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生物工学部会

研修旅行実績(見学会および講演会)2018年

養老工場正門前での記念撮影(拡大画像へのリンク)

養老工場 正門前での記念撮影

(画像クリックで拡大 47KB)

研修旅行記録

【日時】平成30年7月19日(金)12:30-17:30(終了後懇親会)
【訪問先】天野エンザイム株式会社 養老工場・岐阜研究所
【懇親会】(名古屋駅周辺)

【内容】
 研修旅行担当 久保副部会長の企画により、過去最大の参加人数となる研修旅行が開催された。当日は参加者46名全員が名古屋駅に集合し、バスで移動して天野エンザイム株式会社の養老工場と岐阜研究所を見学した。
 養老工場では、水戸会員(生産本部 生産技術部 製造技術チーム液培 サブリーダー)のご挨拶の後、生産本部 生産本部長 野村様より天野エンザイム株式会社の概要を、生産本部 養老工場 事業所長 兼 工場長 富成様より養老工場の概要を説明いただいた。そして2班に分かれて工場を見学した。岐阜研究所では、マーケティング本部 岐阜研究所長 兼 フロンティア研究部長 小池田様とマーケティング本部 研究推進室長 鷲津様にお迎えいただき、小池田様より研究所の概要を説明いただいた。そして4班に分かれて研究所を見学した。以下にその概要を報告する。

1.天野エンザイム株式会社の概要
 天野エンザイム株式会社は、酵素の研究開発、製造および販売を行う国内トップメーカーで、2つの培養生産方式(固体培養と液体培養)によりメディカル分野と食品分野の酵素を提供している。企業理念として「開拓者精神」「共生(ともいき)」「継続成長」を掲げ、天野の精神である「無から有を創る」「慈善」「熱と愛と誠」を大切にして企業活動を行っている。創業は1899年の配置売薬業に始まり、1939年に一般薬拡販のため中国に進出、1948年に天野製薬を設立して医療用酵素(麦芽ジアスターゼ)の製造を開始、1980年に中国でパンクレアチン(ブタ膵臓抽出酵素)の補償貿易を展開、2000年に事業領域を医療用・一般用医薬品から酵素に特化することを決定し、社名を「天野製薬」から現在の「天野エンザイム」に変更した。現在、メディカル用酵素分野では胃腸薬の消化酵素が国内トップシェアを誇るが、酵素市場において規模の大小に関わらず「World No.1 Speciality Enzyme Producer」を目指して事業を推進している。
 2018年3月期の売上高は191億円、グローバル展開にも積極的で海外売上比率は50%を超え、産業用酵素が売上の過半数を占める。事業所は愛知県に本社を置き、東京事務所、岐阜県に研究所を配し、生産は国内3拠点(名古屋工場、養老工場、滋賀工場)、海外2拠点(メキシコ、中国)、販売は海外の現地法人4拠点(米国、英国、中国、タイ)を有する。
 同社の社会貢献活動には『酵素応用シンポジウム』と『酵素資料室』の取り組みがある。『酵素応用シンポジウム』は、創業100周年の記念事業として2000年から毎年開催され、産業界に影響を与える酵素の基礎または応用研究に対して研究奨励賞を贈呈している。『酵素資料室』は「酵素の発見から始まる酵素利用の歴史を包括的に知っていただく」をコンセプトとして関連する資料や書物を収集し(約3,400冊所蔵)、2010年6月に設立・公開された。いずれの取り組みも微生物が持つ多種多様な能力を深く理解・探求・共有し、より一層の酵素利用の振興に貢献する活動である。

