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建設部会

2021年5月 建設部会講演会(報告)

日 時:令和3年5月19日(水)18:00〜19:30
講演名:「月面建設の課題」
講演者:清水建設(株)フロンティア開発室 宇宙開発部 博士(工学) 鵜山尚大氏
講演場所:オンライン
参加者:WEB全国配信 会員85名

1.はじめに
 鵜山氏は、カリフォルニア大学ロサンゼルス校工学部航空宇宙工学科を卒業後、東北大学大学院工学研究科航空宇宙工学専攻にて博士号を取得、東京理科大学の理工学部電気電子情報工学科でのポストドクトラル研究員を経て、2014年に清水建設に入社と同時に技術研究所に配属、2018年から清水建設フロンティア開発室宇宙開発部において月面建設技術および月資源利用の研究開発をされている。
 本講演会では、国際宇宙探査の動向と宇宙業界の動向、月面建設技術の動向、そして、月面拠点建設の実現に向けた課題について講演いただいた。

2.講演内容
(1)シミズ・ドリーム
・清水建設では、1980年代後半に今までと違う分野での社会貢献を目指し、砂漠や海洋など様々な領域を検討した結果、最も遠い究極のフロンティア領域として宇宙開発に取り組むこととした。
・1987年に宇宙開発室が発足し1988年にコンクリート製月面基地構想を発表、2009年にルナリング構想を発表した。ルナリングは巨大な太陽光発電施設であり、月から地球に送電するシステムである。

(2)国際宇宙探査の動向と宇宙業界のパラダイムシフト
・宇宙探査には国際協力が不可欠である。近年では特に、政府系機関だけでなく民間企業の力が重要になっている。
・国際宇宙探査協働グループ(ISECG)は、各国宇宙機関(現在26か国)により構成され、国際宇宙探査シナリオの共通目標を共有している。
・アメリカは火星有人探査を目標とし、月は火星探査の実証試験の場ととらえている。アメリカの月探査計画はアルテミス計画と呼ばれ、2024年の有人月面探査、その後も定期的な有人探査を目指している。
・日本(JAXA)は月面探査を中心に動いている。無人機での探査や有人探査支援技術を中心に開発を進めている。地面(重力)がある場所での探査技術の成熟を目指している。
・米欧日において民間主導の月探査の気運が高まっている。特に月面極域の水氷はロケット推進剤や生命維持用の飲料水として期待されている。
・従来、NASA、JAXA等の政府系宇宙機関が主導してきたが、現在は民間企業が自ら投資し、宇宙機関がサービス調達する流れになっている。民生部品の利用により誰もが宇宙用機器を作れる時代にパラダイムシフトしている。

(3)月面拠点構想
・NASAは、2024年以降、アルテミスベースキャンプという月面拠点を建設する構想を持っている。当初は機器を全て地球から輸送するが、アルテミス計画後のより先の未来では太陽光やマイクロ波焼結を利用して現地で建設工事を行う提案もされている。
・JAXAは、2030年以降の月面拠点構築を構想している。
・ヨーロッパのESA(European Space Agency、欧州宇宙機関)のムーンビレッジ構想で提案されている初期の月面拠点は、膜構造による空間構築と、放射線および微小隕石から防護するための月の砂(レゴリス)の利用をコンセプトとして示している
・例えば民間でもSpaceXが月面拠点建設の離着陸場構想を持っている。
・日本では、清水建設も参加しているフロンティアビジネス研究会等が月面拠点のあるべき姿や月面でのビジネスについて検討を行っている。

(4)月面拠点建設の基礎情報と課題
・月の環境は地上とは全く異なる(地表面を覆う月の砂レゴリス、クレーター、重力、大気圧、温度、日陰周期、放射線、隕石、磁場、地震動等)。
・地面のある環境での拠点建設に向けて建設業への期待は大きい。
・月開発の検討項目として、探査・調査機器(着陸機、ローバ、観測機器等)、開発シナリオ、月面施設レイアウト(施設機能設計)、施設構造(形式、構造、内装、設備)、建設工程、資源利用などが例として上げられる。
・地上建設との共通部分と相違部分を理解し、どのように現地にカスタマイズするかがカギとなる。
・ポイントは、「地上でできることを月面でもできるようにする」ことと、「極限環境を考えることで地上のイノベーションへ」つなげることである。

(5)月面建設技術動向
・月面拠点建設は、国際協力が不可欠である。
・これからの宇宙開発は政府系機関だけでなく民間企業のチカラが重要である。
・NASAの研究開発方針では、現地資源利用、持続可能な電源、極限環境へのアクセス、表面掘削/建設、月ダスト緩和、極限環境への適応を掲げている。
・JAXAはこれまで宇宙探査に参画してこなかった企業の技術を将来月探査に活かすため宇宙探査イノベーションハブの取り組みを行っており、清水建設も効率的なバケット掘削のための地盤情報取得技術、建築分野の無人化施工に関するシステム検討等の研究開発を手掛けている。

(6)月面拠点建設の実現に重要なこと
・国際協力が不可欠である。
・民間企業のチカラがカギとなる。
・特に地面のある環境での拠点建設に向けて建設業への期待は大きい。
・地上の技術との共通点、相違点を理解し、現地向けにカスタマイズが必要である。
・月面建設には課題が山積している。輸送コストを現地資源利用で可能な限り抑えつつ、遠隔操縦や無人化施工技術を投入し、可能な限り人が作業する時間を減らし、長期に人が住める施設の実現が期待される。
・清水建設は今後も月面拠点建設に向けて研究開発を進め、将来の月利用時代に貢献できるよう努力していく。

3.おわりに
 宇宙開発の歴史、月面拠点建設の現状と今後についてお話しをいただいた。
 我が国の建設会社で月面拠点建設に向けた技術開発に取り組まれていること、「極限環境を考えることで地上のイノベーションへ」つなげる考え方をうかがい、月面における建設技術の研究開発は、SFの出来事ではなく、我々建設分野の技術者にとっても身近なテーマになりつつあるとの認識を強くした。
 宇宙開発というスケールの大きなテーマについて、熱心に、分かりやすく解説いただいた清水建設(株)フロンティア開発室 宇宙開発部 鵜山尚大氏に感謝申し上げます。
 以  上
 講演会担当:榎本、大久保、越後、太田、反町、山岡(記)

写真ー1講師(鵜山尚大氏)(拡大画像へのリンク)

写真ー1 講師(鵜山尚大氏)

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写真ー2講演会風景(拡大画像へのリンク)

写真ー2 講演会風景

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