建設部会のホーム行事案内2024年4月 建設部会講演会(報告)
開催日時:2024(令和6)年4月17日(水) 18時〜19時30分
講演名 :座標で読み解く今時の測量
講演者 :一般財団法人測量専門教育センター専務理事 海津 優氏
講演場所:機械振興会館6階 6-66会議室(東京都港区芝公園3丁目5番8号)
講演方法:会場(対面)+WEB会議方式
参加者 :会場参加28名 WEB参加162名
1.はじめに
インフラ整備などになくてはならない測量データ。この測量データは通常3次元(タテ、ヨコ、タカサ)データとして活用している。しかしながらここに「時間」という概念を取り入れ、4つの量で点を特定する「4次元空間」についての知見を共有するため本講演会を企画した。この講演会が技術士の知識・技術向上につながることを期待する。
2.講演の概要
測量業務において、通常用いている平面直角座標の背後にあるグローバルな座標の定義とその実現、維持管理を中心に講演が行われた。以下にその概要を記載する。
(1)3次元空間と4次元空間
通常の測量ではこれまで平面直角座標を用いて行われてきた。しかしその背後にはグローバルな単一の座標が背景にあり、その維持管理には多大な作業が存在する。
現在の新技術としてGNSSやドローン、UAV等を用いた測量技術は、実は衛星を活用したリモートセンシングであり、航空機や車載等の機材の利用は、2重のリモートセンシングとなっている。この場合、地球と衛星の位置関係がきちんと紐づけられていることが重要である。
通常の測量では緯度・経度・高さの3次元の基準を基に実施されるが、この場合、同じ基準点の共有が前提となる。このため国土地理院が提供している国家座標が必要であり、その担保のために測量法がある。
これに対し4次元座標は、3次元的に位置が明確であってもいつの時点での位置か、時刻(時間)を共有する必要がある。空間内の位置関係に加え、時刻を同時に共有して4つの量で点を特定する空間を4次元空間という。
(2) 時間の定義
1秒の長さが分かれば時間が定義できる。
1950年代は地球の自転速度を基準としていた。1950年代後半から地球の公転(1年の長さ)に変更された。これを暦表時というが、観測に1年という時間を要する。
1967年になると長期的に安定な時を刻むことが確認されたセシウム原子時計が発明され、原子時として定義された。この時の1秒はセシウム133原子の基底状態の二つの超微細構造準位の遷移に対応する放射周期の91億9263万1770倍の継続時間とされた。
このように定義を変更する場合は、元の長さが変わらないように従前の定義とすり合わせを行うため、日常生活では特に意識をする必要はないが、その代わり新しい定義には切りの良くない数値が現れる。
時刻の原点(元期)を定める際に、地球の自転は一様でなく原子時と微妙に異なることが判明しており、閏秒を導入し誤差が0.9秒以内の差に収まるよう調整された。
これに対し、人工衛星の軌道計算やIT業界などでは跳びのない一様な時が必要であり、GPSタイムのように原子時で継続的に刻まれる閏秒なしにできないかという議論が上がった。このため2035年に閏秒を廃止する方向で検討が進められている。
時計の時刻合わせは、GNSS経由で行っている。
(3)位置の定義
位置の定義は、時間の定義と異なり「長さの定義」と「座標原点」、「方向の基準」の定義が必要となる。
1)長さの定義
長さの定義に用いられた基準は、古くは人体のある部分の長さであった。(尺は指を広げた時の親指と中指の先端までの手幅など)
1790年代のフランスにおいて国際間の単位統一が唱えられ、赤道と北極間の子午線の長さの千万分の一を1mと定義した。これを実現するためにダンケルク-バルセロナ間において三角測量(三角鎖)を実施し1mが定義された。
その後、世界的に1875年にメートル条約が締結された。(日本:1885年条約加入)
1960年には原子間の遷移に対応する光の真空中における波長の1,650,763.73倍に等しい長さを1mの定義に変更した。この場合も時間の定義の変更時と同様、元の1mの長さ自体は変えず、従前の定義とのすり合わせが実施されている。このため新たな定義には切りの良くない数値が用いられることとなる。
