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建設部会

2021年12月 建設部会講演会(報告)

開催日時:2021(令和3)年12月9日(木) 16時30分〜18時00分
講演名 :中国の土木事情(インフラ整備と研究環境から学べること)
講演者 :土木学会次期会長 深セン大学 上田多門 氏
講演場所:日本教育会館9F 喜山倶楽部(東京都千代田区一ツ橋2-6-2)
講演方法:講演会場+WEB個人配信方式
参加者 :講演会場参加21名、WEB個人参加 65名

1.講演の概要
 中国深センについて、中国のインフラ、中国の研究環境などについて講演された。以下にその概要を記載する。

(1)中国の深センについて
1)深セン市の基礎情報
 深セン市は、北京,上海,広州と並ぶ4大都市である。1979年に発足し、翌年、経済特区に指定され急速に発展した。人口は約1300万人、 GDPは2.77兆元(約47兆円) 、隣接する香港を超えるGDPで単位面積あたりのGDPは中国一である。
 公共交通機関が発達しており、地下鉄は11路線,営業キロは411km,284駅(東京:13路線,304km,286駅)が整備されている。
深センにはIT大企業の本社があり、IT産業の中心となっている。また、世界の主要なドローン生産拠点でもあり、ドローン企業や部品メーカーが集積している。
2)深セン大学について
 中国の総合大学で1983年に設置された。24の学院(学部)があり、その一つに土木交通工程学院(日本でいう土木工学)がある。交通工学、構造、材料、建設マネジメントが含まれているが、水理関係は含まれていない。また、土木交通工程学院の中に、広東州海洋土木耐久性重点実験室(国、省、都市レベルが認定する重点実験室・研究グループ)がある。土木工学に所属している教員の約三分の一(教員・研究職員は70名ほど)が、この重点実験室に所属している。規模は日本の大学の土木工学分野よりも大きい。
3)中国の粤港澳大湾区 The Great Bay Area
 広州,深セン,香港,マカオ,周辺都市を統合したグレーターベイエリアを経済地域とみなし、北京圏,上海圏に次ぐ第3の経済圏と中国政府が認定し、重点的に強化している。その中で、深センは地理的に中心にある。
 東京ベイエリア(東京・千葉・神奈川)とグレーターベイエリアを比較すると、人口は東京圏の3倍近く、GDPは東京圏並みであり、規模でいうとそれほど変わらないと言える。今後、5年程度で広東州の規模が人口を含め、GDPも日本並みになると推測されている。
 重点的に開発するため香港の国際空港からマカオの間に海上連絡橋を構築するなど、インフラによる相互連結の推進が行われている。

(2) 中国インフラ、日本への教訓
1)中国のインフラ
 高速道路・高速鉄道は東西南北、縦横に通じ、高速道路は総延長約15万km(日本の10倍以上)を30余年で整備、中国全土に片側2車線以上で整備。また、高速鉄道は総延長約3万km(日本の約10倍以上)を10余年で整備、中国全土に高架の複線で整備した。
 航空交通は主要都市には新しい羽田空港以上の空港が最近10年ほどで整備、最大手の中国南方航空(600機以上)などが航空機を運用し発展している。
2)中国のインフラ ―課題―
 急速に発達した中国のインフラ。大量のCO2が中国での構造物建設により排出されているが、(全世界の建設時のCO2排出量が約100億トン。そのうち50%以上を中国が排出と推測される)
 経済発展により、経済活動当たりのCO2排出量を急速に減少させている。
 [1]数十年前に施工した構造物の品質の問題
  ・設計技術、施工技術が不十分であった。
 [2]数十年前に施工した構造物が不要となる問題
 ・生活水準が向上し、要求品質が高まった。政府の都市計画による、撤去の必要性。
 [3]インフラの劣化の問題
  ・日本よりはるかに大量のインフラが対象。
 [4]インフラのライフサイクルマネジメント
  ・周知が不十分、経験不足から技術力も不十分。新しい構造物の技術力はあるが、メンテナンスの技術不足が懸念される。
 [5]日中での協働
  ・日本の経験、技術が必要。学の連携はあるが、産官の連携の構築が課題。中国の政府が公認するセンターを中国の大学に構築し、日中の企業が連携する方式が可能。
3)日本への教訓
・中国は質の高いインフラを整備している。世界No.1になる国だと感じられる。日本のインフラは安全性、耐久性、構造性能の質は高い。機能としての質は中国と比較して高くない。日本のインフラを海外と比較し、正しく評価する必要性がある。

(3)中国の研究環境、日本への教訓
 中国の研究環境は、科学論文の量で世界1位、質が世界2位。米国と競い合っている。数字的にみても、日本よりも進んでいる事がわかる。
1)中国の研究環境
 世界の大学、総合ランキング及び土木部門においても、トップにランクインしている大学は中国の方が多い。
 大学教員数が多いこと、著名な教授をトップとした研究グループを形成しているため研究を量産できる体制が整っている、競争環境がある、大量の若手研究者、博士号取得者の有利な就職、特許取得・書籍出版の奨励などが大学、研究を発達させている。
2)中国の研究環境―課題―
 質より量が重視されている側面があり、研究を愛するというより、成果を出すことを中心に研究をやっている。
3)日本への教訓
 日本は、研究予算が少なすぎる(過去30年間比較して増えていない)、日本人自身の内向的な部分が、論文投稿の減少、採択率の減少に陥っている。質の高い研究も行われておらず、海外に情報を発信できていないことは危機的な状況である。

2.おわりに
 中国との比較から、日本の土木(インフラ整備、研究環境)の現状から見えてくるのが世界的地位においての地盤沈下である。
 この地盤沈下を防ぐため、土木学会はアクションを起こしている。前家田会長の「インフラ体力診断」と現谷口会長の「ビックピクチャー」は、日本のインフラの現状を明確化するとともに、他国との比較から日本のインフラは満足すべきものではないということを自覚しながら、今後あるべき姿を示すことを主旨としている。
 上田次期会長の「日本の土木のグローバル化」は、日本の土木人材の現状を明確化するとともに、日本の地盤沈下を防ぐ人材を育てる道を示すことを目的にアクションを起こしていきたいと述べられた。
 最後に貴重なご講演いただいた上田多門氏に心から感謝いたします。

講演担当:加古、宮下、山岡、太田(文責)
※上田多門氏の写真は日刊建設工業新聞(2021年3月22日)より引用致しました。

写真ー1:講師・上田多門氏(日刊建設工業新聞2021年3月22日より引用)

写真ー1:講師・上田多門氏(日刊建設工業新聞2021年3月22日より引用)

写真ー2講演会会場(拡大画像へのリンク)

写真ー2 講演会会場

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