活躍の先にあった
技術士
齊藤 勇さん原子力・放射線部門株式会社日立製作所 勤務

1.技術士とのかかわり

技術士は「科学技術に関する技術的専門知識と高等の応用能力及び豊富な実務経験を有し、公益を確保するため、高い技術者倫理を備えた優れた技術者」とされ、「技術士法」により高い技術者倫理を備え、継続的な資質向上に努めることが責務となっています。また「技術士」は、産業経済、社会生活の科学技術に関する、ほぼ全ての分野(21の技術部門)をカバーし、先進的な活動から身近な生活にまで関わっています。私はこの21の技術部門の中の原子力・放射線の部門の技術士で、2016年(平成28年)3月に取得しました。

私が技術士を知ったのは2005年の夏頃、当時勤務していたアロカ株式会社の上司からでした。とある製品の検出器の評価試験が終わらず休日出勤をして挽回しようとしている時、「お前が休日出勤している時間帯は図書館でこの前新設された原子力・放射線部門の技術士試験の勉強をしているから何かあったら気軽に電話してこい。技術士についてはいずれお前も受けろ。」と言われ、技術士なんて資格があるのか、あの上司が勧めるなら俺も取ろうと心に決めました。その後、色々と情報を集めその年に原子力・放射線部門で一次試験を受験、合格しました。

そのまま修習技術者として実務経験を積んでも良かったのかも知れませんが、上司が技術士となったこともあり、私はあえて上司の元での技術士補の登録をしました。自分はこの上司の元で技術士を取りたいという気持ちがあったからです。今思えば押しかけみたいな感じで上司にお願いしちゃったような感じでしたが、この関係が今も自分が原子力・放射線部門の技術士であることは、あの人の弟子であるというプライドみたいなものになっています。

現場のシステム立ち上げ作業での休憩中の一コマ

2.技術士補として

その後業務を行いつつ勉強し、二次試験受験に必要な実務経験を満たしてからは何年か連続で受けましたが合格せず、その折に2011年に東日本大震災、福島第一原発事故が発生しました。当時主に社内での電気〜システム設計がメインだった私の業務は大きく変化しました。ここで私は指導技術士の上司に呼び出されます。言われたミッションは「現場とやりとりして一刻も早く食品放射能を計測できる装置を開発しろ」でした。私はお客様や協力会社と協力し、現場に伺ってその場で鉛を組んで試作評価などを行い無事ミッションを達成することができました。その結果は応用物理学会で発表し、論文を分科会誌の「放射線」に投稿しました。またこの時期に除染ボランティアにも参加しました。作業をしたのはほんの数日でしたが、この経験は技術士を取得するうえで非常に重要なキャリアになったと思います。

現場で取ったデータを整理しているところ。想定外の結果になっていることもしばしば....

その後、私の業務はこの時期からデスクワークから現場に行って製品を実際に形になるように/運用できるようにすることに変わり、研究用の原子炉内に作業者の被ばくをリアルタイムに管理するシステムの構築や、焼却炉の排気ガスの放射線モニタの開発、IAEA GSG-2に基づくOILモニタリング関係システムの開発に関わり、結果学会で5回(うち国際学会2件)発表し、論文を1件投稿しました。これらの経験を買われたのかIECのExpert(TC45/SC45B:放射線防護計測)にも推薦して頂き2件のJISの作成にも関わることが出来ました。今思い直せばこれら一連のプロジェクトは自分にとってすごくやりがいがあったし、自分に合っていたのだと思います。だからこそ会社は私を起用してくれたのでしょうし、自分のキャリアとして身に付いたのでしょうし、この経験が技術士として必要な「科学技術に関する技術的専門知識と高等の応用能力及び豊富な実務経験」になったのだと思います。さらに言えば原子力・放射線業界でのこれらの経験は特に技術士の資質として必要な「公益を確保するための高い技術者倫理」の勉強になったのかもしれません。そしてその合間も勉強しつつ技術士二次試験を毎年受け続け、2016年に技術士二次試験に合格し、晴れて原子力・放射線部門の技術士になりました。合格発表の日も製品の調整で現場に出張していて、作業後現場から戻って宿泊先の近くの居酒屋で祝杯をあげた覚えがあります。日立アロカメディカル株式会社は2016年3月で日立製作所に吸収合併されたため、私が日立アロカメディカル株式会社(アロカ株式会社)での最後の登録の技術士になりました。(このことも自分が技術士であるプライドの一つですね。)

3.技術士と技術士会

私の(技術士補あらため)技術士としてのキャリアは日立製作所から始まることになりました。ちょうどこの前後で関わっていたプロジェクトが日立グループ4社(日立パワーソリューションズ、日立建機、日立建機日本、日立アロカメディカル)による除染で発生した土のう袋の計測システムの共同開発でした。環境省の除染・減容等技術実証事業等に関わり、現場での試験を連日続けました。建築・土木の業界では技術士が比較的ポピュラーな資格なのでお客様との打合では私が「技術士」であることが顧客とのプロジェクトの合意形成に非常に役に立ちました。この結果はIsotope NewsのTracerに投稿しました。

