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生物工学部会

施設見学会実績(見学会および講演会)2022年

拝田グリーンバイオ事業所事務所棟内での記念撮影(拡大画像へのリンク)

拝田グリーンバイオ事業所 事務所棟内での記念撮影

(画像クリックで拡大 46KB)

夏季施設見学会記録

【日時】2022年7月8日(金) 13:30-17:00 (終了後、懇親会)
【訪問先】三和酒類株式会社 本社工場、拝田グリーンバイオ事業所
【懇親会】JR別府駅周辺

【内容】
 2022年度の夏季施設見学会は、大分県宇佐市の三和酒類に伺った。生物工学部門だけでなく、化学部門や農業部門からも参加者があり、計24名であった。焼酎の仕込み作業が7月下旬で終わる(より上流の工程である製麹などの固体培養は7月中旬)とのことで、例年よりも早い開催となった。また、SARS-CoV-2の感染予防のため、参加者全員が、施設見学の直前に、アドテック株式会社(本社、宇佐市)のウイルス抗原検査キットで陰性を確認した。
 三和酒類は、昭和33年に、酒業を営んでいた3家の合併で始まり、翌年に1家加わり、その4家で現在でも経営されている。昭和58年に、良質な水を求めて、みかん畑であった山本工場(現在の本社工場)に移転している。山を削って工場を作った後、植林を毎年行うことで、緑豊かな環境を維持している。植林は、新入社員の恒例行事になっている。約6万坪の工場敷地内で、醸造から充填・出荷までの工程を行なっており、さらに、研究棟もある。建物の外側がカビや黒酵母の影響で黒くなっているのが純粋培養とは異なる自然との共生を象徴するようで印象的である。研究棟の前にはリンゴの木があり、その他にも、敷地内には梅や桜の木があり、社員の季節の楽しみともなっている。

1.麦焼酎の製造
 中村技術士による挨拶の後、総務の渡辺様にガイドをして頂いた。製造場に移動後、三和酒類の高下研究本部長にご挨拶を頂き、原酒ができるまでの工程を見学した。工場内での見学では、4班に分かれて、溝口様、村上様、佐保技術士に、ご案内頂いた。待機時間に、井元技術士によるオンラインでの焼酎製造のセミナーが行われた。
 もろみの製造では、65%まで精麦した二条大麦5tをドラムに入れ、凝集を防ぐために回転させながら浸漬させる。浸漬により、蒸す時に柔らかくなる。浸漬された大麦は連続蒸し器に移され、冷まされた後、種麹が足される。固体培養で2日間、製麹された後、水と酵母(酵母のアルコール発酵による並行複発酵のため)が足され、一次仕込みが行われる。一次仕込み2日目のタンクでは、表面に大きな泡が見られ、香りが感じられた。3日目のタンクではフタと呼ばれる上部の固形物の層と下部の液層に自然に分かれており、攪拌時にフタの厚さなどをチェックして、温度などの調整を決めている。5日間仕込んだ物を酒母と呼び、その酒母に蒸し麦と水を足して、10日間の二次仕込みが行われる。一次、二次と手間を掛けている理由は、二次仕込みの時に味を整えることができるからである。仕込みの時、クエン酸が多く出るため、腐らないと言われている。その次に、原料の風味を活かすために1回だけ蒸留(単式蒸留)を行い、アルコールと香気成分を回収している。1%に満たない香気成分が焼酎の味を決めているとの説明があった。蒸留器の上部の形状(幅や角度)で香味が変わること、三和酒類では減圧蒸留でフルーティな香味を出していることを説明して頂いた。また、蒸留後、屋外タンクで3~4ヶ月置くことでまろやかさを出している、とのことであった。蒸留では、アルコール度数が45度未満になるようにしており、それを割って20~25度の原酒にしている。製品にする時に、タンク貯蔵と樽貯蔵のブレンドを行うなど、原酒の引き出しを多く持つことが酒造メーカーの強みとなっている。タンクや樽は、日付と内容量が記載されて管理されている。また、三和酒類の焼酎では、地下300mから汲まれている湧水が使われており、樽の貯蔵のために掘った穴から出た湧水を見せて頂いた。

2.紙パックへの充填
 紙パック充填場では、「いいちこ」の充填を見学した。昭和54年に発売された「いいちこ」は、当時では珍しい、方言を商品名にした商品であった(「いいちこ」→「いいですよ」という意味)。紙パック充填場では、折り畳まれた状態で納品された紙パックの組み立てから、充填、検査、梱包、出荷までを行っている。紙パックは、資材メーカーとの丁寧な打ち合わせを経て完成したものであり、現在では、出荷の7~8割を占める。紙パックは瓶と違って中身が見えないため、重量による内容量の測定、金属検査や画像検査などによる異物チェックが行われている。毎朝、6種類の異物サンプルをラインに乗せ、それらがチェックポイントで排除されるかを確認することで、工場の動作確認が行われている。さらにシュリンク包装を行い、梱包された後、1昼夜静置することで、漏れのチェックが行われている。紙パック充填は自動化されており、1チーム3人で効率よく作業が行われている。

3.製造工程で生じる焼酎以外の成分の利用
 バスで拝田グリーンバイオ事業所に移動し、焼酎製造工程で生じる副産物(焼酎粕)から、発酵大麦エキスの抽出とメタン発酵によるエネルギー利用について見せて頂いた。
 片峯様と岡野技術士に施設の案内をして頂いた。1日に約140t得られる焼酎粕のうち100tは、固液分離され、液分は熱で約3倍に濃縮され、飼料・肥料として有効活用されている。その濃縮のための熱は、残り40tをメタン発酵することによって得られるメタンガスとLPガスを使っている。メタン発酵では、平膜でメタン菌の密度を高めて効率化した連続培養であり、pH8.0くらいで発酵している。排水は活性汚泥法で処理した後、膜で濾過している。施設見学の後、辛島技術士と新谷様に、焼酎粕を食品グレードの工場でろ過、濃縮した素材、発酵大麦エキスの微生物培養基材および健康食品素材としての利用について、セミナーをして頂いた。微生物培養基材では、発酵大麦エキスは、ペプチドと糖が豊富であることから窒素源として利用されている。健康食品素材では、乳酸菌を発酵大麦エキスで培養して得られるGABAが機能性表示食品素材として販売されている。そのGABAは、ヒト試験で、活気・活力の維持や肌弾力の維持で効果がみられている。発酵大麦エキスの業務では、所属する技術士が、技術コンサル能力を活かし、日常的に技術支援を実施している、とのことである。セミナーの後の質疑応答では、活発な意見交換が行われた。

4.懇親会
 感染対策を十分にとり、懇親会が行われた。東田部会長の乾杯で始まり、佐野理事の言葉で閉会した。

6.所感
 全体を通して、三和酒類の商品に対する誇りと妥協しない姿勢、継続的な研究と改良、やり遂げるチャレンジ精神、効率およびリスクマネジメントにおいて洗練されたシステム、良好な雰囲気で培われたコミュニケーション能力などが感じられ、技術士の研修として、非常に有意義であった。

(記録者:伊東 潤二)

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