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建設部会

2020年12月 建設部会講演会(報告)

日 時:令和2年12月9日(水)16:30〜18:00
講演名:「コロナ後の社会資本整備の在り方」
講演者:谷口博昭氏 土木学会次期会長、建設業技術者センター理事長、日本トンネル技術協会会長、芝浦工業大学客員教授
講演場所:日本教育会館 喜山倶楽部、Web配信(一部の地域本部および県支部)
参加者:喜山倶楽部:55名(会員53名、非会員2名)、
    Web:50名(北陸本部・石川県事務所9名、中部本部1名、四国本部7名、中国本部、鳥取県・山口県支部、島根県技術士会32名、
           神奈川県支部1名)

※コロナ対策:定員300名の会場で参加者は80名以内として、椅子の間隔を広めに配置、受付で検温、手指消毒、マスク着用を実施した。

1.はじめに
 人々の経済、生活、安全・安心の基盤を担う公共事業、社会資本整備に関して、それらの歴史、現状、時代の変化および多様な建設ニーズを踏まえつつ、コロナ後の社会資本整備および建設業の在り方について、土木学会次期会長である谷口博昭氏にご講演いただいた。本報告は講演をもとに聴講した建設部会12月講演会担当の責任で作成していることを申し添えます。

2.講演内容
(1)講演の構成
 講演は、技術士建設部門に期待することから始まり、“[1]公共事業、インフラ、建設業とは、[2]変化の時代と多様な建設ニーズ、[3]コロナ後の生活経済社会の全体俯瞰図/Big Picture、[4]コロナ後の社会資本整備の在り方、[5]コロナ後の建設業〜経営(M)と技術(T)の協調〜、[6]価値観の共有/志高く、諦めず、信念を持ってやり抜く”からなる構成であった。

(2)技術士建設部門に期待すること
・現代は単なる知識だけでは役に立たたなくなってきている。社会資本整備は、生活経済社会の変化・高度化・進化等の時代の変化に順応することが肝要である。その中にあって自分の歩む道を考えることが大切である(瞑想の時間を持つ)。
・日本技術士会は、若い人が意欲を持てる組織として活動して欲しい。

(3)主な講演内容
[1]公共事業、社会資本整備
・INFRA・STRUCTUREとは暮らしや産業を支える「下部構造」の意味であり、生活経済社会の「上部構造」とともに時代のニーズに応じた進化・高度化していくことが肝要である。
・経済・政治、人口・面積等を踏まえ、量から質、需要追随から付加価値・需要創造へ転換、進化が求められる。
・これまでの多様な気候風土の中で災害と折り合いをつけ生活を営む知恵を活かし、「令和」にふさわしいハードとソフトの調和のとれた整備・保全を図っていくことが肝要である。
・建設業は普請から直営・直轄を経て、請負、コンサル、指定管理者制度、PPP/PFI等分業化してきた。これからはコスト・価格・価値のなかで、請け負けとならないよう適正な利益を計上し、付加価値を創造することが肝要である。
・首都直下や南海トラフ地震などの災害、コロナ感染が顕在化させた東京など大都市人口集中による脆弱性のリスクを緩和するため、分散型国土構造を図り、国土強靭化を推進し地方創生の一層の強化と加速が求められる。
・菅新総理が標榜する「自助・共助・公助、そして絆」、「前例主義、縦割りの弊害打破」を踏まえ、国土強靭化、地方創生の再検証と転換・立て直しを図る必要がある。

[2]国土強靭化と地方創生
・わが国は複雑な地質、脊梁山脈からの急流な河川など地震や豪雨などの被害を受けやすい災害列島である。自然に畏敬の念を持ち、多様な気候風土を活かし災害と折り合いをつけて発展してきた歴史・文化がある。
・この歴史・文化に合致した根源的国策である「国土強靭化」は今後予想される大規模災害の備えのため今以上の推進が求められる。
・一方で社会保障の安定的な運用求められる中、プライマリーバランスの道筋をつけることが必要である。インフラは計画的かつ先行的に強靭化することが重要であり、防災・減災、国土強靭化の推進は国内需要を喚起し成長を安定軌道にのせる。「防災・減災、国土強靭化のための3ヵ年緊急対策」を中長期計画にして進め、コロナ後の分散型国土形成を図る。
・大災害のリスク軽減やコロナ感染が顕在化させた、過度の東京一極集中を解消し地方の特色ある自立的発展を図るため、地方創生の支援強化と連携強化を進める。
・地方創生推進では、地域固有の自然・風土、歴史・文化、伝統産業等オンリーワンの地域特性を遺憾なく発揮しなければならない。
 −地域主導・国後方支援
  中央から地方へのメニューありきから真に戦略的で効果的な施策を引き出す
 −自助、共助、民主導へ
  自らの地域は自らで良くする(自助)、他地域との交流・連携(共助)、民主導
 −「保全・継承、再生」を含む広義の「創生」へ
  「創」のもつ新規に拘泥せず広義の「創生」ととらえること
 −他計画と調整し縦割りの弊害を越えた総合戦略の策定・共有を
  限られたヒト、モノ、カネと時間軸を勘案した優先順位が大切。縦割り弊害を越え総合化し施策効果の早期実現を。
 −渦巻状の展開で前進を
  急がば回れ、失敗をポジティブに生かし前進すること。
・地方創生の要諦は、グローバル経済とローカル経済の違いを理解し、後者は多様な地域の個性、独自性を発揮し、地産地消の理念の下、前者と良い循環関係を図ることである。
・ITに流されずに建設業が地域の安全・安心と雇用・経済を支える核にしていくために持続可能な(限界)事業量の確保が肝要である。