2018年10月より異動により設計部門から品質保証部門の所属となり、専門の放射線計測関連の装置だけでなく検体搬送・分注や検体検査の装置も含めた品質保証業務に関わるようになりました。ちょうどこの時期は企業のコンプライアンスが問われる事例が相次いだ時期で、今までの設計の業務は技術士としての放射線計測の専門性を強く生かすものでしたが、品質保証部門になってからはその専門性だけでなく、技術士としての高い倫理観も求められるようになりました。現在はかつての現場での作業はなくなりつつあり、「現場で経験を積んだ技術士」として製品・システムの妥当性を判断したり、後輩等の指導やアドバイスをするようなものが主な業務になっています。

技術士になってから以前よりお世話になっていた日本技術士会原子力・放射線部会の役員として関わらせて頂けるようになり、数年前より主に役員会等各種活動のweb化について担当しています。部会では他社の技術士と一緒に様々な作業をこなしていくのですが、企業文化の違う同士で物事を進めていくことは特に原子力・放射線部会はベースとなる工学の分野が多岐にわたることもあり、とても勉強になります。原子力・放射線部会は他の部会と比較して部員の比率が地方に多い傾向があり、部会や講演会に参加するために東京などの会場に伺うことが困難な方が少なからずいます。運営のweb化は今後の部会の活性化、さらには日本技術士会全体や社会の動きに乗り遅れないようにできればと思います。

海外での懇親会で記念に。様々な人とのコミュニケーションは特に大切にしています。

併せて技術士になってから日立技術士会にも入会しました。総会でお会いした方からの誘いがあり、広報委員として組織運営に関わるようになりました。日立技術士会は会員数は1000人を超え、17部門の技術士がいます。原子力・放射線部会は同分野の様々な方との出会いや交流がありますが、日立技術士会は別部門の自分が全く関わったことのなかった日立の事業に携わる技術士との出会いや交流があります。自分の技術士の部門や事業部だけではわからない日立全体の動向を知るには非常に良い機会です。何よりも日立技術士会のただの馴れ合いでは無いお互いの尊敬を忘れない文化は私にとってはとっても居心地の良いものです。また日立Gr.技術士会としてアロカ技術士会から続くヘルスケア技術士会の運営にも関わり、事業部内の交流も持つようにしています。

4.プライベートなど

学生の頃からベースギターをやっており、最近は中々集まれていませんが、社会人になってから知り合った気の合う仲間でバンドを結成し、アニソンやメタルのカバー曲を演奏して楽しんでいます。また護身術と指圧を扱う柔術を学んでいて、技術士となった2016年に師範の認可を貰いました。この柔術でヨーロッパやアメリカに訪問して現地の方ともよく交流するのですが、自己紹介の時の「原子力・放射線部門の日本の技術士」という肩書きはコミュニケーションを始める上での大きなネタになってます。その他、車やバイク、自転車をいじってみたり、栃木県小山市のとある農場に伺って野菜を作ってバーベキューで和気あいあいとしたり....手当たり次第ですね。

自分のキャリアを考えると、技術士として活躍した期間よりも、技術士補として技術士を目指しながら企業や社会に貢献した期間の方が長く、私以上に技術士として活躍している方はまだ他にたくさんいると思いますが、技術士の活躍というテーマで自分なりにまとめてみると、「技術士だから活躍する/した」のではなくて「活躍する/したから技術士」なのではないかと思っています。駄文で恐縮ですがこのコラムで技術士に興味を持つ人や目指す人、技術士を登用する企業や団体が増えれば幸いです。

柔術の稽古で投げられているところ。仕事も柔術も受け身は重要です。
プロフィール
  • 1995年 甲陽学院中学校・高等学校 卒業
  • 2001年 近畿大学理工学部原子炉工学科 卒業
  • 2003年 大阪大学大学院博士前期課程電子情報エネルギー工学科 修了
        アロカ株式会社(2011年以降は日立アロカメディカル株式会社) 入社
  • 2005年 原子力・放射線部門で技術士補を取得
  • 2007年 アロカ労働組合執行部役員(非専従、2009年まで)
  • 2016年 技術士(原子力・放射線)取得
        株式会社日立製作所に転籍(日立アロカメディカル株式会社の吸収合併による)
        指圧の指導講師、柔術の師範認可(現在は逮捕術指南及び免許皆伝)
        日立技術士会広報委員会委員(〜2021年10月時点)
        ヘルスケア技術士会(≒社内事業部の技術士会)理事(〜2021年10月時点)
        日本技術士会原子力・放射線部会幹事(〜2021年10月時点)
  • 2021年 株式会社日立製作所ライフ事業統括本部品質保証本部 技師(〜2021年10月時点)
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