建設部会のホーム行事案内平成27年11月 建設部会 講演会報告
開催日時:平成27年11月18日(水) 18時〜19時30分
講演名 :ストックマネジメント技術の現状と今後の動向
講演者 :東京大学工学系研究科社会基盤学専攻 小澤一雅 教授
講演場所:公益社団法人 日本技術士会A,B会議室(東京都港区虎ノ門4-1-21葺手第2ビル5階)
講演方法:WEB会議方式
参加者 :合計117名(11) 注)※( )内は:非会員数
:東京本部 54名(2)
:地域本部 63名(9)<北海道13名(5)、東北10名(1)、北陸5名(0)、近畿12名(0)、中国19名(3)、九州4名(0)>
1.はじめに
社会資本が整備され800兆円を超えるストックを持つようになってきた。この約3割を道路・鉄道が占め土木構造物の維持管理は大きな社会問題として指摘されるようになってきている。
建設部会研修委員会ではインフラストックのマネジメントや公共調達の研究で広く名前を知られた小澤一雅先生に、現状課題とその対策について講演をして頂くよう企画した。この講演会が建設部門技術士の知識・技術向上につながることを期待する。
2.講演の概要
インフラストックのマネジメント、維持管理の実施体制、アセットマネジメントの実装等について64枚の配布資料をもとに講演された。以下にその概要を記載する。
(1)インフラストックのマネジメント
建設後50年以上を経過したインフラストックの割合が橋長15m以上の道路橋では平成42年度に5割を超えようとしている。高齢化施設の増大に対し計画的な維持管理予算の確保が難しくまた、維持管理に必要なデータの蓄積不足・実施する体制不備等の課題を抱えているのが実情である。このような大きな社会問題に対して、国民の共有財産である社会資本を長期的視点に立ち、工学・経済学などの知見を取り込み効率的、効果的に維持管理・運営するアセットマネジメント導入の必要性について説明を受けた。
アセットマネジメントの導入により、資産状態の改善、ライフサイクルコストの削減、利用者・納税者へのアカウンタビリティの向上が期待でき、適切な時期に適切な点検・修繕を施す維持管理マネジメントを実施することでライフサイクルコストの最小化を図ることが可能となる。
維持管理は、修繕計画の立案→日常点検・管理と修繕工事等の発注→健全度維持と回復→定期点検・診断/長寿命化計画の更新→修繕計画の立案に戻るPDCAサイクルを、上手く回転させることが大切となる。
特に地方公共団体では、修繕計画の立案ができる人員不足と資金不足によりサイクルのDoに相当する点検・管理部分を上手く廻せないという課題を抱えているのが現状である。
(2)維持管理の実施体制
人口30万人以下の中規模自治体と5万人以下の小規模自治体が地方自治体の9割以上を占めており、各自治体の実情にあった維持管理体制の整備が必要である。
維持管理の実施体制モデルとして可能な限り定期点検まで自前で行う直営管理モデル、全体計画とマネジメント以外はコンサルタント・施工業者にアウトソースする部分委託モデル、そしてマネジメント業務実施者が全体を監理して、他は全て下請けにコンサルタント・施工業者を活用する全面委託モデルの3方法の説明を受けた。最終的にこの3つのモデルを基にそれぞれの施設や地域に応じて組合せを変えながら対応していくことが必要になる。
講演会では宮崎県の橋梁長寿命化計画で採用された県職員が点検業務に参加する「汗人マネジメント」の紹介がおこなわれた。汗人と書いてアセットと読むが、県職員の参加により修繕箇所の早期発見と委託費削減効果が生まれており、年次レポートでその成果が県民に報告されている。
ライフサイクルコストの一部となる維持管理費の削減は、非効率的な民間発注ではその効果が期待できない。効率的に実施するため、「土木学会:維持管理に関する入札・契約制度検討小委員会」で作成された包括的な契約の考え方が紹介された。
[1]発注ロット拡大による効率性の改善(例えば数量として足場工事)
[2]複数年契約によるノウハウの蓄積と改善(例えば行政の単年度契約システム)
[3]性能規定型契約・民間資金の活用等、契約方法見直し(例えばPPP/PFI)
[4]技術力を確保するため発注者支援方法の改善 等
(3)アセットマネジメントの実装に向けて
土木学会にアセットマネジメント実践研究委員会(委員長:小澤先生)が立上げられ、地方自治体と協定を結びアセットマネジメントシステムのモデル事業が計画されている。
自治体が持つ課題を特定して、インフラ情報と管理データから解決策を立案・実践することで持続可能な維持管理マネジメントシステムの体制を構築することが目的となるが、モデル事業を希望する地方公共団体を近く土木学会ホームページで募集する予定である。
3.おわりに
平成19年に米国ミネアポリスで橋梁崩落事故が起き、国内では道路橋の予防保全に向けた提言により早期発見(点検)・早期対策が求められてきた。平成24年には笹子トンネルの天井崩落事故による死傷者発生がありメンテナンスサイクルの構築に真剣さが増してきているのが現状である。このような状況のなかで、維持管理に関する第一人者である小澤先生の貴重なお話を聞き、我々技術士も大いに啓発され不断の自己研鑽が求められることを改めて痛感した次第である。
講演担当:河北、垣本、玉川、浅岡(文責)
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