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建設部会

平成27年12月 建設部会 講演会報告

開催日時:平成27年12月16日(水) 16時30分〜18時
講演名 :「ダムは無駄か?」
講演者 :田代 民治氏(次期土木学会長 鹿島建設(株)代表取締役副社長執行役員)
講演場所:日本教育会館9F(喜山倶楽部 会議室)
参加者 :77名(会員71名、非会員6名)

1.はじめに
 1995年に米国合衆国内務省開拓局長のウイリアム・ピアーズ氏により提唱された  「ダムはムダ」から20年経過した今日、地球温暖化、気候変動、環境破壊により自然と人間の共存が困難になるリスクが急速に高くなっており、改めて環境と人に優しいクリーン発電であるダムの必要性を感じさせられます。
 今回は、次期土木学会長 田代民治氏(鹿島建設(株)代表取締役副社長)に、治水(洪水対策)、利水(水不足対策)、エネルギー事業(水力発電)の観点から、ダムを中心とした我が国のインフラのあり方について講演をして頂きました。

2.講演の概要
 冒頭、田代氏は「私は1972年に鹿島建設に入り、26年間ずっとダム現場(川治ダム、宮ケ瀬ダム、温井ダム、他)をやってきました。かつて「コンクリートから人へ」と言われ無駄なインフラの代表とされたダムに焦点を当て、今日は、本当にダムは無駄なのかという観点で話をさせていただきます。」と口火を切られた。

2.1 ダムの目的
(1)治水(洪水調節)
 一般にダムの主な役目は、「治水」、「利水」、「発電」、「流水の正常な機能の維持」である。この中で、治水というのは、洪水時に上流からの流量をダムで調節して下流の河川流量を低減させ洪水被害の低減を図るものである。
 ただ、日本の河川は諸外国の河川に比べ急流であること、平常時の流量に対して洪水時の流量がものすごく大きいことから、雨が降るとすぐに溢れるという特徴がある。例えば、利根川などは平常時の流量に対して約100倍の水が流れるが、ドナウ川は4倍程度である。このような河川の状況では、ダムに水を貯めて対応(調節)することが必要になってくる。
 また、最近では亜熱帯化して1時間に50mm以上とか100mm以上の豪雨発生回数が非常に多くなっている。もちろん堤防も大切であるが、急流河川やゲリラ豪雨での洪水に対してはダムによる根本的な対策を考えることが重要である。
 H27年9月の鬼怒川の堤防決壊も、ダムの必要性が如何に高いかを証明した良い例である。ダムのお蔭で河川堤防の決壊が防止された例として、五ケ山ダム(福岡県)、稲葉ダム(大分県)、日吉ダム(京都府:水資源機構)等が紹介された。
(2)利水
 利水とは、川は雨が降ると多くの水が無駄に流れるが、その余分な水を貯めておき、河川流量が不足している時に放流して流量を安定させ、利用しようと言うのが基本的な考え方である。
 日本には昔からため池も含め種々のダムと言われるものがあるが、ダムの定義は高さ15m以上のものとなっており、現在日本にはそのダムが約3千基ある。しかし、日本のダムの総貯水容量は222億m3で、これはアメリカのフーバーダム1基の貯水容量400億m3と比べると、その半分しかない。今、利水の最も身近な水道水を考えた場合、東京都の水源は多摩川水系と利根川・荒川水系で、このうち利根川・荒川水系から約80%の水を取水しているが、これは他県(栃木県、群馬県、埼玉県等)のダムから水を貰っているということに他ならない。
 その他の利水としては、農業(かんがい)用水、工業用水、漁業、また日本には余りないが水運や観光にも役割を果たしている。特に21世紀は食糧が足りない時代になるとも言われ、農業用水の必要性もさらに高まってくるものと思われる。
 田代氏曰く、「このような状況であるにも拘わらず、これでダムはもう要らないと言えるのでしょうか。」
(3)発電
 発電はダムに貯留した水量を利用し、取水位置と放水位置から得られた落差を乗じて発生する電力量を得るものである。
 スイスと日本の電源構成を比べると、スイスは原子力が39%、火力が5%、水力が56%で、日本は原子力が26%、火力が65%、水力は7%となっており、水力発電の割合が非常に低い。
 CO2排出の観点から見ると、石炭火力や石油火力に比べて水力はCO2の排出もなくクリーンなエネルギーであり、スイスのエネルギー構成はその点を考慮したものとなっている。
 水力発電の一つに揚水発電があるが、これは上部調整池(ダム)にくみ上げて貯め込んだ水を下部調節池(ダム)との高低差を利用して発電し、日中の電力需要のピーク時に電力を供給する仕組みの発電方法でピーク調整と蓄電機能も兼ね備えている。
 発電コストについては、もちろん原子力が安く、次いで石炭火力やLNG火力となるが、風力や太陽光に比べると水力ははるかに安い電源である。東日本大震災で原子力の見直しが課題になっている現状と環境問題を考え合わせると、水力の利用拡大は絶対に必要との見解が示された。

