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部会長挨拶(第6回)
部会長の飯田喜哉です。この原稿を書いているのは6月20日(日)です。首都圏でもアジサイの色が濃くなってきています。アジサイは土地が酸性だと青い花、アルカリ性だと赤い花が咲くと何かで読みました。リトマス試験紙の反対のような気がしますね。
また身辺の雑事を書き連ねて恐縮ですが、先週は毎日のように夜の会合が続き、いささか疲れました。平成16年度学士院賞受賞者がこのほど発表され、その一人はカリフォルニア工科大学(通称:Caltech)地震研究所教授の金森博雄氏でした。彼はかつて東大物理学科で私と同級生でしたので、久しぶりに帰国した彼を囲んで、16日(水)に学士会館でクラス会を開きました。
私は97年にある調査報告書を作成するために米国の西海岸に数日滞在した折に、彼の研究室を訪問しました。彼は当時、周辺の大学、自治体、企業とネットワークを組んで、リアルタイム地震学を使った地震防災活動を精力的に展開しているところで、主にその話を聞かせてくれました。今回の受賞は「地震発生機構の物理的解明についての研究」に対してということですが、現在でもむしろ地震防災活動の方に多くの精力を注いでいるようです。
私は数十年前に彼と机を並べて、坪井忠治先生の「実験制約法」のノートを取った仲ですが、その後実験固体物理に進んで地震学とは無縁の道をたどったため、聞く話がすべて新鮮な気がしました。
そのとき日本で活躍している二人の地震学者の名前を知りました。一人は彼の後輩で当時横浜市大にあって、横浜市と連携してリアルタイム地震予知活動を展開しておられた菊池正幸教授(後に東大教授、昨年逝去)。菊池教授に「リアルタイム地震学」の講演をお願いしていて果たせなかったいきさつは3月の部会長挨拶に書きました。
もう一人は彼のCaltechにおける弟子で東大地球惑星物理学教室助教授(当時、現在は教授)のロバート・ゲラーです。彼は地震の基礎理論の研究が本来の専門ですが、いささかマニアックなほど、それまでわが国の地震防災政策がよりどころとしてきた地震予知可能説を攻撃していることを、私は帰国後知りました。
たまたま、私は当時「研究評価」に関心を持っていて、所属している研究・技術計画学会が97年秋に京都国際会議場で開催予定の7th International Conference on Technology Managementに「大型科学研究開発プロジェクトの評価基準」に関して投稿することを計画していました。そのCase Studyの一つとして地震予知プロジェクトを取り上げることを思い立ってゲラーを訪問しました。彼の快諾を得て連名で発表を申し込んだ結果、幸いにして採択されました。
当日私が発表したセッションは座長を除けば日本人は私ともう1名だけでした。そして、私の発表で聴衆の関心を集めて活発な質疑が出たのは第5世代大型コンピュータ計画を失敗と断定したケースに対してだけでした。地震予知は少なくとも海外の「研究評価」専門家の興味はひきませんでした。しかし測地審議会が「地震の短期予知は不可能」という画期的な報告を出したのは、まさに同じ97年度の報告においてでありました。
大分皆さんの多くには興味がないことを長々と書き連ねました。しかし「地震防災」は、応用理学部門ばかりでなく建設その他の部門でも重要なテーマです。日経は本年5月31日の社説に「予知という呪縛緩んだ防災白書」で、平成十六年防災白書に盛られた新しい方針について紹介しています。「…しかし一つの法律の呪縛が防災行政をがんじがらめにしていた。四半世紀前に、科学的な検証もないまま、巨大地震を直前に予知できることを前提にした世界でもまれな法律ができた。東海地震の対策を定めた『大規模地震対策特別対策法』、いわゆる大震法である。…」
私は「大震法」が多くの技術士に生活の糧を与えているのは知っていますし、そのこと自体を技術士倫理に悖るとして批判する気は全くありません。しかしいやしくも技術士であるなら、少なくともレフェリーを備えた学術雑誌に掲載された論文とインターネット上などでまま見受けられる他者が検証しようのない俗説との弁別を行ったうえで、地震予知について議論していただきたいと考えております。
以上
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