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建設部会

2023年7月 建設部会講演会(報告)

■日 時:2023年7月19日(水) 18:00〜19:30
■講演名:都市トンネルの温故知新
■講演者:早稲田大学理工学術院教授 赤木寛一氏
■講演場所:機械振興開会館 6-66会議室
■参加者:会場参加者21名+WEB参加者93名

1.はじめに
 我が国の地下建設技術は、これまでのインフラ整備とともにその技術が発展を遂げ、世界に誇る大深度・大土被り・長距離トンネルなどが建設されてきた。しかし、最近、トンネル陥没事故など地盤関係のトラブルが、技術的に高難度工事の増大等により少なくない頻度で生じている。それらの発生原因や背景をトンネル先達たちの金言をもとにご講演いただいた。
 この講演会が建設部門技術士の知識・技術向上につながることを期待する。

2.トンネル先達たちの目から鱗の二十八の金言
 ここでは、2009年11月に発行された「土木学会トンネルライブラリー第22号(目から鱗のトンネル技術士)」をもとに、第二部シールドトンネル編の先輩技術者15名の金言を整理した。
 主な内容は以下のとおりである。
・泥水シールド工法は、理論の上に成り立っているので、適正な濃度の泥水を適正な泥水圧の下で掘削し、掘削土量の確認を行いながら掘進するという認識が欠けている。
・シールド工事において各種マニュアルが整備されており、経験の少ない技術者にとっては有用であるが、経験が多い技術者にとってもマニュアルがあるためそれに頼っている。このためマニュアルまかせのための技術者が基本を理解していないことがある。
・密閉型シールドが一般的となったので、切羽を観察する機会がなくなり切羽の状況が確認することができず、数値データで間接的にしか確認できない、このため、掘削地盤の性状を把握していないと密閉型シールドを使用できなくなることがある。
 以上の15名の先輩の金言をまとめると、マニュアルに慣れすぎていてそれに基づいてシールドマシンを動かしている。密閉型シールドでは切羽状態を常に想像することが重要である。想像するための根拠として土質力学を拠り所に、砂、粘性土から土丹(硬質地盤)を掘削した場合、なにが起こるか想像力を働かせることが大事である。

3.目から鱗の地下建設技術
 国際地盤工学会技術専門委員会TC204の初代委員長を務めた藤田圭一先生を記念して2014年に開始されたFujita Lectureにおいて、2017年4月のブラジル・サンパウロで開催されたTC204が主催する第9回国際シンポジュウムにおいて講演を行った。講演内容は、
 これまで日本で蓄積された建設に関係する技術情報であり、Fujita Lectureで行った記念講演の概要をその後に得られた施工結果を踏まえて紹介する。

(1)外環プロジェクト建設工事
 東京外かく環状道路(関越〜東名)は、練馬区から世田谷区に至る延長約16kmの地下方式の道路であり、極力深度 40m以下に建設するトンネル構造(シールドトンネル) を基本としており、本線とランプの接合部は地中における非開削構造として計画している
 東名側本線シールド(南行)工事現場の東京都調布市付近シールドトンネル直上地表部において地表面陥没が発生した。掘削断面上部の地質は、北多摩層は単一の粘性土層、東久留米層は単一の砂層、舎人層及び江戸川層は礫・砂・シルト・粘土が混在する互層で構成されている。陥没は東久留米層で発生した。東久留米層は、掘削断面では礫層が介在し細粒分が少なく、均等係数が小さい地山であり、掘削上部は流動化しやすい層が地表面近くまで連続していた。トンネルは気泡シールド工法で施工された。
 発生原因は、陥没・空洞箇所の下部がトンネル方向に局所的に引き込まれている現象が調査によって確認されており、特殊な地盤条件下においてカッターが回転不能になる事象(閉塞)を解除するために行った特別な作業に起因するシールドトンネルの施工が陥没・空洞事象の要因と推定される。また、陥没・空洞形成の要因となったメカニズムについてはチャンバー内の土砂・気泡材が分離、土砂沈降及び締固まりが発生した結果と考えられる。
 切羽安定に用いた気泡安定液は、ベントナイト安定液にかわる掘削用安定液として用いられている。気泡安定液の要求性能は、[1]消泡が生じないこと、[2]懸濁液の分離が生じないこと、[3]難透水性の形成、および[4]所定の流動性があることである。気泡安定液の現場管理手法としては、気泡安定液管理図を用いて気泡添加量および加水量を適正に管理し切羽を安定させる必要がある。

