建設部会のホーム行事案内2022年4月 建設部会講演会(報告)
講演会テーマ:技術者倫理を身近に感じるために(〜どのように取り組むか?)
講 師:木村 礼夫氏 (株)ジェイアール総研エンジニアリング営業部 部長
開催日時:2022年(令和4)4月20日18時00〜19時30分
開催場所:機械振興会館6―66会議室(東京都港区芝公園3−5―8)
参加者 :会場27名、Web利用187名(合計214名)
1.はじめに
技術者倫理について思うことから話は始まり、倫理に関する事例集とその活かし方・話題提供を受けた後、活発な質疑応答を終えて講演会は終了した。
技術者倫理の大きな特徴は、事例に様々な条件が複雑に入り乱れ、明確な正解が見いだせないことである。又、技術者倫理は技術者に限定されたものでなく、倫理と道徳に本質的な差異はないことである。「誰のための倫理」ということであれば、技術が多様化している中で、技術者は自分の専門以外の知識・見解が求められ、或いは影響を受けており、公衆を意識することが大切になってきていることである。従って、技術者と公衆の関係は個別ではなく、常に公衆に包含される関係になることである。
2.技術者倫理について思うこと
インターネットの普及により情報の拡散が急速化され、しかも多面化(多様化)してきている中で、なぜ不正は無くならないのか 又、なぜ不正は繰り返されるのかということである。
人間は見たくないものは見えなくなり・聞きたくないことは聞こえなくなるという状態におちいる事が多く、負の連鎖(Bad spiral)になることが多いといわれている。組織内で常態化している事象は、新参者には気づき難く、指摘されて初めて気づくことが多い。終身雇用が根強く、「帰属意識」・「忠誠心」が高いと、会社内での「組織の倫理」と「個人の倫理」が一致せず、これが不正発生の要因になってきている。
3.事例と話題提供
不正を確認したらどうするのか。単独行動は避けて、複数で対応することが必要である。公益を確保するために不正をあばく「公益通報」は大切である。インターネットが発達してきておりSNSによる「公益通報」という安易な発信はよいが、相談は苦手である若者が多くなってきている。複数の人に相談することは大切であるが、その安易な発信による自分の行動の違法性に気付かない場合があることもある。「まあ大丈夫だろう」という小さな不正が習慣化していき、その規模が大きくなるとそれを改善するためにはさらに大きなエネルギを必要とすることに注意をして欲しい。
倫理問題事例集をどのように活かしていくか。事例の多くは内容こそ異なるが、原因の本質は類似している場合が多い。「注意義務の不履行」・「不十分な説明責任」等が倫理問題事例集に多くみられる。1986年1月に発生したチャレンジャ号爆発による7名死亡事故は倫理問題としてよく引き合いに出されるが、近年では、この事故自体を知らない若者が生まれており、身近に感じる事例にならないようになってきたようである。事例集には「良い事例」「忘れてはいけない事例」に加えて「創作事例」がある。成功を語りたがらない謙虚な気持ちによる「良い事例集」は外部に表面化し難い。しかし、事例を通して不正を未然に防ぐ努力はされており、これらに注がれた努力は評価されて、これからの若い世代のモチベーションにしていくことは良いことであると思う。
4.おわりに
技術者倫理の話を纏めるにあたり、「公益」と「所属する組織の利益」の選択を迫られる場合が生じてくると思う。不正は決して無くなることはないと思うが、普段から倫理について思っていれば、最悪の事態は回避できると思う。技術者倫理は実践こそが最も重要であり、今から皆さん技術者倫理の実践に取り組みましょうと述べて講演を終了した。
5.質疑応答
チャレンジャ号の発射を見ていた子供達の笑顔が、70秒後には悲しみにかわっていく写真を見ながら、活発な質疑応答に移っていった。以下に、主な質疑応答を示す。
・チャレンジャ号の爆発事故を知らない若者が生まれているとのことであるが、事故の原因として、今言われていることは、O-リングの固着・破損による燃料漏れと、組織上部による打上げ強行とされている。
・これからの時代、知らなかったでは済まされない時代になりつつある。「知らずにやったこと」と「知っていてやったこと」では状況は違う。ここに技術者倫理の問題が生まれてきている。
・不正を発見して社内で話をしている時に、その行動が正しいと判断をして貰う、或いは認知して貰う方法があるのか難しい問題である。オールマイティな解が無いところに技術者倫理の問題が生じている。
・「良い事例集」・「忘れてはいけない事例集」の話を聞いたが、増やしていって欲しいと思う。
・話題提供で学生レポートの話を聞いた。終身雇用で「帰属意識」・「忠誠心」から残業・休日出勤という多忙な会社生活のなかで「小さな不正」という倫理問題の発生はわかる。が、今は残業・休日出勤をさせる会社自体をブラック企業と思う若手社員が生まれてきている。若者達に対して、知識・経験が豊富な社会人(公衆)は技術者倫理をどのように教えていくのか、又 教えていかねばならないか責任を感じる。
以上をもって講演会を終了した。講演会をつうじて技術者倫理の大切さを痛感したしだいである。最後に貴重なご講演いただいた木村礼夫氏に心から感謝いたします。
4月講演会担当:曽根、越後、浅岡(記)
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