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建設部会

2024年9月 建設部会講演会(報告)

1.概 要
 日時:令和6年9月18日(水)18:00〜19:30
 場所:機械振興会館 6-66会議室
 講師:一般社団法人 クリーン燃料アンモニア協会会長 村木 茂 氏
 講演タイトル:カーボンニュートラルに向けたチャレンジ−水素・アンモニアの役割−
 参加者:会場参加者30名(内訳:会員25名、非会員5名)、Web参加者162名

2.講演会
(1)カーボンニュートラルに向けた世界の動き
 Co2 排出量上位20か国の中で中国、ロシア、サウジアラビアは2060年のカーボンニュートラル宣言であり、インドは2070年カーボンニュートラルの表明となっており、時間軸が合っていないことがわかる。
 上記の国のCo2 排出量の合計(上位20か国)は42 %を超える量となっている。2050年のカーボンニュートラルはそう簡単ではないと言える。

(2)カーボンニュートラルに向けたロードマップ
 カーボンニュートラルに向けてポイントとなるのは電化社会である。電気にシフトして電気をゼロエミッションにすることが基本シナリオである。
 カーボンニュートラルは電化社会であるため、電力需要は30〜50%増加する。電力で脱炭素できないところを水素・アンモニアやCCUS(Co2 の回収・固定)、植林などで補う。その中で水素・アンモニアの役割が大きくなっている。
 電力のゼロエミッション化は、再エネの最大限の導入が重要で2050 年までに再エネを50 %まで上げる計画がある一方で、原子力(新設・リプレース)は課題である。更に水素・アンモニアの活用も重要になる。

(3)日本のカーボンニュートラルに向けた戦略のポイント
 ポイントとして、4つあると考えている。
・省エネルギーのさらなる推進
・電化社会:電力シフトと電力供給の脱炭素化
・燃料の脱炭素化(高温熱利用・航空燃料等)
・鉄鋼、化学等Co2 削減が厳しい(Hard to abate)産業
の対策
 航空燃料の代替がなかなか難しい、液体燃料でのゼロエミッション化がポイントとなる。
 鉄鋼産業では、グリーン製鉄というものがあるが、水素が安くないと難しい。カーボンニュートラルは産業構造の大きな改革である。

(4)GX経済移行債による投資推進策
 2050年カーボンニュートラル実現に向けて、10年間で20兆円規模のGX経済移行債を発行し、民間投資も併せて総額150兆円規模のGX投資を通じて、脱炭素化、経済発展、経済競争力を進めていく。
 分野別にみると、水素等で7兆円〜となっており、既存燃料との価格差に着目した支援、水素等の供給拠点の整備、R & D支援等が挙げられている。
 自動車(34兆円)、次世代再エネ(31兆円)、くらし(14兆円)に多く予算が振り分けられている。

(5)水素社会推進法
 GX債を使って水素を推進していくために、水素社会推進法が2024年5月に国会を通過した。
1)概要
・2050 年カーボンニュートラルに向けて、脱炭素が難しい分野(Hard to abate)も含めてGXを推進するためには低炭素水素等の活用を推進が必要である。
・欧米を中心として脱炭素水素等の確保に向けたグローバルな投資競争が始まっており、技術でリードしてきた我が国といて、脱炭素水素等のサプライチェーンの構築を早期に推進し、脱炭素水素等の市場獲得することが重要である。
・その為に国が前面に立ち、低炭素水素等の供給・利用を早急に促進するために基本方針を策定し、事業者に対する支援措置や規制の特別措置を講じるとともに、事業者が取り組むべき判断基準の策定等の措置を講じる。
2)支援制度
・炭素集約度に基づいて低炭素水素等の活用を推進し、中長期的には炭素集約度を段階的に引き下げる。
・余剰再エネを活用するなどの国内製造事業を最大限支援を行う。
・国内製造だけでは賄いきれない需要量に対する供給量を確保するため、大規模かつ低廉な低炭素水素等の輸入も支援する。
・国内製造、輸入について、GX経済移行債を活用し、まず2030年度までに供給開始が見込まれるサプライチェーンの早期構築を目指す(値差支援)。
・産業競争力強化に貢献し、供給側、利用側双方での強靭なサプライチェーン形成が促進される拠点整備の支援を行う。
・拠点整備計画において、共有設備が含まれていること、明確なビジョンがあり具体的計画が策定されていること、低炭素水素等の広域的供給・利用構想を踏まえていること、地域経済への貢献があることなどが条件となる(拠点整備支援)。
・全国的見地から拠点の最適配置を図るため、拠点とその周辺地域を海上輸送などにより、ハブ・アンド・スポークとして結ぶことで、低炭素水素等の効率的サプライチェーンとなるように配慮する。
拠点整備支援は、基本的にCAPEX(資本的支出)支援(1/3支援)であるが、事業者からは1/2支援の要望を経産省にしている。
 5月17日に法案成立、想定スケジュールとして、価格差に着目した支援は年内に1件目の採択を目指す。

