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建設部会

2023年10月 建設部会講演会(報告)

■日 時:2023年10月18日(水) 18:00〜19:30
■講演名:SIP第2期国家レジリエンス(防災・減災)の成果と社会実装について
■講演者:国立研究開発法人海洋研究開発機構 付加価値情報創生部門長 堀 宗朗 氏
■講演場所:喜山倶楽部 飛島の間
■参加者:会場参加者33名+WEB参加者136名

1.はじめに
 SIP(Cross-ministerial Strategic Innovation Promotion Program)とは、総合科学技術・イノベーション会議(CSTI) が司令塔機能を発揮して、府省の枠や旧来の分野を超えたマネジメントにより、科学技術イノベーション実現のために創設した国家プロジェクトである。2014年度からは第1期(平成26年度から平成30年度まで5年間)11課題、2018年度からは第2期(平成30年度から令和4年度まで5年間)の12課題を推進している。
 本講演では、このうちSIP(第2期)の課題の一つである「国家レジリエンス(防災・減災)の強化」の概要およびその成果と実装についてご講演いただいた。

2.Society 5.0実現のためのSIP
2-1 Society 5.0
 Society 5.0とは、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会(Society)、 狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く、新たな社会を指すものである。

2-2 事前の備えとレジリエンスの向上
 近未来に想定される大規模災害への対応としては、自助、共助、公助による自律的な最善の対応ができる社会(災害時のSociety 5.0)を構築する必要がある。対応としては、主に直接被害を減らす「事前の備え」と、主に復旧時間を短縮し間接被害を減らす「レジリエンスの向上」がある。「国家レジリエンス(防災・減災)の強化」は「レジリエンスの向上」のための先端技術の研究開発と社会実装を目指している。

3.国家レジリエンスの強化のための情報システム
 大規模災害に対し、国民一人ひとりの確実な避難、広域経済活動の早期復旧を目指して、国や市町村の意思決定の支援を行う情報システムを実現するため研究開発テーマとしては以下のとおりである。
(1) 災害の予測情報を生成・共有する国向けの避難・緊急活動支援統合システム
(2) 国のシステムと連動し地域特性を入れた市町村向けの災害対応統合システム

3-1 研究開発の内容
 激甚化する風水害に対し、大規模災害対応オペレーションを実行するため、衛星、AI、ビッグデータ等を利用する国家レジリエンス強化の新技術を研究開発し、政府と市町村に実装することによる対応力強化を図り、広域的な経済活動の早期回復が可能となる社会の実現を目指している。
[1]被災状況解析・共有(衛星数増加を見据えた運用コスト削減技術開発)
[2]スーパー台風被害予測(ダム・河川・高潮連携システムの構築)
[3]市町村災害対応支援(18モデル市町村にIDR4Mを実装)
[4]避難・緊急活動支援(テーマ間、テーマ内の複数システムの連動実証実験)
[5]災害時地下水利用(関東・濃尾平野の地下水システム高度化)
[6]線状降水帯観測・予測(センシングデータの気象庁への提供開始)

3-2 研究開発体制
 プログラムディレクター(PD)は、堀 宗朗氏が務め、研究開発計画の策定や推進を担う。PDを議長、内閣府及び防災科学技術研究所が事務局を務め、関係府省庁、専門家が参加する推進委員会において研究開発の実施等に必要な調整等を行う。サブ・プログラムディレクター(SPD)は研究開発計画の策定や推進にあたりPDを補佐する。分野横断的な知見を有するイノベーション戦略コーディネーターが、各研究開発のテーマにおいて実用化に向けた支援を行う。

4.各研究開発の研究成果と社会実装
4-1 衛星データ等即時共有システムと被災状況解析・予測技術の開発
 国が被災状況解析・共有システムを運用し、衛星データの情報を一元化・共有することで、発災直後の被災状況を把握する。さらには、災害対応主体が被災状況を基にリアルタイムの広域の被災予測を行うことで、政府の大規模災害等に対する緊急対応の充実を図るとともに、確実な避難を実現することを目標としている。
(1)研究成果
[1] 多様な衛星を一元把握し、広域被害状況を発災後最短2時間程度で提供可能なシステムを開発
[2] 実証実験や実災害対応を通じて、開発技術,システムの検証や改善を実施
(2)社会実装
[1] 国交省・内閣府防災においてシステムの利用体制を構築した
[2] 小型衛星等への対応を前倒しで検討し、社会実装を加速化した

4-2 スーパー台風被害予測システムの開発
 国等がスーパー台風被害予測システムを運用することにより、長時間河川水位予測情報、高潮・高波予測情報を地方自治体や河川・港湾・ダム管理者や住民一人ひとりに提供し、さらに、ダム・水門等の適切な操作を実施することで、大規模水害、高潮・高波から防災・減災と住民の確実な避難を実現することを目標としている。
(1)研究成果
[1] 領域とリードタイムを拡大した予測システムの開発
[2] 1週間前からのダム事前放流による治水と利水のwin-winとなる関係の構築
(2)社会実装
 統合ダム防災支援システムの展開(SIP関連25ダム+商用サービス58ダム)した。

