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建設部会

2025年2月 建設部会講演会(報告)

■演 題:君は隅田川の橋に何を見たか?
■講 師: (公財)東京都道路整備保全公社道路アセットマネジメント室  紅林章央 室長
■日 時:2025.2.19(水)18時〜19時30分
■場所:機械振興会館6―66(東京都港区芝公園3−5−8)
■参加者:会場参加者20名(会員13名、担当幹事5名、非会員2名)、 Web参加者 61名

1.はじめに
 1923年関東大震災前の隅田川には、鋼製トラスが5橋(吾妻橋・厩橋・両国橋・新大橋・永代橋)架橋されていました。関東大震災の震害は、隅田川流域では地震の揺れが小さかった事と、橋梁工事が入念にされていたことから僅かでしたが、多くの木造橋は焼失しました。
 従って震災後の復興による橋の架け替えは従来の建設費が安価な鋼製トラス橋でもよいという話もあったようです。しかし復興には様々な形式の橋が架けられました。地形や川幅に大きな違いが無いなかで何故このように異なった橋が架けられたのか見ていきたいと思います。現在、隅田川に架かる橋は1940年に勝鬨橋の工事が完了して、築地大橋、佃大橋、蔵前橋、厩橋、駒形橋、白髭橋、勝鬨橋、永代橋、清洲橋、吾妻橋、中央大橋、新大橋の12橋となり隅田川12橋と称されます。相生橋を加えると13橋です。

2.復興事業で架橋された橋
 復興予算の大半を借金で賄った中で、永代橋や清洲橋は当時一番安価だったトラス橋の約3倍と高価なものでした。(鋼材使用量がトラス橋300キログラム/平方メートルに対して、鈑桁橋は1000キログラム/平方メートルと約3倍であった)しかし、当時の内務省復興局部長・課長から「新時代の到来を市民が体感できるような新構造の橋が欲しい」「既成概念にとらわれるな」という話があり、「技術屋が大いに技量を揮い、そして働く場所にこそ技術の進歩はある」と論じたようです。これにより帝都復興事業では、一度にたくさんの違った形式の橋を架けることが可能になったのだと思います。その橋梁復興事業で対応した事項を下記します。

(1)地震に強い設計・構造を導入する
 震度法を採用して水平方向0.33G、鉛直方向0.165Gを採用する。
(現行基準で土木の場合、レベル1地震で許容応力度設計Co=0.2〜0.3Gの震度法、レベル2地震で塑性域まで耐力検討。建築ではレベル1・レベル2の区別はないが短期地震時のレベル1相当で許容応力度設計Co=0.2G、レベル2相当で土木と同様に塑性域までの耐力検討をしている。塑性域検討ができるのはあくまでも電算機の発達によるものであり、復興局が将来を見据えて耐震設計を実施していることに技術の高さを感じる)
 支承部を弱点にして、水平力が修復の難しい基礎構造に伝わりにくい構造にする。

(2)鉄筋コンクリートを採用する
 基礎・橋脚部に耐火性のある鉄筋コンクリ―トを打設し、使用するコンクリートは水セメント比(W/C)の小さい緻密なコンクリートとする。
 さらに躯体廻りには厚いかぶり(タイルなどの化粧被覆)を採用しており、今でも構造コアを採取して圧縮強度を確認するとフレッシュなままである。震災後約100年が経過しても海水などの腐食に十分に耐えており素晴らしいことである。

(3)基礎構造を重視する
 米国から技術を導入して国内初のニューマチックケーソンを永代橋工事に採用した。2例目の清州橋からは日本人の手だけで工事を実施しており、軟弱地盤における施工技術の高さが感じられる。

(4)耐久性対策を考慮する
 活荷重(積載荷重)の設定にあたって、道路車両のなかに人力車が含まれていた頃、既に自動車荷重として10t〜15t/台を予想して設計を進めており先見性を感じる。(参考:現行使用している自動車荷重として道路橋示方書では車両10kN/平方メートルを採用している)

3.橋のデザイン
 復興橋梁の設計では構造美を重視して門構え、アーチスパンドレルを設計する一方で、橋上の親柱、高欄は華美な装飾は避け、シンプルな構造を採用しました。また、構造は土木、意匠は建築とする分業では統一性に欠けるとし、土木家と建築家が当初から協同して設計に取り組みました。
 復興作業の中核となる復興局橋梁課と東京市橋梁課の職員名簿を見ると土木の田中豊課長(第33代土木学会会長)、谷井陽之助課長のもと、20〜30代の若い土木課員と建築の山口守(日本武道館他)、山口文象(林芙美子記念館他)で構成された復興の勢いが感じられる構成となっています。

4.おわりに
 配布されたテキストに関連して「アーチ橋の版板で耐震診断の結果、板座屈の恐れがあるのでリベットが1列追加になった。今となってリベットは無く、代わりにトルシアボルトを使用して板の裏側からかしめている」という説明を聞いたとき、今の若い人達にはこの板座屈はわかるかなと思いました。
 講演会の最後ですが、講師が「橋梁も鈑桁が主流になってきている。若い設計者が新しい橋をもっと設計して架橋して欲しい」と言われていたのが印象に残ります。最後に、紅林講師には心から感謝申し上げます。
                             以 上
 2月講演会担当:竹中(記)・片山・河瀬

写真ー1:講師・紅林先生

写真ー1:講師・紅林先生

写真ー2:講演会会場(拡大画像へのリンク)

写真ー2:講演会会場

(画像クリックで拡大 15KB)

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