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建設部会

2024年7月 建設部会講演会(報告)

■開催日時:2024(令和6)年7月31日(水) 18時〜19時30分
■講演名 :越水に対して粘り強い河川堤防の構造検討 “一部自立型構造を中心に”
■講演者 :東京工業大学 環境・社会理工学院 土木・環境工学系 教授 高橋章浩氏
■講演場所:機械振興会館6階 6-66会議室(東京都港区芝公園3丁目5番8号)
■講演方法:会場(対面)+WEB会議方式
■参加者 :会場参加25名(会員22名、非会員3名) WEB参加177名

1.はじめに
 ここ数年実施した粘り強い河川堤防に関する研究についての話題提供

2.講演の概要
 堤防の耐越水構造について、配布資料に基づきご講演いただいた。
[1]越水に対する河川堤防強化の経緯
[2]河川堤防の耐越水性について(委託研究実施内容の紹介)

 以下にその概要を記載する。
(1)越水に対する河川堤防強化の経緯
 堤防は計画高水に対して水をこぼさないことが原則である(越水は考えていない)。河川堤防は形状規定で形状を満足すれば耐震、耐侵食等は満足していることになっている。国管理河川で耐越水堤防(アーマーレビー、フロンティア堤防等)の試験施工が1980年代後半に実施されたが、その後の実際の河川堤防への適用は少ない。
 2015年の鬼怒川での豪雨災害が耐越水機能を考える契機になった(インパクト大)。越水時に川裏法面は侵食される。北関東は堤体・基礎地盤ともに砂質土が主体のため堤防への浸透も発生し、堤防が弱くなったところに越水が作用したと想定されている。堤防天端舗装や川裏法尻の根固めは越水に対して有効であった。こうした経験を踏まえて、危機管理型ハード対策(天端、法尻保護(ブロック))が多くの河川で導入されることになった。
 2019年(令和元年)の千曲川堤防決壊では対策工として耐越水堤防(天端舗装+法保護工)が適用された。
その後、「令和元年台風第19号の被災を踏まえた河川堤防に関する技術検討会(2020年)」が開催され、千曲川の事例を他河川にも展開する機運が高まった。
 堤防法面保護方法は色々ある。越水に対して粘り強い河川堤防に関する技術の公募が2023年に実施され、今年6月に結果が公表された。
 これと同時期に国交省水管理国土保全局の河川堤防技術開発を実施した。
「越水に対する河川堤防の強化構造の検討に資する評価技術の開発」:2021〜2022年度
「越水時における河川堤防裏法部の侵食量を評価する技術の開発」:2023〜2024年度
「ねばり強い」がキーワード⇒日本の河川は洪水継続時間が長くないため
「ねばり強い堤防」の基本は下記、2ケースである。
・表面被覆型:堤防天端や川裏法面を保護する構造で土堤原則が堅持される
・自立型:センターコアを構築することで高さを保つ構造であるが、不等沈下、一体性・なじみの不足⇒課題が解決されるとよい。

(2)自立型構造を有する河川堤防の耐越水性
 堤防は浸透の進展と共に特に裏法尻付近の有効応力は減少する。パイピングが起きている状態で越水が生じると堤防裏法尻は特に弱い。
 堤防内に矢板を設置すると浸透が遅くなる。川裏法面は侵食されるが、堤防高はキープできる。
 検討方法としては数値解析、実験等があるが、まず実験を実施した。
・「2020年度の実験(予備実験)」 堤防中央に矢板を入れたケースで実施し、天端舗装があるとどうなるか、クラックが入ると決壊が早くなるかについても調べた。遠心模型実験を実施。
 ※遠心模型実験:土の体積変化は拘束圧に依存する。地盤構造物変形は土の自重や慣性力が起動力であるが通常重力場での模型では自重や駆動力が小さくなる。このため遠心模型実験を導入。
・「2021〜2022年度の実験(国交省受託研究)」鋼矢板二重壁:性能(水深30cm、越水3時間で決壊しない)。
■実験結果まとめ
〇予備実験結果(2020年度):[1]鋼矢板補強堤防は無対策、堤防天端舗装実施した堤防よりも長い時間越水に耐えることができ、天端高を維持できた。(鋼矢板補強の耐越水性が高いことを確認)。[2]堤体内のクラック有無は本実験では侵食速度にほとんど影響しなかった。
〇受託研究(2021〜2022年度):[1]越流水が川裏法面を侵食後、滝つぼのような落下流となり、基盤部の洗掘が増大するが、その後定常状態に至る。[2]矢板の根入れ長、剛性が十分であれば、評価の目安とされる越水規模より厳しい条件でも安定的に堤高が維持される。[3]根入れが不足する場合は矢板下端開くハの字型に破壊する。剛性が不足する場合は川裏側鋼矢板が降伏することで堤高が低下することを確認した。
〇実大模型実験(国総研:堤高2m):[1]越水によって間隙水圧の上昇、川裏側地盤の洗掘は進行が生じるが、一定の流量までは二重式鋼矢板構造による抵抗力が発現された。[2]コア部のせん断変形進行に伴う破壊挙動は脆性的なものでなく、変形速度が鈍化する延性的なものであることを確認した。

(3)設計計算でのモデル化について
[1]洗掘深さの推定にあたり、数値解析による方法と既往データ分析に基づく評価法の開発を進めた。既往データに本研究結果を加えることで、従来よりも多くのデータに基づく経験式を提案した。[2]既存の仮締切の設計手法に洗掘深さを考慮することで鋼矢板の根入れ長・剛性を安全側に設計可能であることを確認した。[3]洗掘を掘削により再現する実務的な計算手法を提案し、洗掘深さを推定した上で鋼矢板の仕様を適切に設定することで、越水に対して粘り強い構造を設計できることを示した。
3.まとめ
 今回、災害が激甚化する我が国において、洪水被害(外水氾濫)から住民の人命・資産を守る河川堤防に関する最新の技術動向(堤防の越水機能向上)についてご講演戴きました。
 河川堤防は「土堤原則」(土以外の材料で構築してはNG)、かつ形状規定となっており、対象とする外力(計画高水)以下の外力に対してはこれまでの外力実績(ストレステスト)に基づき、安全性が確保されています。その一方で、計画値を超える外力の作用(特に越水)に対して、もろい構造であることについて今回、ご説明戴きました。本構造の導入に向けて解決しなければならない課題はありますが、国民(ユーザー)の立場から行政に働きかけかけることも重要だと感じました。最後に貴重なご講演をいただいた高橋章浩氏に心から感謝いたします。

講演担当:榎本、影山、大場、太田、渡邊(文責)

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写真ー1 講 師

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写真ー2講演会風景(拡大画像へのリンク)

写真ー2 講演会風景

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