理・防災分野の研究を展開している。実務と学術の融合に強みを持ち、特に激甚水害下における現象解明と災害軽減のための新技術開発を専門としている。

3 講演の趣旨
本講演では、近年頻発する激甚水害において、人命や構造物に被害をもたらす水理現象をどのように把握・予測しうるか、その技術的アプローチが紹介された。従来の観測手法では捉えきれなかった時間的・空間的な変動や複雑な流れに対し、三次元流動解析やLiDAR計測といった新技術を駆使して、現象を「見える化」し、今後の防災対策に資することを目的としている。

4 講演内容
4.1社会と水の関係:利水・治水・環境の視点から
水が人間社会にもたらす3つの基本機能 「利水(利用)」「治水(災害対策)」「環境(生態系の保全)」 について整理され、都市やインフラの発展における水の役割が解説された。水は恵みであると同時に、洪水・津波・高潮など災害のリスクを内包する存在であり、水との共生にはその両面を意識した空間整備と対策が必要とされる。
加えて、近年の気候変動により、従来の経験やインフラの想定を超える豪雨・洪水が発生しており、社会資本の「耐力」に依存する治水の限界が指摘された。これに対して、現象の「把握力」や「予測力」を強化する新たなアプローチが求められている。

4.2水理現象の把握手法と三種のアプローチ
講演では、水理現象の理解に向けた三つの主要技術として以下が挙げられた:
[1]現地観測:精度が高く信頼性もあるが、空間的・時間的には限定される。災害時は人的リスクが伴い、観測困難となることが多い。
[2]数値解析(シミュレーション):面的かつ時間的な再現が可能だが、計算条件や初期値の影響を強く受ける。
[3]水理模型実験:流体の挙動を直感的に理解できるが、スケールや条件の制約がある。
これらは単独では不十分であり、互いの弱点を補い合う「組み合わせ」により、実現象に近づくことができると強調された。

4.3 球磨川水害(2020年)における激甚災害の実態
2020年7月の熊本県球磨川水害は、豪雨によって生じた極めて複雑な流動現象と、それによる甚大な被害が全国的に注目を集めた事例である。球磨川の蛇行部では、河道流と氾濫域の流れが一体化し、建物の流出や橋梁の落橋など、多数の構造物が被災した。
この災害の特徴として「複断面蛇行流れ」「三次元的な流況の発生」「高い流体力」が重なり合っていたことを指摘。これまでの観測だけでは被災のメカニズムを十分に解明できない現実があることから、次章の三次元解析が導入された。

4.4 Hy2-3Dモデルを用いた三次元解析と流失リスク評価
柏田氏が開発に関わる「Hy2-3Dモデル」は、平面(2次元)流れの計算に加えて、間欠的に3次元計算を挿入することで精度と効率を両立するハイブリッド型解析手法である。
このモデルにより、家屋一棟ごとに作用する流体力を計算し、建物の構造的な「耐力」と照合することで、流出のリスクを評価する。さらに、建築年代(旧耐震・新耐震・現行基準)ごとに異なる構造性能を考慮し、フラジリティカーブを作成。被災実績との突合を通じてモデルの妥当性も確認されている。
この技術は、将来的には洪水ハザードマップに流体力情報を組み込み、避難判断の高度化にも応用可能とされる。

4.5河道内樹林とLiDARによる三次元構造把握
講演では、河道内の樹木が流況に与える影響に関する研究も紹介された。背負い型LiDARを用いて、樹木の幹や枝葉の三次元構造を高精度に計測し、QSM(Quantitative Structure Model)で数値モデル化。これにより、樹林が流れに及ぼす抵抗を定量的に評価できる。
従来は「見えなかった」樹木の影響を可視化・数値化することで、今後の河道整備・治水設計において、樹林帯の取り扱いや維持管理の高度化につながると期待される。
4.6今後の展望
今後の展望として、柏田氏は「現象の予測可能性」を高めるには、観測・解析技術の融合が不可欠であり、「予測」に基づいた的確な避難支援・対策判断につなげていくべきと強調した。
特に激甚災害においては、水深情報だけでは避難判断は難しく、流速・流体力・構造物耐力といった多面的な指標の統合が重要である。今後も学術と実務の連携により、「命を守る技術」を磨き続ける必要性が述べられた。

5 まとめ
本講演では、複雑化・激甚化する水害リスクに対し、技術者としてどう向き合うべきか、明快な実例とともに示された。特に、現地観測だけに頼らず、「仮想的に現象を再現する力(数値技術)」と「現場の理解を裏付ける力(観測技術)」の融合は、今後の防災・減災技術の柱となることを実感させられた。
【担当】岩部、鈴木、影山、長久保(記)

写真1-講師:柏田仁氏(拡大画像へのリンク)

写真1-講師:柏田仁氏

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写真2-講演会状況(拡大画像へのリンク)

写真2-講演会状況

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