4-3 市町村災害対応統合システムの開発
 市町村のユーザビリティを念頭に、「避難判断に必要な情報の欠落ゼロ」「避難勧告等の発令の出し遅れゼロ」「地区単位等小エリア発令により住民の逃げ遅れゼロ」「意志決定・対応能力向上のための訓練体制の構築により対応できないがゼロ」の4つのゼロを可能とする統合システムを開発し、犠牲者ゼロの実現を目標としている。
(1)研究成果
[1] 10分更新,12時間先の高分解能リスク情報を提供するIDR4Mを開発
[2] 分解能は学校区単位とし、市?村?等の避難判断の意思決定を支援
(2)社会実装
 IDR4Mの運用は、河川情報センターが担当する計画とし、IDR4Mは、国交省等が連携して流域治水に活用し、普及を図ることを目的とした。

4-4 避難・緊急活動支援統合システムの研究開発
 関係機関と連携しつつ、国が避難・緊急活動支援システムを運用することにより、政府の緊急対応の充実を図るとともに、自治体及び国民一人ひとりに、避難に必要な災害情報や必要な物資を提供し、ライフライン等の復旧や災害時保健医療の効率化を実現することを目標としている。
(1)研究成果
[1]自然と社会のデータから被害推移を含む災害動態の自動解析を開発
[2]災害対応機関のシステムを自動的に連動させる個別システムと統合システムを開発
(2)社会実装
 統合システムは内閣府が運用できるよう協議・調整し、個別システムは各省庁等が運用することとした。

4-5 災害時や危機的渇水時における非常時地下水利用システムの開発
 災害時や渇水時の地下水利用を阻む最大の要因は、地下水の現状把握や将来予測ができていないことにある。このため、新たに衛星やUAVを活用した地盤沈下等モニタリング体制を構築するとともに、三次元水循環モデル等を用いて、地下水賦存量や取水可能量を把握し、地下水位を予測するような解析技術を開発することを目標にしている。
(1)研究成果
[1]汲み上げ可能な地下水量を評価する3次元水循環解析システムを開発
[2]災害時地下水利用システム」の研究開発で得られた知見等を活用する旨等が水循環基本計画に記載
(2)社会実装
 複数の地下水揚水シナリオに基づいて、揚水制限に伴う地盤沈下量と経済被害額を解析し、関係者が利用を検討することとした。

4-6 線状降水帯の早期発生及び発達予測情報の高度化と利活用
 市町村による避難エリアの指定や、避難勧告・指示のタイミングの判断等を可能とするよう、国が線状降水帯観測・予測システムを運用することで、線状降水帯観測・予測情報を災害対応主体に提供し、水害・土砂災害からの確実な避難を実現することを目標にしている。
(1)研究成果
[1]線状降水帯の自動検出技術の開発
[2]線状降水帯発生の市町村単位での2時間前発生予測技術の開発
(2)社会実装
線状降水帯の自動検出技術の気象庁への実装、タイムラインに沿った線状降水帯の予測情報を市町村に提供した。

5.SIP第2期後の展開
5-1 衛星ワンストップシステム
 当初計画を上回る研究開発成果が得られたため、SIP後に助走期間を経て、システムの実運用と事業化に目処がつき、民間小型衛星の増加に対応できるシステム運用のため体制構築を構想する。

5-2 統合ダム防災支援システム
 SIP第2期終了時で支援対象は25ダム(日本気象協会商用サービス+58ダム)となり、SIP第2期終了後の具体的なアクションとしては全国1500ダムへ展開する。
[1]流域全体を視野に入れたダム群の連携高度化検討の継続と普及展開
[2]農水ダム、水道ダム、都道府県ダムなどを含む複合ダム群を対象に運用高度化

5-3 IDRM4M(市町村向け災害対応統合システム)
 2022年度までに、18モデル市区町村にIDR4Mが導入され、実証実験・実災害に利用がされている。2023年度以降、モデル市区町村等を中心に流域市区町村に拡大し、順次、実運用を開始して、1700市区町村へ全国展開する。

6.都市のデジタルツイン(SIP第3期)
6-1 SIP第3期(2023年度〜2027年度)
 都市デジタルツインとは、実際の都市の双子となる計算機内の仮想都市であり、各種センシングと各種シミュレーションを組み合わせて、仮想都市の将来予測を行うことをいう。
都市デジタルツイン関連のサブ課題は次のとおりである。
[1]スマート防災ネットワーク(防災用の都市デジタルツイン構築)
[2]スマートインフラネットワーク(維持管理用の都市デジタルツイン構築)

6-2 国交省DPF(データプラットフォーム)の利用
 国土交通省は、保有する多くのデータと民間等のデータを連携し、Society 5.0が目指すフィジカル(現実)空間をサイバー(仮想)空間に再現するデジタルツインにより、業務の効率化やスマートシティ等の国土交通省の施策の高度化、産学官連携によるイノベーションの創出を目指し、国土交通データプラットフォームの構築を進めている。

6-3 まとめ
 第2期では、防災の専門分野技術を持つ研究者と、専門分野知を支援する周辺の研究者が融合し、先端技術を開発し社会実装を実現した。第3期でも防災の最前線を支援する先端防災技術の研究開発と社会実装を推進する。

7.おわりに
 国立研究開発法人海洋研究開発機構の堀氏には、SIP第2期国家レジリエンス(防災・減災)の成果と社会実装の状況について、豊富な視覚的画像を踏まえながらわかりやすくご説明いただきました。限られた時間の中でしたが活発な質疑応答も行われました。最後にご講演をいただいた堀氏に心から感謝申し上げます。

講演担当:片山、金子、加古、鈴木(文責)

写真ー1講師(堀宗朗氏)

写真ー1 講師(堀 宗朗 氏) 

写真ー2講演会会場(拡大画像へのリンク)

写真ー2 講演会会場

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