(2)リニア中央新幹線
 リニア中央新幹線は、東京都から甲府市附近、赤石山脈(南アルプス)中南部、名古屋市附近、奈良市附近を経由し大阪市までの約438kmを、超電導リニアによって結ぶ新たな新幹線である。このうち品川・名古屋間約286km(うち246kmがトンネル区間)の工事が進捗している。トンネル区間の施工法は山岳工法およびシールド工法である。標準トンネル断面の形状は内径約13mの半円形および円形である。南アルプス区間におけるトンネルの土被りは最大で1400mである。
 品川駅から1.5kmほど南へ行ったところに北品川非常口がある。その大きさは直径がおよそ40m、底までの深さは約83mの立坑である。立坑に施工にあたっては、設置深度が深いため底盤改良や地下水位低下工法などの補助工法を採用している。また、高度に都市化が進んでいる東京都内および名古屋市内においては、「大深度地下」(地下40m以深など)を適用している。

(3)神奈川東部方面線建設工事
 神奈川東部方面線の建設状況については、相鉄・JR直通線と相鉄・東急直通線で採用されたSENS工法および泥水式シールドの土丹層へ適用した新横浜トンネルについて紹介する。
 SENS工法とは、土圧式シールド工法に場所打ちライニングによる地山支持を期待するNATM工法と組み合わせたものである。この工法は東北新幹線三本木原トンネルで本格的に採用され、その後北海道新幹線蓬田トンネルにおいて施工実績を積んで、相鉄・JR 直通線の西谷トンネルおよび相鉄・東急直通線の羽沢トンネルに初めて都市部の上総層を主体とする硬質地盤においてSENS工法の適用を行ったものである。
 相鉄・東急直通線の新横浜トンネは、シールドマシンによる掘削工事を環状2号線の直下で行っていたところ、地表面の陥没が発生した。陥没は2 度発生した。道路陥没の発生原因は、特殊な地質条件下での切羽面の不安定化等の複合的要因によりシールドマシン内に砂質土を過剰に取り込み、砂層に空隙が形成されたことで陥没事故を引き起こした。泥水式シールドの切羽面の保持は、切羽の安定性の確保に注意を払うための検討と管理の徹底をする等、慎重かつ適切な対応を図ることが必要である。とくに、掘削土量の管理においては掘削土量および乾砂量のリアルタイム監視を実施するなどの対応が重要である。

4.目から鱗のシールドトンネル切羽安定の考え方
 土木学会トンネル工学委員会技術小委員会に「土質力学に基づくシールド工法における地盤掘削プロセス管理検討部会」を設置し、去年から活動している。
 土圧式シールド工法におけるポイントは、チャンバー内土砂の塑性流動である。これは土質力学の観点から解明されるべき事象であり、その管理手法の適用範囲を含めて検討を進めることを目的としている。土木学会トンネル標準示方書をサポートするライブラリーの作成を現在作業中である。

5.おわりに
 早稲田大学理工学術院の赤木教授には、我が国の地下建設技術についてトンネル先輩たちの金言をもとに、現在の地下建設技術の現状と課題について、視覚的に画像や映像を踏まえながらわかりやすくご説明いただきました。限られた時間の中でしたが活発な質疑応答も行われました。最後にご講演をいただいた赤木教授に心から感謝申し上げます。
以 上
講演担当:金子、反町、石川、鈴木(文責)

写真ー1講師(拡大画像へのリンク)

写真ー1 講 師

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写真ー2講演会風景(拡大画像へのリンク)

写真ー2 講演会風景

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