建設部会のホーム行事案内2023年1月 建設部会講演会(報告)
■開催日時:2023 年1月25日(水) 18時〜19時30分
■講演名:東京メトロにおける土木インフラの保守・防災
■講演者:東京地下鉄株式会社 鉄道本部 工務部長 荻野竹敏氏
■講演場所:機械振興会館6階 6-66会議室(東京都港区芝公園3丁目5番8号)
■講演方法:会場(対面)+WEB会議方式
■参加者:会場参加28名(内 非会員2名) WEB参加91名
1.はじめに
東京メトロが管理する地下トンネルの保守(維持・管理)の現況と防災、DXへの取組み等について聴講し、専門技術・知識の向上を図る目的で企画した。この講演会が建設部門技術士の知識・技術向上につながることを期待する。
2.講演の概要
東京メトロの会社概要、東京メトロの建設の歴史と土木構造物、東京メトロの保守土木、保守土木におけるDXの採用事例、東京メトロの大規模浸水対策、東京メトロの耐震補強について131枚の配布資料をもとに講演された。以下にその概要を記載する。
(1)東京メトロの概要
東京メトロの前身は、地下鉄ネットワークの「建設」と「運営」を事業目的とした特殊法人である「営団地下鉄」で、地下鉄ネットワークがほぼ概成したことから、2004年に特殊会社である東京メトロに生まれ変わった。東京メトログループの理念は、「東京を走らせる力」であり、その実現に「鉄道事業」と「都市・生活創造事業」の2つを柱としている。最近は、「都市・生活創造事業」の収益が増えてきている。鉄道事業は、9路線、195キロのネットワークを展開している。2019年の1日平均輸送人員は756万人、2021年は新型コロナの影響で522万人となっている。
(2)東京メトロの建設の歴史と土木構造物
地下鉄工事の施工方法は、大別して開削工法とシールド工法がある。最も古い銀座線は、100%開削工法であったが、有楽町線、半蔵門線、南北線、副都心線では約7割がシールド工法となっている。また、各路線の駅の平均深さは、新しい路線ほど深くなっている。
東京の地下水位は、地下水の汲み上げ等により1965〜1970年頃に最も低くなったが、それ以降は徐々に上昇しており東京メトロのトンネルの大半は地下水に浸かっている状態となっている。
東京メトロの195.1キロの路線延長のうち、土木構造物は、地下トンネルが85%、残りの15%が橋梁、高架橋、擁壁である。一番古い路線である銀座線は、昭和2年、浅草・上野間で営業を開始しており、今年で開業97年を迎える。銀座線のように、建設から90年以上経過している構造物から、営業開始後10年も経たない副都心線もあり、経過年数が大きくばらついている。
(3)東京メトロの保守土木
1999年山陽新幹線のトンネル内でコンクリートはく落事故、2012年中央自動車道の笹子トンネルの天板崩落事故があった。トンネルの老朽化は、機能損失だけで無く、利用する人命に直結する重要な問題である。東京メトロを安心して利用し続けていただくために、トンネルの維持管理が非常に重要である。
東京メトロが保有する167kmのトンネルの維持管理は、グループの全体で総勢約130名が担当している。作業時間は、終電後から始発までの3時間であるが、現場までの移動、準備、片付けを考慮すると実質の作業時間は、1時間半程度しかなく非常に短い時間の中で、維持管理を行っている。
トンネルの日常的な維持管理は、「検査」・「補修計画」・「補修」のサイクルが基本であり、日常的な補修では対応できない場合は、大規模な修繕工事を実施する。
(4)保守土木におけるDXの採用事例
東京メトロは、保守土木に以下のDXを採用している。[1]日常保守点検へのipadを導入することにより、作業負荷の低減(業務量が1/5程度)、記録方法の共通化、情報共有速度向上(3ヶ月→1日)を実現した。[2]日常保守点検へのドローンの導入で、別日に足場を使用した高所確認を行わなくても近接目視と同等の精度で変状を確認でき、軌道面からでも従来よりも高い精度での確認ができるようになった。[3]DXを用いた検査スキル向上を図るため、視線センサやモーションセンサ等を用いて熟練検査員と若手検査員との着眼点や行動における違いを事例集としてまとめて、教育資料の1つとする取組みを進めている。[4]DXを用いて健全度、経過日数、予算、年間施工量を考慮した補修計画が策定できる補修計画システムを導入することにより、業務量を1/6程度まで軽減できた。[5]DXを用いた大規模修繕計画の策定では、検査情報などの可視化やトンネルの健全性の定量評価手法を導入することで説明性の向上を図った。[6]DXを用いた情報の可視化では、検査や維持管理の状況を簡単に把握できるツール及び統計分析により健全性を定量的に算出する手法を開発した。
(5)東京メトロの大規模浸水対策
東京メトロが進めている浸水対策は、国が管理する荒川のほか、神田川等の東京都が管理する河川の浸水想定に基づいている。対策としては、駅出入口への止水板・防水扉、換気口への浸水防止機、トンネル抗口への防水壁・防水ゲート等が設置されている。
(6)東京メトロの耐震補強
耐震補強は、地震被害の状況及び発布された省令等に基づき実施している。熊本地震以降に補強対象となったRC中柱は駅トンネルに多く、旅客通路部や電気室等に位置する柱は既に案内看板や通信設備等の設備が設置されており、従前工法による補強では、これらの設備をすべて撤去することが必要となり支障物処理費用が嵩むといった課題がある。開削トンネルRC中柱耐震補強工法に関しては、従来の鋼板4面補強などの工法に加え、施工箇所の状況に応じた新規工法(RB補強工法、包帯補強工法、アラミド繊維シート補強工法等)を採用し、効率的に補強を進めている。
3.おわりに
東京メトロでは、メリハリの効いた効率的で説明性の高い維持管理の実現をめざし、日常保守では標準化、効率化、管理精度向上というキーワードを基に、ipadの導入や独自でアプリ・システム開発を行っている。また、大規模修繕では、分析力向上のキーワードを基に、可視化システムの開発や統計を利用した健全性の定量評価手法を開発した。これにより、社員を煩雑で退屈な作業から解放するとともに、その削減した時間を利用してより高度な仕事に注力できる仕組みを実現できている。
この様に、DXを取り入れることにより、効率的に保守を行っている取組を聞き、我々技術士も大いに啓発され土木インフラの保守・防災対策の重要性を再確認し、積極的にDXを取り入れる取組を実施していかなければならないと改めて痛感した次第である。最後に貴重なご講演をいただいた荻野竹敏氏に心から感謝いたします。
講演担当:宮下、竹中、榎本、曽根(文責)
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