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建設部会

平成24年2月の講演・見学会報告

平成24年2月 講演会報告

開催日時  平成24年2月20日 (月)18時00分〜19時30分
講演名  東京ゲートブリッジの景観設計思想
講演者  窪田陽一(埼玉大学大学院理工学研究科教授)
開催場所  日本工営(株)本社3階A会議室
参加者  42名
報告
1. はじめに
 2月12日に開通したばかりの東京港東航路に架かる東京ゲートブリッジは、連続トラスボックス複合橋と呼ばれる極めて特異な形態をした橋で、中央径間長440mと規模も大きく、東京の新たな観光名所としても話題を呼んでいます。他に例のない独特な姿の橋がどのような検討経緯で生まれたのかを、この橋の景観検討委員会の委員長を務められた窪田教授に解説いただきました。講演は、東京ゲートブリッジの景観設計の話に先立って、「景観」という言葉の定義から始まりました。景観と風景の関係や形態の類似性から生まれる必然性、形態生成の思考基盤など、景観設計の本質的なところをお話しいただき、橋の形が美術品のような直感的な発想で生まれるものではないこと(これは私的な理解ですが・・・)を教えていただきました。以下に、私なりの解釈で講演の概要をまとめてみました。

2. 景観の定義
 景観の語源はドイツ語のLandshaftの訳語であり、英語のLandscapeの古語LandskipないしLandshipがそれにあたる。Land(土地)とは、人の手が加えられたGround(大地)であり、自然の中に人間が入り込むことによって景観が創られる。Land-shipすなわち「土地であること」というのが景観という言葉の由来になっているとのことです。そして、景観とは、「人間が関与し認識した土地の環境の形態、および、その総体」と定義されました。また、伊藤博文が渡英後にLandscapeを風景と区別した「地景」と和訳した逸話からは、景観が持つ意味の理解が少しだけ深まったように思います。

3. 景観と風景
 景観の定義のところでは、景観は人の手が加えられた風景と私なりに理解しましたが、窪田教授の「景観の風景化」という言葉に、深い意味を感じました。人工的な建造物の景観が自然環境の風景に溶け込むということでしょうか。さらに深い意味を持っていそうですが、私にはここまでが精いっぱいです。

4. 形態の類似性
 東京ゲートブリッジは、恐竜に似ていると巷では比喩されているようですが、「誰が恐竜をイメージして橋の形を考えるものか」と窪田教授はやや憤慨のご様子でした。ただし、世界最初のゲルバートラス橋であるフォース鉄道橋も、恐竜に例えられていたとのことでしたので、人の見る目は国によって変わるものではないのだと思いました。
形態の類似性には必然性があるという話は興味深いものでした。カワセミの嘴にヒントを得て設計された新幹線の先頭車両の形が空力学的に優れたものであることなどは、景観設計の基本思想に関わる部分であると思いました。

5. 形態生成の思想基盤
 形態はある思想基盤の上に立って生成されるとして、この後の東京ゲートブリッジの形態の話へと講演は進んでいきます。

6. 東京ゲートブリッジの景観設計
 本橋が架かる東京港臨海道路は東京港の主要道路であり、架橋位置は東京の玄関口にあたります。また、空間的制約条件としては、羽田空港の空域制限、東航路の航路制限、東京湾海底の超軟弱地盤などがあります。各種メディアでは、これらの条件からこの橋の形が導かれたように言われていますが、これらの架橋条件だけで橋の形は決まらない。スライドに示された初期の計画案はこれらの条件を満足していましたが、今の形とは全く別ものでした。
デザイン・スタディは平成4年度〜平成8年度の前半期に東京工業大学の中村良夫教授(当時)を委員長とした景観検討委員会により基本設計案が検討され、今の形の基本形状が決定されたのですが、その原形は窪田教授のスケッチ画にありました。

東京ゲートブリッジ

 東京ゲートブリッジ

(拡大画像へのリンク)

 

(画像クリックで拡大 8KB)

 その時の景観設計思想としては次のことが基本にあったとのことです。
「既存事例と同様の形態の橋を架けるのであれば、景観設計を行う意義はない」
「21世紀に供用される橋には、新しい時代の形態を付与すべきではないか」
「架橋条件に相応しい形態を実現させる構造技術を考えるべきではないか」
そして、東京ゲートブリッジの架橋位置による橋の存在意義を探るにあたって、各国の事例をもとにそれぞれの橋の持つ意義が解説されました。
・都市の門としての橋である「アルテブリュッケ(カール・テオドール橋)」(独)
・合衆国統合の象徴である「ブルックリンブリッジ」(米)
・合衆国西海岸先進都市の象徴である「ゴールデンゲートブリッジ」(米)
・コートハンガーとも呼ばれ、オペラハウスとの協奏を奏でる「シドニーハーバーブリッジ」(豪)
・英国の歴史性を証明する「タワーブリッジ」(英)
・帝都の門として建設された震災復興橋「永代橋」(日)
・東京港のゲートウェイとしての「レインボーブリッジ」(日)
などの著名橋がスライドに映し出され、それらの先行事例を超える新たな発想が求められたとのことでした。また、世界に向かって発信する先進的デザイン、構造システムの本質を素直に表現するデザインを基本方針として、全員が合意する中庸なデザインにはせず、50%リスク(=50%合意)で決定すればよいとされたとのことです。

 デザイン・スタディの後半期(平成14年〜平成21年度)は窪田教授が中心となって景観設計が進められました。検討の基調は、次の4項目です。
[1] 世界のどこにも前例がない景観を創出する
[2] 技術的可能性の前進的展望
[3] 既存事例に準拠するという発想から離脱する
[4] 架橋技術の方法そのものを創案する
先進技術の構成的展開というところでは、トラスと箱桁を一体化し連続させたトラスボックス複合橋の採用、新しい橋梁用高性能鋼材(BHS鋼)の採用、全溶接構造の採用、合理的な設計手法の導入、といった最先端の技術による軽量化や部材数の削減がなされことも紹介されました。

 デザインの詳細設計では、広大な開放的空間の中でこの橋がどう見えるのか、時間や天候によってどのように変化するのか、そういったことも検討されています。また、ディテールについてもきめ細かい検討がなされ、高欄のデザインをモックアップで現地検証するなど、バルコニー、防護柵、照明、案内表示、昇降施設などの付属物の形状も詳細な検討がなされたとのことです。特に昇降施設については、シークエンスの区切り(句読点)として、直線的な橋の形と対比させて曲線を基調とした楕円形状を採用したりするなど、様々な視点場からの見え方に留意されていました。色彩は、ライトアップとの相関的な検討が行われ、また、独自性の強い形態に対して色彩では主張しないということから薄紫寄りの淡い青灰色とされ、連続性を表現するために桁部には青味を深めた青灰色とするツートーンカラーが採用されています。
講演の最後のほうにあった「東京ゲートブリッジの隠れた次元」という見出しでのお話は非常に奥深いものでした。景観設計は表面的なお化粧ではなく、構造で造形するもの、形態で思考するものであり、言語では表現できないことを視覚的思考で伝える。東京ゲートブリッジは、力学的な安定感と緊張感を橋の形で示したものだということです。
講演の終わりに提案されたカフェミュージアム構想は、思いのほか具体的なもので、窪田教授のこの橋への愛着と期待を感じました。

 独善的な報告になりましたが、以上をもちまして2月度講演会報告とさせていただきます。

 担当幹事 浅岡不二雄 垣本弘 鴫原徹(文責)

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