(6)水素エネルギーキャリア
 水素を長距離に運ぶためには、液体で運ぶ必要がある。日本は3つの水素キャリア(液化水素・有機ハイドライド・アンモニア)に取り組んでいる。
 液化水素は、低温で純度が非常に高い。有機ハイドライドは、トルエンに水素を付けて運ぶため水素の貯蔵効率が悪い。一方、アンモニアは、毒性・腐食性があるが直接燃焼(直接利用)できる特徴があり、既存のサプライチェーンで製造・輸送・貯蔵が可能。3つの中でアンモニアが先頭を進んでいる。

(7)水素エネルギーキャリアの比較
 アンモニアは、液化水素と比較して、1.5倍水素を貯められる。液化水素は、-253 ℃で液体になるため、効率が悪く、材料も含めてコスト高である。
 アンモニアの問題は、毒性である。MCHは、常温で液体であるが、脱水素をするためエネルギーロス大きく、コスト高となる。

(8)グリーン燃料アンモニアに期待される役割
 安定した低温貯蔵(-33 ℃)が可能で、水素備蓄に最適である。
幅広い直接燃焼技術で日本が世界をリードしており、日本技術の国際展開が期待される。
 幅広い利用分野が想定される(石炭火力発電、ガスタービン発電、工業炉、船舶燃料、化学プロセス、石油精製、鉄鋼)。
 2020年代後半に米国を中心に日本企業がプレゼンスを確保する大型サプライプロジェクトの実現が可能。
 ブルーとグリーンアンモニアの活用により供給力を確保し、CI値(炭素強度値)の低減を目指していく。
 複数の地区で多くの産業・企業が参画する燃料アンモニア活用拠点の検討・計画が進んでいる。
 多くの日本企業が参画するクリーン燃料アンモニアバリューチェーン構築のファーストムーバーモデルプロジェクトを官民連携により実現し、S+3Eへの貢献と産業競争力の向上を目指す。 併せて、アジア・太平洋地域での燃料アンモニア市場形成をリードする。

(9)燃料アンモニアのサプライチェーン構築の可能性
 天然ガスから炭素分離回収(CCS)技術で精製される水素・アンモニア供給は、アメリカのメキシコ湾が有力であとは中東のサウジアラビアやUAEである。アメリカの問題としては、パナマ運河が水位等で通航に制約があると、喜望峰経由となる場合、輸送コスト高になることが懸念されている。
 再生可能エネルギーから製造されるの水素・アンモニア供給は、インドが活発に動いており、将来ポテンシャルが高いのはチリである。

(10)日本企業によるアンモニアサプライチェーンプロジェクトの取り組み
 アメリカにおけるブルー・グリーンアンモニアプロジェクトの取り組みとしては、メキシコ湾沿岸に集中し、中東やインドにおいてもブルーアンモニアのプロジェクトに商社やエネルギー事業者などが参画している。こうしたプロジェクト参画者が値差支援に手を挙げるのではないかと思われる。

(11)利用技術
1) 石炭火力/ガスタービン
 商用化が最も早いのは、石炭火力(IHI、三菱重工)であり、60 %燃料転換バーナー開発完了、100 %専焼バーナーを開発中である。
JERA碧南火力100万kWユニットで20 %燃料転換大規模実証試験(2024年3月〜6月)後、2027年頃から実用化の予定である。
東南アジアを中心としたアジア石炭火力への展開を計画(AZEC:マレーシア、インドネシア、タイ、台湾、インドでFS等実施中)である。
 アンモニアの発電の主力はガスタービン火力であり、これもIHIと三菱重工が開発しており、2 MW〜60 MW級ガスタービンの専焼システムについて、2025年頃の完成を目指している。
 上記よりも大型の400 MW級アンモニア燃料ACCGTは2030年頃までの完成を目指している。
ガスタービン火力は、石炭火力よりも効率が良いため、電源脱炭素化の切り札となる。
2)工業炉/船舶
 AGC、大陽日酸他がガラス溶解炉で2023年アンモニア専焼試験実施、2025年頃の完成を目指している。
 付加価値の高いガラスや顧客が価値を払ってもゼロエミッションガラスが必要なところに提供しようとしている。
 船舶のゼロエミッション化をする場合にアンモニアとバイオメタノール・カーボンニュートラルメタノールの2つの燃料が挙げられるがアンモニアのほうが有力とみられている。日本のコンソーシアムでアンモニアディーゼルエンジン開発中である。
 2024年に日本郵船は小型エンジンをタグボートに搭載運用する計画し、エンジンルームでアンモニアを使用することの安全対策確立に向けた取り組みを実施中である。

