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建設部会

平成29年12月 建設部会講演会(報告)

日 時 :平成29年12月13日(水) 16:30〜18:00
講演名 :「第2世代のアセットマネジメント:ISO55001は何をもたらすか?」
講演者 :次期土木学会会長 京都大学経営管理大学院 教授 小林 潔司氏
講演場所:日本教育会館9階喜山倶楽部
参加者 :62名 (会員 57名、非会員 5名)

1.はじめに
 わが国では、高度経済成長期に整備された膨大な社会インフラの老朽化が着実に進行しつつあり、限られた予算の中で効率的・効果的に社会インフラの維持更新を図っていくこと望まれている。こうして中で「アセットマネジメント」の研究や取組が進められてきたが、これまでの「維持管理計画」を中心とした第1世代のアセットマネジメントから「ISO55000シリーズ」に基づく第2世代のアセットマネジメントへの取組に移行が本格化しつつある。
 本報告では、アセットマネジメントの世界的潮流等を踏まえながら、今後の日本的アセットマネジメントの方向性等に関する考え方をお示しいただいた、次期土木学会会長である京都大学経営管理大学院小林潔司教授の講演概要について報告するものである。

2.講演内容
【国際社会における日本の位置づけ】
・1980年代にアメリカの落橋事故を契機にアセットマネジメントの考え方が生まれた。
・1994年には、国際融資機関のインフラ融資条件としてアセットマネジメントの導入が義務化。
・その後、アセットマネジメントソフトの国際市場競争が始まり、2000年代前半には標準ソフトが固定化する動き。
・2002年から日本でのアセットマネジメント研究が開始され、小林教授もベトナム等での活動を開始。(アセットの学校、講習会、システム開発等)
・アセットマネジメントについては、ほぼ世界中で導入されているが日本は後進国である。

【ISO5500Xシリーズとアセット】
・ISO55000シリーズはアセットマネジメントの国際標準であり、行政や企業等が抱える膨大なアセットが直面するリスクポジションを評価し、組織の継続的発展のためのアセットポートフォリオを組み替えることにより、アセットの更新を戦略的に実施するためのマネジメントプロセス(具体的方法論ではない。)の標準モデルである。
・この中でアセットは、耐久財の他、ソフトウェア、特許、ブランド、情報、金融資産、人材等の有形・無形のもの、及び金銭的・非金銭的なものを含み、組織にとって価値を有する全ての資産であると定義ざれる。

【ISO5500Xの構成と市場】
・ISO5500Xシリーズは、ISO55000(概要、原則、用語)、ISO55001(要求事項)、ISO55002(ISO55001適用のためのガイドライン)で構成される。
・同時にISO55001適合性審査の審査員認証の国際規格も発行され、日本では日本アセットマネジメント協会JAAM(Japan Association of Asset Manegement)が国際資格試験を実施。
・欧州主要国、中南米、オーストラリア、南アフリカ、中国、韓国、香港、マレーシア、タイ等を中心に、規格適用と認証体制が急速に展開中。
・有料道路/鉄道等の民間企業の国際的ビジネス、国内のPFI/PPP事業・維持管理の包括的委託事業等において、認証取得の動きが広がりつつある。

【ISO55001の要求事項等】
・ISO55001では、維持修繕レベル(単年度現場レベル)、戦略レベル(中期的維持修繕計画レベル)、構想レベル(長期的維持修繕計画レベル)といった段階的マネジメントサイクルに対するモニタリングデータを集約し、そのパフォーマンスを評価しながら、アセット/アセットマネジメント/アセットマネジメントシステムの継続的改善を行うことが要求されている。
・特に属人的になりがちなこれまでの日本のマネジメントシステムとは違い、可能な限り人的資源に依存しないよう、簡単なルールを決めることで生産性を高めるために「知識のマネジメント」を行うことが求まられている。
・ISO55001は、アセットマネジメントのあるべき姿と現実のマネジメントシステムのギャップを認識し、組織のマネジメントシステムの改善戦略を見据えた上で、やれることから一歩ずつ継続的にシステムを改善していくための要求事項を集大成しているものである。