[3]コロナ後の生活経済社会の全体俯瞰図
・コロナ後の国・まちの将来像として分散型国土と集約的まち/Beautiful Harmonyな国・まちづくりに向けてインフラの計画的、効率的かつ先行的な整備・保全を図っていくことが肝要である。
・何時か出来るだろうではなく、大小軽重を判断し取捨選択し、文言を超えた具体的なプロジェクトと投資額を明示した全体俯瞰図が重要で、全体調和のとれたBig Pictureの策定が必要である。
・コロナ後のパラダイムシフトとして、次の項目を挙げる。
 −「自助、共助、公助」と「前例主義、縦割りの弊害打破」
  国土強靭化、地方創生には自助、共助、公助の程よいコンビネーションが必要
 −対立から協調へ
  自然・多様性を尊重し、互いを認め支え合い共に生きる価値観、共生(ともいき)が肝要である。
 −経済効率偏重から安全で豊かな生活へ
  ワークライフバランスからライフワークバランスへ
 −集中から分散へ(分散型国土形成へ)
  国土強靭化、地方創生のさらなる推進、これらを一層推進するためには交流連携を促進する情報通信網、陸海空広域交通網の拡充・強化を行う。
 −滞留から循環へ(内部留保から投資、貯蓄から消費へ)
  民の投資、消費が循環の基本であるが、低金利の今、当面政府の投資を
 −上部から下部へ(インフラの強化へ)
  生活経済社会の変化・高度化・進化に応じて、質やサービスの向上、付加価値創造などの時代の要請に沿ったインフラの整備・保全を
・財政政策では、感染の全体像と収束の出口を明らかにし、感染拡大防止と経済再生の両立を図らなくてはならない。長期的には具体的な目標数字を伴い、将来の社会の状況をきちんと想定したビック・ピクチャー(全体俯瞰図)を策定し国民と共有しなければならない。
・インフラ整備・保全には優先順位に基づく計画的・効率的かつ先行的展開が必要である。これにより災害に対する生活経済社会活動の損失を軽減し、事後の所要コストやトータルコスト軽減し後世の負担減となる。
・民需の回復には数年を要する。需要喚起と循環による成長を軌道に乗せるには、金融政策頼みでなく前例主義を打破した大胆な財政政策を行い、経済再生と財政健全化、プライマリーバランスとの両立を長期的に図っていくことが肝要である。
・コロナ後の建設業は経営(M)と技術(T)の一層の協調が重要である。
経営では価値を創造する経営、アダプティナ対応を行うこと、ならびにテクノロジーではシステムと価値観を共有する中で価値を創造する技術力の発揮が肝要で、社会実験等でチャレンジをして失敗をした場合は、個人でなく組織力でカバーをしていく。

[4]技術は人なり
・技術は人なり。人の情がこもった技術が肝要である。
・技術はシステム体系である。ゆえに、技術を生かす人のネットワークが肝要である。そのためには現場力、マネジメント力、コミュニケーション力の向上を図っていく。
・コミュニケーションは対等関係と双方向が肝要で、プッシュ型(プレゼン、発信)に偏りがちだがプル型(聴く)が大切である。
・建設業ではエネルギーが内へ内へと向いている感がある。開かれた国民・世のため人のための土木を広めていきたい。

3.おわりに
 講演は、参考資料(「令和2年度一般会計歳出・歳入の構成」「社会資本整備が直面する4つの構造的課題」等)及び先人、著名人の言葉を数多く引用しつつ、幅広い視点で公共事業、インフラ、建設業、生活経済社会、社会資本整備に関わる現状の分析と今後の方向性およびそれらに携わる人々の心構え、実践についてのものであった。
 1時間30分にわたって、貴重な講演をしていただいた谷口博昭氏に感謝申し上げます。
                                    以上

講演会担当:本多、河内、榎本、太田、松本(記)

写真ー1講演者(谷口博昭氏)(拡大画像へのリンク)

写真ー1 講演者(谷口博昭氏)

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写真ー2講演会の様子(拡大画像へのリンク)

写真ー2 講演会の様子

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