(12)グリーン燃料アンモニアの実装プラン
 アンモニアは、二次輸送(陸・海)が可能であるためハブ&スポークを目指している。ハブ基地を中核とする拠点構想は、6地区8基地が手を挙げている。
 具体的なハブ基地は、北海道(苫小牧)、福島(相馬)、茨城(常陸那珂・鹿島)、中京(碧南)、大阪(泉北)、中国・四国(山口周南・愛媛波方)である。

(13)アンモニア導入拠点形成への取り組み
1)中部圏
導入が先行するJERA碧南火力発電所を中心にアンモニアサプライチェーンを構築である。
中部圏の水素・アンモニアの需要量の目標値では、アンモニアも使用するが、アンモニアを脱水素して水素として使用する。2030年度でアンモニアで150万トン/年、水素で23万トン/年となる。ただし、水素を6倍するとアンモニアと同じになるので、アンモニア換算で約140万トン/年を中京地区で使う動きがある。
2)堺・泉北、苫小牧
泉北エリアでは、三井物産・三井化学・IHI・関西電力の4 社が大阪の臨海工業地帯を拠点とした水素・アンモニアサプライチェーン構築に向けた共同検討。関西地区ではそのほか神戸製鋼の石炭火力での利用が検討されてる。
北海道エリアは、石炭火力発電所の利用を中心に、苫小牧東部地域にアンモニア供給拠点の設置に向けて検討。
同地域を起点とし、道内への供給だけではなく北日本広域圏へのハブ港としてのアンモニア供給を目指している。
3)相馬・茨城
 石油資源開発、三菱ガス化学、IHI、三井物産、商船三井の5社は、福島県相馬地区における海外からのクリーンアンモニアの受入・貯蔵・供給拠点の形成に向けた検討を行い、アンモニアを利用した産業界の脱炭素化、及び相馬地区を拠点とする東北・北海道を中心とした関東以北の広域圏の経済発展に貢献を目指している。
 鹿島地区の北側には日本製鉄が立地し、共同火力や自家用発電所が立地。南側にはJERA鹿島火力や共同発電所、ガラス融解炉が立地。アンモニア利用に向けたパイプラインやローリー払出などのインフラ整備を検討している。
4)周南・波方
 周南地区に出光の製油所があり、LPGのタンクをアンモニアに切り替え、海底のパイプラインで徳山事業所に運び、ナフサクラッカーの燃料とする。トクヤマは石炭の自家発電をアンモニアに切り替える計画がある。
 周南パワー、東ソーも石炭・バイオマス発電からアンモニアでの発電に切り替えを検討している。
波方ターミナル(愛媛県今治市)を一次受入拠点として活用し、内航船にて波方協議会の構成員企業(マツダ・四国電力)を中心とする瀬戸内周辺の需要家向けに供給・販売する計画である。

(14)ロードマップ(サプライチェーン&利用技術)
 2021〜2023年にJERA碧南火力1 GWでの20 %燃転大規模実証、商用インフラ整備を経て2027年ごろに20 %アンモニアを混ぜると50万t/年、2機運用で100万t /年の需要が想定されている。
 石炭火力を中心に300万t /年のうち200万t /年を石炭火力を中心に、更にガスタービンや工業用での需要が見込まれ、2030年代には加速的に増える予想である。
 供給側は、ブルー(天然ガス+ CCS)を入れながら、いずれコストが下がるであろうグリーン(再生可能エネルギー)を導入していく予定である。
アジアの電力・舶用燃料市場への展開 1億トンを超えるサプライチェーン構築を目指す。

3. 所感
 2050カーボンニュートラルに向けて、冒頭で話のあった、各国(中国・ロシア・サウジアラビア・インド)で足並みがそろっていないことに驚きを感じた。世界をリードしてきた日本の技術を国策であるGX経済移行債によって発電時の脱炭素化の加速に将来性を感じた。
 GXに関する世界的な動きから国の動向や技術的な最新の知見、特にクリーン燃料アンモニアの将来性についてわかりやすく講演いただき、多くの質問にも丁寧に応じていただいた村木茂氏に感謝申し上げます。

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写真ー1 講 師

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写真ー2 講演会風景

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