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生物工学部会

施設見学会実績(見学会および講演会)2023年

キリンビバレッジ湘南工場内での記念撮影(拡大画像へのリンク)

キリンビバレッジ湘南工場内での記念撮影

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2023年度 施設見学会記録

【日時】2023年9 月15日(金) 13:00〜17:00 (終了後懇親会)
【訪問先】キリンビバレッジ株式会社 湘南工場
【懇親会】JR茅ヶ崎駅周辺

【内容】
 2023年度の施設見学会は塩野会員・吉田聡会員ご協力の下、神奈川県高座郡寒川町のキリンビバレッジ(株)・湘南工場に伺った。本見学会には30名が参加した。東田部会長の挨拶で見学会がスタートし、2班に分かれてキリンビバレッジの主力商品である「午後の紅茶」の製造工程をパネル展示や映像により見学した。見学後、ストレートティー・ミルクティー・レモンティー3種のテイスティングを体験した。さらに、生茶リッチおよびおいしい免疫ケアについても追加で試飲体験を実施頂いた。
 加えて、農業部門の小久保健様(キリンホールディングス株式会社)よりプラズマ乳酸菌の研究開発についてご講演頂いた。
 講演後、中野理事から総括のコメントを頂き、東田部会長から小久保様に生物工学部会30周年記念誌が贈呈された。以下に詳細を報告する。

1.キリンビバレッジ株式会社の概要
 1963年4月、麒麟麦酒株式会社(旧制、現・キリンホールディングス株式会社)がキリンレモンやキリンオレンジを自動販売機で販売する「自動販売サービス株式会社」を設立。
 数度の商号変更を経て、1991年にキリンビール株式会社清涼飲料事業部門の営業譲渡を受け、「キリンビバレッジ株式会社」に至る。
 紅茶(午後の紅茶)・コーヒー (FIRE)・緑茶(生茶)・炭酸飲料(キリンレモン・メッツコーラ)等が主力商品で、ブランド力・収益力を高める戦略を打ち出している。また、近年では「プラズマ乳酸菌」など健康に配慮した機能性飲料や、環境に配慮した「ラベルレスボトル飲料」も展開している。

2.キリンビバレッジ株式会社湘南工場の概要
 キリンビバレッジ株式会社湘南工場は、1973年6月に「キリンレモン・サービス相模工場」として設立。同工場はペットボトル商品40品種(23年3月時点)を製造し、キリングループ工場最大の製造数量を誇っている。