【継続的改善を支援する手法】
・継続的改善を支援する国際的な手法は以下の3点となる。
<成熟度評価>
・英国のアセットマネジメント研究所IAM(Institute of Asset Manegement)は、ISO55001の主要要素ごとに、組織がアセットマネジメントの成熟度を自己評価する方法を開発している。例えば、成熟度レベルが5段階あるとして、当初3年間でレベル3、次の3年間でレベル4に到達するといった要求水準となる。成熟度評価は、組織がアセットマネジメントを分野横断的かつ包括的にパフォーマンス評価するための有用な方法となる。
<ベンチマーキング>
・他の組織あるいは他の部門との相対評価を通じて、アセットマネジメントのパフォーマンスの継続的改善につなげていく方法論である。例えば、劣化ハザードモデル等を活用して、問題点を洗い出す等を行う。
<ロジックモデル>
・現場の経験やノウハウの見える化を通じて、組織全体によるマネジメントシステムの修正や改善を目指すものである。つまり、現場の経験やノウハウの説明責任を果たしながら、アセットマネジメントに必要な知識を組織内で共有し、アセットマネジメント技術や維持補修技術を継承するものである。(知識マネジメント)
・アセットマネジメントの目標であるアウトカムに対して、経営資源や事業、サービス、施策等のインプットがどのように貢献するのかを論理的に表した体系図である。定性的な関係だけでなく、定量的な関係を示すこともできることから、アセットマネジメントのパフォーマンス評価の道具として機能する。また、アセットマネジメントの構造を示すものであり、継続的改善の道具としても機能する。

【日本型アセットマネジメントの目指すところ】
・日本型アセットマネジメントについては、その理念の確立と海外展開を目指す。
・理念としては、[1]現実のモニタリングデータに基づく徹底した現実主義のマネジメント、[2]見える化を通じた知識マネジメントによる継続的改善、[3]成熟度評価を通じた課題の発見と要素技術に基づく問題解決、を実現していくこと。
・そのために、[1]ベンチマーク評価を通じた継続的改善(劣化予測ソフトウェア)、[2]ロジックモデルの提供とその継続的改善を通じた情報蓄積と知識マネジメント(ロジックテンプレート)、[3]データ蓄積によるベンチマーキングとわが国に豊富に蓄積されている要素技術の活用(成熟度評価)の深度化が必要である。

【日本アセットマネジメント協会(JAAM)の活動】
・2017年5月に設立された日本アセットマネジメント協会JAAM(Japan Association of Asset Manegement、会長・代表理事:小林潔司氏)では、アセットマネジメントに関わる[1]国際規格開発及び交流活動、[2]認定アセットマネージャー国際資格検定試験、[3]研究発表、ワークショップ等の産業分野横断的な国内交流活動、[4]アセットマネジメント導入・評価・改善ツールの開発等を行っている。
・詳細は http://www.ja-am.or.jp/ を参照のこと。

3.おわりに
 社会インフラの老朽化が問題となっている中で、わが国のアセットマネジメント技術は、国際的にも遅れており、ISO5500Xシリーズに基づく日本版の第2世代のアセットマネジメントシステムの早期普及が求められていることに衝撃を受けた講演であった。
 我々技術士が、これまで以上にアセットマネジメントを理解し、取組、改善活用しながら、後進への継承を図っていくことで、わが国のインフラの効率的・効果的な維持・改修等につなげていくことの重要性を改めて認識した。
 海外の動向等も交えながらわかりやすくご説明いただいた次期土木学会長の小林潔司教授に感謝申し上げます。
以 上

講演会担当:榎本、武曽、浅岡、森田(記)

写真ー1講師(拡大画像へのリンク)

写真ー1 講師

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写真ー2講演会の様子(拡大画像へのリンク)

写真ー2 講演会の様子

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