2.2 ダムと社会資本整備
(1)ダムは自然破壊か
 黒部ダム(通称:クロヨン)に行って「これは自然破壊だ」という人は余りいないと思われるが、ここは観光ルートの一つとして定着し、地域の活性化に貢献している。また、田代氏が工事を行った宮ケ瀬ダム(関東地方整備局)も周りを公園化して、クリスマスのイルミネーションをしたり観光放流をしたりして市民の憩いの場所を提供している。
 日本の湖はダムでつくられたものも多く、憩いの場として利用されており、ダムが自然破壊の元凶とは思えない。また、「コンクリート」は自然からの材料でできているため再生可能であり、例えば、3.11の東日本大震災で発生したコンクリートの瓦礫の多くは、破砕して堤防などに再活用していること等の例が示された。
(2)ダムの再生
 資源エネルギー庁の調査によれば、水力発電のポテンシャルとして459億kWhと試算されているが、既存ダム等の最大活用による水力発電で324億kWhの電力量が確保できるとしている。
 これらを背景に既に築造されたダムでは、完成後相当の年数が経過していることや社会情勢の変化に対応しようと「ダムの再生(再開発)」が図られている。
 例えば、既設ダムの堤体に穴を開けて、治水機能の増強とともに、その直下に発電所を作り発電能力を新設する試みが行われているほか、既設ダムの容量のうち発電容量をもっと増やせないかとか、ダムを嵩(かさ)上げして容量を増やし、治水・利水機能や発電量を増やそうということも検討されている。今後、特に水力発電についてはさらなる活用の検討を進める必要があるとの見解が示された。
(3)日本の社会資本整備について
 日本列島は脆弱(ぜいじゃく)で災害が多いので、常に国土の安全安心を確保する必要があり、災害の多い日本において、いかに強靭性を加えていくかが課題となる。特に、交通網、水、エネルギーに関しては重要で、我々も技術を受け継いでいかなければならない。
 今、古い構造物のリニューアルや新しい形状の海岸堤防を考えたり、交通網やエネルギー供給網をループにしたり、被害の拡大を防ぐ遊水地を造ったり、東京の神田川に見られるように都市部の地下に大空洞を掘って洪水を貯留し、被害を回避する強化対策が考えられている。
 これから我々は、安全安心な国土のために少しずつインフラを改善していかなければならない。それには「強靭化」プラス「再生・長寿命化」、そして「環境」も考えながら強化することが大事であるとの意見が示された。

3.おわりに
 2015年11月30日から12月11日まで、フランス・パリで、気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)、京都議定書第11回締約国会議(CMP11)が開催されました。 今回の会議は、京都議定書に続く、2020年以降の新しい温暖化対策の枠組みが、全ての国の合意のもとにどのようにつくられていくかがポイントとなりました(パリ協定採択)。この中でも水力ダムが再度、見直されるべきものであることも論じられており、それらを踏まえ「ダムの必要性」について、ご自身の体験、経験に基づいた貴重なお話をお聴きすることが出来ました。
 改めて、講師の田代民治氏には心から感謝申し上げる次第であります。

講演担当:武曽、近藤、柴野、齋藤(記)

写真:講師・田代民治先生(拡大画像へのリンク)

写真:講師・田代 民治 先生

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写真:講演会場の様子(拡大画像へのリンク)

写真:講演会場の様子

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