3.午後の紅茶ツアー
 工場ならではの体験を通して、同社の代表ブランド「午後の紅茶」のおいしさのこだわりを体験した。
 最初に、映像により「午後の紅茶」の歴史や製造工程を紹介頂いた。
 続いて2班に分かれて、迫力ある映像と動きに連動するプロジェクションマッピングの仕掛け、インタラクションを交えた製造工程を見学した。以下に見学内容を記す。
 「午後の紅茶」に描かれているイラストの女性は、イギリスの7代目ベッドフォード公爵夫人であるアンナ・マリアで、アフタヌーンティーを広めたとして知られている。アンナ・マリアのイラストをパッケージに掲載することで、本物の紅茶のイメージを打ち出している。本場イギリスの習慣を日本にも根付かせたい、という想いのもと、アフタヌーンティーをそのまま日本語に翻訳して「午後の紅茶」と名付けられた。
 日本に輸入している茶葉の半分はスリランカ産の茶葉であり、その内およそ24%が「午後の紅茶」に使用されている。スリランカの茶葉と一口に言っても、栽培場所や高度によって様々な種類があり、紅茶の種類により使い分けがなされている。
 ・ストレートティー:ディンブラ茶葉
  特徴:華やかな香りと心地よい渋みが特長。スリランカの中高地で栽培されている。
 ・レモンティー  :ヌワラエリア茶葉
  特徴:フルーツのような爽やかな香りが特長。スリランカの高地で栽培されている。
 ・ミルクティー  :キャンディ茶葉
  特徴:コクがあり丸みのある柔らかさが特長。スリランカの低地で栽培されている。
 キリンの取り組みとして、2007年からスリランカの小学校に「キリンライブラリー」を設置する活動を進めている。現在までに200を超える学校に図書を寄贈し、現地の子供たちの学力向上の一端を担っている。
 この他、「レインフォレスト・アライアンス認証※」を取得した茶葉を用いた商品も展開している。2013年から現地農園が環境に配慮し、労働環境や生活環境を向上させて継続的に茶葉を生産できるよう「レインフォレスト・アライアンス認証」を取得するためのトレーニング費用を提供する支援も行っている。
 「午後の紅茶」は1986年に日本初のペットボトル入り紅茶として発売された商品である。
 茶葉から淹れた本格的な紅茶をペットボトル飲料として生産する場合、「冷やすと濁る」という課題を解決しなければならない。これは紅茶そのものが持つ特性であり、試行錯誤の末、「クリアアイスティー製法」が誕生した。この技術により、ペットボトル入り紅茶の量産が実現した。
 「午後の紅茶」は4つのエリアを経て製造される。
[1]:ペットボトル成形エリア
  プリフォームと呼ばれるペットボトルの材料をブロー成形機に流す。成形機内でプリフォームを加熱し、柔らかくしてから金型に入れ空気を吹き込み膨らませる。できたペットボトルは検査機を通って、充填エリアに移送される。
[2]:抽出・調合エリア
  ニーダーと呼ばれる抽出機に茶葉とお湯を加えて紅茶が抽出される。一度の抽出でおよそ25,000本分の紅茶が製造されるとのこと。抽出後、篩を通して茶葉と紅茶に分け室温まで冷ます。冷却後、遠心分離機で細かい茶葉や濁りを取り除き、調合タンクで砂糖やミルク、レモンなどを加え、味が調えられる。できた紅茶は高温短時間殺菌工程を経て無菌タンクに貯蔵され、順次充填エリアに移送される。
[3]:充填エリア
  充填エリアは無菌室となっており、ペットボトル成形エリアで成形されたペットボトルが洗浄機で洗浄される。充填機内でペットボトルに紅茶が詰められ、キャッパーでフタがされる。ここでは1分間に600本の速度で充填が行われる。
[4]:包装エリア
  紅茶が充填されたペットボトルはラベラー内でラベルが取り付けられ、蒸気トンネルを通り、蒸気によりラベルが圧着される。製品外観検査機を通し、異常がないか確認後、印字機で賞味期限と製造所固有番号が印字される。その後、段ボールに梱包され、重量確認後パレットに積まれ、全国各地に出荷される。湘南工場では一日におよそ250万本製造されているとのこと。
 製造工程をご紹介頂いた後、工場見学用にカスタマイズされた小型設備を使って製造体験を行った。小型ブロー成形機を用いたペットボトルの成形では、成形される瞬間を逃すまいと皆カメラを構えて撮影していた。また、ラベルの圧着工程、ラベル印字体験では、それぞれの参加者の性格が反映されますね、といった会話と共にお互いの印字されたリーフレットを見せ合った。
 最後に、ストレートティー・ミルクティー・レモンティー3種のテイスティングを体験した。3種を横並びで違いを感じる、ということを行ったことがなかった為、とても新鮮な体験であった。茶葉ごとで明らかに色・香りが異なり、それぞれの用途に適した茶葉が厳選されているということを実感した。また、「午後の紅茶」にはミレービスケットが合うとご紹介頂き、ビスケットを食べながら各自テイスティングを楽しんだ。
 ※レインフォレスト・アライアンス認証
  レインフォレスト・アライアンスは、1987年に地球環境保全のために熱帯雨林を維持することを目的に設立された、人と自然にとってより良い未来を創るために活動する国際的な非営利環境保護団体。「レインフォレスト・アライアンス認証」は、農園がサステナビリティの3本柱である「環境」、「社会」、「経済」のすべてについて、より持続可能であることを基準に照らして、独立した立場で監査し保証する国際的な認証制度である。

