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建設部会

平成27年 6月 建設部会 講演会報告

日 時 :平成27年6月17日(水) 18:00〜19:30
講演名 :都市域の斜面防災
講演者 : 釜井俊孝教授、博士(工学)京都大学防災研究所 斜面災害研究センター
講演場所:日本工営株式会社 本社 3階 第1会議室
参加者 :51名(会員49名、非会員2名)

1.はじめに
 本講演は表記の通り、斜面防災の第一人者である釜井俊孝教授を講師として迎え開催したものである。講師より斜面災害の事例や関連法令の背景、また、崩壊事例では新たな知見の紹介も有り、併せて斜面災害への対策として等高線都市の提案などの講演が行われた。

2.講演内容
2-1 二種類ある都市型斜面災害
 都市型斜面災害は、「都市外縁型」と「都市内縁型」がある。
 「都市外縁型」は山側の郊外に都市域が形成され、豪雨によるタイプの災害が多く、主に土石流、地すべりが発生する。
 また、海側では「都市内縁型」として都心に都市域が形成され、地震による災害が多く、主に谷埋め盛土地すべりや「崖っぷち」崩落が発生している。

2-2 繰り返される都市型豪雨災害
 昨年2014年の広島豪雨災害では、土石流と崖崩れにより、死者74名の惨事となったことは記憶にあたらしい。これは狭い範囲に極端な豪雨、極点気象時代(いわゆるゲリラ豪雨)の災害である。
 広島市における市街地の開発は、山麓の大規模開発が昭和30年代後半から始まり、列島改造ブームや石油ショックを経て、増加傾向はバブル崩壊(1991−1993)まで維持された。
 宅地開発関係法令の背景としては、昭和44年施行の(新)都市計画法が、広島市で昭和46年に市街化区域と市街化調整区域の「線引き」を完了し、列島改造ブームの前後には、開発用地取得が活発に行われ、山麓の開発数が増加し拡張されて行った。
 また、広島市の崖条例(建築基準法施行条例)では、他の都市域より規制値が緩いものが見られことと、ボーリング結果が崖の地盤状況を反映していない例や崖の崩壊後退による緩勾配地形が条例の適用外となる事例など、崖条例の運用上の問題点も見られた。

2-3 想定される地震時地すべり
 問題の背景として、都市圏の拡大と共に不安定な宅地盛土も拡散して行き、23区内では関東大震災以降の「第三山の手」時期のニュータウン開発に伴う宅地盛土が特に問題となっている。高度経済成長期の宅地ブーム時代、ブルドーザーの車列による谷埋めの施工事例などもあげられ、宅地盛土地すべりは、「遅れてきた公害」であるも言える。
 地震動における揺れ方の多様性として、様々な地震動が観測されている。
谷埋め盛土に地下水が貯まるのは危険なので、そうならないように設計されているはずとする「地下水に関する盛土の安全神話」が、実態としては、広域の地下水流動系の途中に構築された、谷埋め盛土や腹付け盛り土に地下水が停留し、災害の主な要因となっている。
 対策工事は最終的な解決策たりえるか検証してみると、高品位な地すべり対策工事の事例である「集水井+多列鋼管杭」の場合では、想定すべり面(盛土底面)に対しては有効に機能したが、浅いすべりが発生してしまったケースもある。また、対策工事で集水井を省略したケースもあるが、被害を押さえ込むには相当密な地下水排除工事が必要なことも従来型対策に限界があることもわかった。

2-4 社会制度改革
「宅造法の改正」は、昭和37年制定以来、初めて平成18年に改正された。また同年「宅地耐震化推進事業の創設」され、自助が原則であった民有財産(宅地)の保全に公助(税金)を導入する事を目的とする法改正と新制度が創設された。これは、宅地の集合体(街区)を公共資本と認めた点で、宅地行政の転換を宣言したものである。
 しかし、この法改正の革命的性格を多くの人が未だ気づいていない。“そして、今やボールは、自治体(+住民)へ”
●地学的教養の時代
 今回の災害では、とりわけ「裂け目」が鮮明に顕れている。応用地質学会等が進めている「防災の科学」は、そうした都市の裂け目の「修復」を目指す科学である。そのベースである「地学的教養=裂け目を見る眼」は、災害列島に住む日本人にとって、必須の知であると言える。
 宅地は、「社会的共通資本(宇沢弘文)」の側面を持つ。したがって、その開発は、広い意味の「地学的教養」を身に着けた者のみが計画し、実施するべきである。住宅行政を担う公務員も、そうした教養を身につけた上で職務に当たらなければ、住民を守れない。

2-5 等高線都市
 地形改変は最小限に、盛らない土地造成、基礎は地山に密着させる住宅建築の一体化や土地の環境や歴史に生かす生き方、森林を残す(癒しの森に抱かれた都市)など、都市計画に応用地質的・環境地質的センスの反映された都市作りとして「Contour line city(等高線都市)」を提案された。

2-6 まとめ
1)都市域の斜面災害の実態を概観した。それらの発生には自然条件だけで無く、法体系や都市計画等の社会条件が大きく影響を及ぼしている。
2)特に宅地盛土地すべりは、特に戦後、経済合理性を優先に行われてきた宅地開発の結果であり、「遅れてきた公害」と言える。
3)宅地盛土地すべりには、地すべり研究としての科学技術的な課題も多く存在する。地震動に及ぼす地すべり構造の影響、複雑な地下水分布の影響はその代表的なものである。
4)ラフな発生予測の手法は、ほぼ完成され、対策工事の限界も明らかになった。したがって、ソフト的な対策(新たな都市計画思想)が必要である。
5)長期的なビジョンとして、“等高線都市”を提案された。

3.おわりに
 本講演を聴講して、都市域に潜む盛土や崖部の危険と防災について新ためて考えさせられることとなった。
 都市域の斜面防災は、その都市域の発展と人の関わりが密接に関連しており、遅れてきた公害という概念や従来型対策の限界について気づかされた。
 そして新たな法の制定や地学的教養と共に、今後も、技術士が課題の一つとして深く防災に取り組んでいくことが期待される。
 最後に、ご講演頂いた釜井先生には改めて感謝申し上げたい。

講演担当:藤原、鈴木、武曽(文責)

写真:講師・釜井教授講演風景(拡大画像へのリンク)

写真:講師・釜井教授講演風景

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