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建設部会

建設部会 講演会報告(平成29年6月)

開催日時:平成29年6月21日(水)  18時〜19時30分
講演名 :構造物の戦略的なメンテナンス
講演者 :木 千太郎氏  一般財団法人首都高速道路技術センター 上席研究員
講演場所:日本技術士会 葺手第二ビル 5階 A・B会議室
     (東京都港区虎ノ門四丁目1−21)
参加者 :56名(会員50名 非会員6名)

1.はじめに
 近年我が国では、社会インフラの老朽化対策が重要な課題となっているが、橋梁の維持管理に造詣の深い木千太郎氏に鋼構造物(鋼道路橋)のインフラについて、新設重視の事業から「メンテナンス重視に舵を切ったか日本」との切り口で、戦略的に維持管理、長寿命化対策、更新などを推進する視点から講演いただいたものである。

2.講演内容
2.1 鋼道路橋の代表的な変状
 道路橋の主な変状(損傷と劣化)について、「腐食」、「亀裂」、「変形(座屈)」、「脱落(緩み)」の視点で多くの事例紹介があった。
 その中で塗膜の劣化による腐食の進行から断面欠損に至った例、異種金属の接触による腐食で破断したPC鋼棒の例など、点検等によって損傷が確認できるものを見逃してしまっているとの指摘であった。また、良好な環境下ではさびの進行速度は普通鋼の半分以下で、耐候性鋼材には緻密なさびが形成され腐食の進行は遅いが、塩害等の不良な環境下においては耐候性鋼でも緻密なさびが形成されず不良さび(層状剥離さび)により破断する場合があることに留意しなければならない。
 疲労による損傷としては、桁、ウェブとフランジの溶接部に欠陥のある不良継ぎ手によって亀裂が入る例が発生したケースでは、同じ業者が施工した橋梁に同じような欠陥が沢山見つかったこともあったとの説明があった。

2.2 メンテナンスとマネジメント
 道路橋等は安全に使用できるように、性能や機能を確保するために点検・診断、詳細調査、維持的作業、補修、補強、更新、転用、廃棄等、必要な措置を行わなければならない。人口が減少することによって使用されない不要な橋が増えるが管理はしなければならない。道路橋管理の種類には「放置型管理」、「対症療法型管理」、「予防保全型管理」、「機能向上型管理」の4つがある。

[1]放置型管理
 「知らぬが仏」型と言われ、簡単には壊れない、壊れるわけがない、余計なことはしない、してほしくないとの考え方で管理限界ラインを超えた時は架け替えることになる。建設理由も建設年代も同様な、線路を跨ぐ道路橋の添接の高力ボルト(F11T)が落下していた事例があれば、外観では健全な跨線橋でも同じ現象が起こっているものと、よく考えれば分かることである。「知らぬが仏」の人は、普通の人に比べ安全・安心の領域が広いのである。

[2]対症療法型管理
 「運を天に任す」型と言われ、維持管理は当然行っている、運が悪ければ“事故”になるもので、八重洲トンネルで側壁のタイルが剥がれた事故、間詰床版が抜け落ちて道路上に落下した事故は何れも大事には至らなかった。
ハインリッヒの法則によって330件を分析した結果、1件の重大事故は29件の軽微な事故・災害、300件のヒヤリハットを起こすことが分かった。よって、対症療法型管理の鉄則は完璧を狙い対策を実施する。

[3]予防保全型管理
 「転ばぬ先の杖」型と言われ、早め早めに手を打つ、劣化予測と修繕計画の策定を行うもので、H16年にはアセットマネジメントシステムが導入され、対策時期を判定することによって管理限界ラインを超える前に補強(補修)を実施し、架け替えを実施する時期を遅らせる長寿命化計画による工事が行われている。

[4]機能向上型管理
 「グレードアップ」型で、利用者のニーズに沿った機能の向上を行うもので、潤い、ゆとり、優しさをもった親しまれる橋梁創りを実施することである。

2.3 鋼道路橋防食の課題と解決策
 鋼道路橋防食便覧によれば、道路橋の代表的な防食法は重防食塗装(C系)である。
新設橋塗装の課題として、[1]手間のかかる塗り分けが必要な横桁SPL詳細構造、[2]塗装禁止条件(温度及び湿度)がありその解決策として、素地調整不要、塗り重ねなし塗料、作業温度(5℃〜0℃)、湿度(85〜95%)の新規塗料の開発(C系塗装主体)や塗装の防食性に及ぼす寄与率が高い素地調整が重要である。
 一方、既設橋塗替えの課題を整理すると[1]素地調整方法、[2]旧塗膜との付着性、[3]塗装方法、[4]環境保護などであり、その解決策として[1]塗料(高耐久性塗料、塗膜型素地調整軽減剤)、[2]素地調整(ブラスト面形成動力工具、レザー照射)、[3]塗装作業(高塗着スプレーシステム、ダストレススプレーハンドガン)の開発である。

2.4 こんなことが起こっている
 今、道路橋に限らず橋に何が起きているのか?なぜ橋は落ちたのでしょうか。岩手県で1983年に架橋された橋長40.4m、幅員0.8mの登山道鋼トラス橋が、2014年5月に落橋しているのが確認された。また、国の重要文化財である高知県の犬吠橋が、点検後わずか6カ月後に落ちかかった原因は、断面欠損による斜材の破断であった。
 点検後わずか6カ月で断面欠損を生じるような腐食の進行は考えられないことであり、損傷程度の評価はできるだけ正確かつ客観的となるように行わなければならない。

2.5 技術者を支える3本の柱
 2.4で示した事故例からも専門技術者に必要なのは、[1]技術力(真)、[2]想像力(美)、[3]倫理観(善)の「三本の柱」である(図−1参照)。技術者としてこれら3つの力をバランスよく吸収、発揮するとともにインフラ整備の一翼を担って行かなければならない。

3.おわりに
 インフラ整備の中でも国民生活になくてはならない道路施設である「鋼道路橋」に、今何が起こっているのか?またそれはどうしたら防げるのか?との視点から、橋梁の損傷事例を交えながら我々「技術者はどうあるべきなのか」を指摘されたのではないでしょうか。
 人口減少による担い手の育成は最重要課題であり、高度な技術力、高い倫理観、旺盛な想像力を駆使しながら、技術者として成長して行かなければならないことを改めて感じました。
 業務が忙しい中、今回の講演会の講師をお引き受けいただきました木千太郎氏には、改めて感謝申し上げる次第であります。

                   講演担当:榎本、武曽、浅岡、宮下(文責)

           

図ー1技術者を支える三本の矢(本文2.5)(拡大画像へのリンク)

図ー1 技術者を支える三本の矢(本文2.5)

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写真ー1木千太郎講師と講演会場の様子(拡大画像へのリンク)

写真−1 木千太郎講師と講演会場の様子

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