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建設部会

2022年1月 建設部会講演会(報告)

日 時:令和4年1月19日(水)18:00〜19:30
講演名:「斜面災害と防災 −もらいものの災難−」
講演者:東京大学名誉教授 小長井 一男 氏
講演場所:機械振興会館6階 6-66会議室(東京都港区芝公園3-5-8)
講演方法:会場及びオンライン
参加者:会場21名 WEB配信105名 合計126名

1.はじめに
 地震による地盤や斜面の土砂災害は、設計技術者が設計する対象物から外れた「もらいものの災難」であるケースが多い。だからといって目をつぶることなく、想像力を働かせ、被害を最小化する努力が技術者には求められる。このための考え方や方策について東京大学名誉教授・小長井一男氏からご講義を頂いた。

2.講演内容
(1)泥地に咲く蓮:管轄外にも目くばせを
・泥地に咲く蓮とは、汚れた環境の中でもそれに影響されず、清らかさを保っていることを言う。蓮の美しさだけが注目されるが、泥地がなければ蓮は生まれないことから、両方(蓮と泥地⇒設計対象と管轄外の状況)を考え合わせて検討する必要がある。
・過去の地震災害においても、地盤や岩盤の変状によるライフラインの被災において変状は二次的なものであり、構造物自身の耐震性は満足していたとされる事例もあり、かつそれらの多くは自身の敷地外からのもらいもの災害とされているが、現実的にはそれで済む話ではない。管轄外にも目くばせする必要がある。
・2004年の中越地震は活褶曲地帯を襲った地震であり断層から10kmも離れた地点に被害が集中している。断層上に構造物を造らなければ大丈夫という事ではない。

(2)弱層が問題:見落としがちな問題
・2018年の北海道胆振地震は、明治以来最大規模といわれるほどの多数の山地斜面崩壊が発生しているが、その最大規模の深層崩壊では弱層の強度が状況を支配している。これは2004年の中越地震、1914年の仙北地震においても同様であり、同じ場所で類似の災禍が繰り返されていた可能性が考えられる。

(3)同じ場所で繰り返す
・2016年の熊本地震や2007年の中越沖地震においても、地盤に残る痕跡を調査すれば、同じ場所で類似の災禍が繰り返されていたことが判る。
・2007年の中越沖地震における道路の被害は丘の縁辺部に多く、それらは地震前からの道路補修箇所と一致している。日常時に変形が進む(損傷が顕在化する)箇所で地震被害が多発しており、道路の補修記録は地盤の弱点をあぶり出している。

(4)それでも工夫して対応しなければならない
・2018年の北海道胆振地震では、送電鉄塔の大半は崩壊斜面を避けて設置されていたが、中には被害を受けた鉄塔もあった。被害ゼロとなるように構造物を設置するのは非常に難しい。
・したがって、ライフラインは地震等により切断されるという前提に立ち、被害発生の場所や被害内容を想定できれば、迅速な復旧が実現しかつシステム全体への致命傷となることを避けることができる。
・想定どおりの被害とするためには、常時の変形の累積データ等から弱点となる箇所を把握し、どのように変形するのか、迅速な復旧が可能か等々、さまざまな想定と検討が必要になる。
・鉄道ならば、万一脱線しても構造物や他の列車との激突を避けることが可能となる対策が望まれる。列車を、危険想定箇所を避けて停車させるような運用も必要であり、過去事例からの反省も必須である。
・鉄道では、北陸トンネル内火災事故を受け、一般的にトンネル内での停止は避けることになっているが、関東大震災時には客車がトンネル内にあり、多くの命を救った事例もある。

(5)土石流が到達するまでには対応する時間がある
・1923年の関東大震災における白糸川土石流は、河口から4.5kmほどの上流部から崩壊したと考えられる。谷壁に残る泥痕跡から土石流の到達時間を推定した結果、地震後4〜5分程度と考えられる。この時間内に人の避難が可能ならばよい。
・Googleのストリートビュー等で稜線の形状を確認するなどして、震災時写真撮影箇所の特定することも可能である。

(6)熱海土石流災害について
・昨年発生した熱海土石流災害において、通常の渓流もまた土石流も過去の土石流が堆積し透水係数の大きい層(Sd層)と透水係数の小さい地山斜面との境界に沿って流下している。下流の沿岸部には、新幹線、東海道線、国道135号が当該Sd層を横断して設置されているが、幸い辛うじて土石流の被害を免れている。今後、地震時の交通機関の運用等を検討する必要があると思われる。
・過去においては、熱海の米神地区で、関東大震災時に熱海線(現東海道線)の盛土が土石流を堰き止めた事例がある。
・もらいものの災難の確率はゼロではなく、想定した箇所を想定したシナリオで壊すことが重要になる。それは地震発生時の被害箇所の迅速な特定・復旧を可能にする。
・それでも100%の安全はあり得ず、列車の運行ルール等、万一の場合の被害インパクトを最小にする工夫も必要である。
・上手に構造物を壊す工夫・技術への正当かつ高い評価と共有が望まれる。

(7)まとめ
・ON/OFF(壊れない/壊れる、管轄内/管轄外)を超える思想を持つことが重要。
・効率を追い求める現代社会では、人は自分を圏外に置いて因果律を見出そうとしがちである。因果律さえわかれば自分は安全な場所からボタンを押すだけで問題解決ができると考えてしまうからである。(京都大学 河合隼雄先生 最終講義)
⇒技術者は因果の中に身を置いて、自分の問題として考えることが望ましい。

3.おわりに
 講演後、講演内容について時間一杯まで活発な質疑応答が行われた。技術のみならず技術者の在り方まで大変興味深いご講演を頂いた小長井様に心から感謝申し上げます。

講演会担当:河瀬、鈴木、石川(記)

写真1:講師・小長井一男氏(拡大画像へのリンク)

写真1:講師・小長井一男氏

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写真2:講演会会場の様子(オンライン併用)(拡大画像へのリンク)

写真2:講演会会場の様子(オンライン併用)

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