建設部会のホーム行事案内2023年6月 建設部会講演会(報告)
■開催日時:2023(令和5)年6月21日 18時00〜19時30分
■講演会テーマ:技術者倫理について〜日本の品質の危機〜
■講 師:榎本 浩 氏 東京都第五建設事務所工事課課長代理
■開催場所:機械振興会館6―67会議室(東京都港区芝公園3−5―8)
■参加者:会場27名(内非会員4名、Web参加156名(合計183名)
1.はじめに
近年、品質不正や事故の報道が多くみられるようになった。2016年くらいから報道が目立つようになっている。以前は、「日本の品質は素晴らしいものだ」と世界的に認められていたが、なぜ、最近品質不正や事故の報道が多くなったか。その中で製造等の現場でどのようなことが起きているのか、確認したい。最後に技術や倫理としてどのようなことができるか確認したい。
2.主な品質不正・事件
主に、性能試験不正、品質データ偽装と、欠陥製品の発覚というものに分けられる。一例として、自動車製造会社である燃費試験の不正事件があった。金属製造会社の強度試験の改ざんや、自動車製造会社の完成検査の不正、ゴム製品製造会社の偽装、免震設備のデータ改ざん、電気製造会社の検査の不正、自動車製造会社のブレーキの検査の不正、エアバックの欠陥製品の発覚もあった。こうした事件が毎年起きるようになってきている。
3.原因についての様々な意見
基礎技術の低下、技術者の基本的スキルや知識の低下が問題視されている。これらは、低コスト化や開発期間の短縮など効率化を進めていく中で、考える機会が減り、かつ教育時間が減少している。
また、顧客の高品質、厳しい納期とコストの要求がある。設備投資を抑制し人材不足の状況が悪化することにより不良品が増える。一方で、メーカーは本来顧客が求める品質を把握しておらず、過剰品質を目指してしまい、かつ適正なコストを支払わないため、現場が疲弊している。加えて、技術伝承の問題も発生している。
さらに、行き過ぎた成果主義により過大な目標を設定され、見せかけの目標達成をアピールするようになり、不正が常習化するリスクがある。そして、検査すべき組織は非生産部門であるため立場が弱く、生産部門に忖度することが起き、不正が発生する可能性がある。
4.技術者倫理からどう見るか
不正のトライアングルというモデルがある。機会・動機・正当化の3点である。技術者としてのモラルには、どのようなものがあるか考えると、成果主義は協調性をあげるより個人の優先順位が高くなる。
組織の中の技術者は、それぞれの立場によって対立し、何を優先すべきか問題となることがある。それは、組織の風土や文化の影響を大きく受けるものである。いま、コンプライアンスを遵守して行動することが求められ、不正に対して内部通報する制度がある。内部通報は通報の仕方が問題であり、通報者が孤立しないようにする必要がある。
また、倫理規定というものがある。倫理規定は行動ひとつひとつを規制するのではなく、意思決定を導くための原則として用いることが望ましい。これが組織内に浸透することで、立ち止まって考える機会となる。なお、技術士倫理綱領が改訂されているので確認して戴きたい。
5.おわりに
日本の品質というのは、国際協力を身に着けるためには高い品質が必要である。だが、高い品質というのは、必ずしも最高水準の高価なものではない。いま必要なものを安く購入することが求められている。高い品質とは、最終顧客に寄り添った機能や性能を提供することである。顧客が求めていない高い品質のものを要求してはいけない。そして、対価は適正に支払う必要がある。持続して社会が成長するためには、みんながwin-winの関係となるように構築する必要がある。
6.質疑応答
・「消極的倫理」と「積極的倫理」があるが、「積極的倫理」を調整するためには、どういったことに取り組んでいけばよいか?
⇒まずは、倫理規定は消極的倫理で始まった。社会で自然環境が悪化し、よりよく生きるためにはどうしたらよいかという考えが生まれてきた。それが積極的倫理である。与えられた内容の通りやるのではなく、社会の中でやっている仕事がよりよく社会に影響を与えられるようになるかを考える。今できることを最大限にやろうという努力をしていくことで、ステークホルダーに満足して戴こうとするものである。言われたことをやっていくだけではなく、社会への影響を考えていくことが積極的倫理につながっていく。
・昨今、働き方改革という中で、ワークライフバランスが叫ばれている中で、こういった背景を教えつつというのが、年配者の課題という風に考える。若手への指導の仕方を教えて戴きたい。
⇒ライフワークバランスで残業するなという。残業しなくなったが、その結果、細かい仕事が溜まり続けている。その一方で、標準的な考え方で設計するのではなく、その背景を考えて設計するようにすることを指導している。
・常識と倫理という言葉の境界をどのようにお考えか?
⇒掘削をするときに、山留をしないで事故が起きた事例があった。まず、法律を考えなければならない。そして技術力の低下が問題である。技術者倫理という観点では、作業時間など日々の状況の中で最善の方法を考えていくものであると考える。法律違反が発生したなら、なぜ法律違反をしたのか、その背景を考えていくと倫理的な判断を誤って事故が起きたと考える。
・主に、生産側の立場で説明戴いた。発注側の動機として、納期や工期が制限になると考える。発注側として、工期や契約変更を認めづらいといったことがあると思うが、考えを伺いたい。
⇒まず、公共事業で影響を受けるのはだれか、住民が影響を受けることを前提に考える必要がある。工事をやっている者として間違ったものを作ってはいけない。それを忙しいのを理由に、設計が間違っていてもそのままやってしまう、工事をそのまま見過ごしてしまう、というのが不正につながる。また、立場や建前が一度決まってしまうと止められないことがあり、見直していかなければならない。
以 上
6月講演会担当:長久保、宮下、太田、越後(記)
写真ー1 講 師
写真ー2 講演会場
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