1083年には、レーザ技術が進化し非常に精度の良い安定した技術が開発され(沃素安定化レーザ)、真空中で一定の時間(1秒の299,792,458分の1)に光が進む行程(波長)の長さに定義を変更した。この時も長さ自体は変更せず、定義に用いた数値は切りが良くない数字となった。
2)座標原点と向きの基準
方位の基準は、天の北極の方位の基準とすべき三角点の北からの方位角を観測して現方位を実現した。高さの向きは鉛直上方を基準とし、原点は平均海面に基づく水準原点とした。これらの原点を基に全国に三角点と水準点を配置し座標系を実現するに至っている。
この場合、測量自体は光学観測であるため、見えなければ測量できない。このため、国家間(海)では網がつながらないため、国家間で異なる座標系が存在していた。
理念的にはグローバルであったが、実際の計算はローカルという状態が1980年代まで続いていた。
1980年代後半になると、小さくて重たく高軌道で安定している測地衛星(LAGEOS等)が登場し、地球重心の位置を正確に推定することが可能となった。
一方、VLBIという技術を用いれば、座標に関わらず2点間を結ぶベクトル(距離と向き)を正確に測定することが可能となり、地球の姿勢、スケールを正確に把握することが可能となった。この結果、地球の軸の向きを天文観測より精度よく決定できるようになった。
これらの技術を用いれば、GNSS等電波を用いる衛星の結合、ネットワークの高密度化、分布の偏りの解消が実現できることとなり、全世界の座標系の統一が可能な状態となった。
(4)国際協力と平和の必要性
世界の座標系の統一のためには、地球全域にできるだけまんべんなく展開し たネットワークに結び付いた追跡局が必要である。
ただし現実的には各国の経済格差等のため、世界的な追跡局の配置には密度に濃淡がある。このため配置が手薄な国には、GNSS、DORISなどの安価なサービスにより高密度ネットワークと結合が可能にしている。また紛争状態にある国では追跡局の連続観測が難しい状態である。このため、世界の座標統一のためには国際協力と平和が必要である。
(5)4次元空間の必要性
地球の自転は遅くなってきており、自転軸もふらついている。また地球潮汐の上下成分は、30cm前後の変動がある。また地球全体のプレート運動による地球の変動により3cm/年程度動いていることが判明している。
このように基準となる地球(地面)を計測する場合、計測した時刻を設定しないと誤差が生じることになる。この対処として、変形分を処理して元期に統一することで時刻の違いの影響を消去(セミ・ダイナミック処理)する方法を用いて正確な座標を算出し、今期の観測から元期において成果を得ることになった。
このシステムの機能を確保するためには電子基準点の動きを連続的に途切れることなく測定する必要があり、そのためには正確な「時間」の定義が必要となってくる。
3.まとめ
地球は剛体ではなく、重心位置も自転軸もふらついており、座標は仮想的なものとなる。また座標には世界を記述する枠組みとしての役割があり、使いやすく、相互に精密に変換できる必要がある。このことから世界を記述するには、単純であってしかも経験している世界とできるだけ似た構造の座標を使用することが望ましい。
また測量の世界は今や宇宙技術や超高精度の時計の技術の進歩により、相対論と量子力学の世界を無視できなくなってきている。
GNSSはリモートセンシングであり、UAV測量、航空測量等は2重の意味でのリモートセンシングとなっている。このように地面から離れたものに依拠する測定の場合、「姿勢」が非常に重要である。新技術のほとんどは地面から離れており、誤差の要因となっている。新技術を活用する際はこの誤差要因に留意することが重要である。
最後に、貴重なお話をいただいた海津様に心から感謝いたします。
講演担当:竹中、三吉、河瀬、大場(文責)
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