4.講演会
 キリンホールディングス株式会社ヘルスサイエンス研究所の小久保健様(技術士;農業部門)より、「免疫機能を維持するプラズマ乳酸菌の研究開発」という演題でご講演いただいた。
 キリンはグループ経営理念に「キリングループは、自然と人を見つめるものづくりで、「食と健康」の新たなよろこびを広げ、こころ豊かな社会の実現に貢献します」を掲げており、食から医にわたる領域でイノベーションを創出している。
 キリンでは免疫研究を35年間、乳酸菌研究を20年間取り組む中で、「プラズマ乳酸菌」シリーズが開発された。これは、ヒトでプラズマサイトイド樹状細胞(pDC)に働きかけることが世界で初めて論文報告された乳酸菌であり、食と医をつなぐキリンの代表的商品として知られている。
 一部の乳酸菌が免疫細胞を活性化することは知られているが、一部の免疫細胞(NK細胞)のみを活性化するにとどまる。免疫の司令塔であるpDCを活性化することが出来ればNK細胞を含む免疫細胞全体を活性化させることに繋がると考え種々の検討がなされてきた。
 プラズマ乳酸菌 Lactococcus lactis strain PlasmaはJCMから発見され、プラズマサイトイド樹状細胞が名前の由来となっている。これまでにキリン、小岩井乳業、協和発酵バイオ、さらに国内外の大学・研究機関との共同研究で多くの論文発表を行っている。
 プラズマ乳酸菌を添加することでpDCからのIFN-α産生量が、一般的な乳酸菌と比較して顕著に高くなる結果が得られている。また、プラズマ乳酸菌は貪食によりpDCの内部に取り込まれることでpDCを活性化させることが分かっており、そのメカニズムとして、プラズマ乳酸菌のDNAがpDCの受容体TLR9に認識されることでpDCを活性化し、IFN-α産生が誘導される。プラズマ乳酸菌のDNAが認識されれば良いため、生菌でなくても小腸に届くだけで効果を発揮すると考えられている。加工飲食品製造用のプラズマ乳酸菌は粉末状で納品されており、菌は死菌体とのこと。
 これまでに動物試験で肺炎の症状緩和や、ヒトへの臨床試験で2週間のプラズマ乳酸菌摂取により免疫が有意に改善した等のデータが得られている。
 加えて、小岩井乳業の工場がある岩手県雫石地域においてプラズマ乳酸菌ヨーグルトを一定期間定期的に配布した学校と配布しなかった学校との比較で、インフルエンザ感染者の発生数を調査した。その結果、定期的なプラズマ乳酸菌の摂取をした学校では、インフルエンザの罹患率が配布しなかった学校と比較して有意に低値であったことが確認できた。
 この他、デング熱や、新型コロナウイルスに対しての研究も進められている。
 iMUSEをはじめとするプラズマ乳酸菌を含む商品は当初、機能性表示食品ではなかった。機能性表示食品はその当時3000種近くあるにもかかわらず、「免疫」を訴求した商品がなかったのは、「免疫」が医療にも跨る領域のため、食品としての科学的根拠を示すことが難しい点が主な理由であった。他の保健機能よりも表示のハードルが高いとされてきた中でこれまでの研究成果を基に、2020年に日本で初めて機能性表示食品制度の免疫領域において消費者庁に届出受理された。これにより、プラズマ乳酸菌は科学的根拠を持って、「健康な人の免疫機能の維持をサポート」することを表示できるようになった。
 講演後の質疑応答では、活発な意見交換が行われた。

5.所感
 キリングループの多種多様な商品群が全て、「食と健康」の新たなよろこびを広げ、こころ豊かな社会の実現に貢献する、という理念に繋がっていることを改めて実感した見学会であった。長寿社会、新規感染症など、社会を取り巻く環境変化を常に先読みし、対応していく姿勢は是非見習いたいと感じた。
 なお、私は不参加であったが、翌日のオプショナルツアーでは、キリンビール横浜工場見学が行われた。参加された方からは、「『キリン一番搾り生ビール』のこだわりやおいしさについて、ガイドの方の説明や映像、テイスティングなどを通して、存分に体感することができた。」との感想をいただいた。
 最後に、本見学会開催にあたり、キリンビバレッジ株式会社、キリンホールディングス株式会社の皆様から大変丁寧な対応を頂いた。また、企画運営に携わって頂いた生物工学部会の方々も含め、ご尽力いただいた皆様へ感謝申し上げます。

(記録者:長屋 美穂)

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