2.養老工場の概要・見学
 養老工場は、日本列島のほぼ中央に位置する岐阜県大垣市にあり、名神高速道路の関ヶ原ICから車で約10分、伊勢街道沿いに隣接している。名神高速道路を挟んで北側に天下分け目の合戦 関ヶ原の戦いで毛利秀元が陣を敷いた南宮山があり、歴史好きにとって魅力的な地域に立地する。当工場の操業開始は 1976年、敷地面積78,487平方メートルに複数の工場があり、生産本部と品質保証部からなる従業員約80名の体制でメディカル用酵素(消化酵素、医薬中間体、診断薬用酵素)と産業用酵素(主に食品加工用酵素(糖、醸造、乳製品、蛋白加工、油脂加工))を製造している。生産本部には、産業用酵素を製造する「液体培養チーム」、無菌酵素や診断薬酵素を精製する「精製チーム」、従業員の安全衛生、或いはユーティリティ(水、蒸気、空気や排水処理などの製造支援システム)を管理する「安全環境チーム」、既存生産品目の技術的なサポートをする「技術チーム」の4チームがある。さらに名古屋工場
にオフィスがある品質保証本部の「試験検査チーム」と「品質保証チーム」の一部メンバーが在籍し、品質管理に関する分析を行っている。工場の品質保証体制として、食品用酵素はFSSC22000認証、コーシャ認証、ハラール認証、医療用酵素は原薬GMP、診断薬用酵素はISO13485認証を取得し、安全・安心、安定した品質確保を実現している。
 工場見学は養老工場内にある複数の工場のうち4つの工場を見学した。始めにご案内いただいた2つの工場は培養と精製のラインで、メディカル用酵素と産業用酵素が製造される。凍結状態でストックしている菌をフラスコ培養からスケールアップしていき、数kLの前培養を行った後、数10kLのタンクで大規模培養が行われる。培養終了後、フィルタープレス(加圧濾過)、限外濾過を行い、菌体が分離・濃縮される。次に見学した工場ではスプレードライヤーという乾燥装置を使用して、液状の酵素液を熱風で瞬時に粉末化し、50ミクロン程度の大きさにした酵素粉末が回収される。尚、製品の剤型は粉末と液体があり、粉末は養老工場で製造され、液体は他の工場に持ち込み調合・製造される。最後に見学した工場は培養と精製のラインで、昨年に新規ビジネスとして参入した再生医療用の無菌酵素が製造される。製造装置は最初に見学した2つの工場とほぼ同じだが、培養規模が10分の1位のため、設備の規模もそれらと比較して小さい。数10Lの前培養の後、数kLの本培養が行われる。とは言え、工場に設置されているタンクは学生の頃に見た実験室の培養装置とは比較にならない程大きく、その大きさに圧倒された。
 尚、今回は見学していないが、養老工場内には低ダスト製剤を製造(造粒)する工場や診断薬を製造(有機溶媒による粉末化、イオン交換樹脂等による精製)する工場があるという説明があった。

3.岐阜研究所の概要・見学
 岐阜研究所は、岐阜県南部のほぼ中央に位置する各務原市に建つ研究開発拠点で、岐阜県が整備するテクノプラザの敷地内に2000年に開設された。敷地面積は22,600平方メートル、建物はイギリスの建築家 リチャード・ロジャース※と日本の建築家 黒川紀章により共同設計され、
地上2階/地下1階、延べ床面積6,700平方メートル、東西200mの造りになっている。
※リチャード・ロジャースの作品として、ロンドンにあるミレニアムドームやヒースロー空港のターミナル5、パリにあるポンピドー・センターなどがある(小池田様ご紹介)。
 当研究所では、顧客ニーズを起点にして酵素探求、変異新技術、応用研究、商品開発研究、製造法開発研究、スケールアップ研究、工業化研究を80名体制で行っている。酵素研究の歴史は長く、医療用酵素は1948年開始、食品用酵素は1960年代、診断用酵素は1970年代、合成用酵素は1980年代、ダイエタリー・サプリメント用酵素は1990年代、オーラルケア用酵素は2000年代に開始した。新規酵素の探求にあたっては、自社独自の微生物探索だけでなく、外部研究機関と連携した探索も行っている。具体的には、独立行政法人 製品評価技術基盤機構(NITE)が実施する海外微生物探索プロジェクトへの参画や愛知県犬山市にある公益財団法人 日本モンキーセンター(JMC)との連携によるゴリラの腸内細菌からの有用酵素の探索などがある。
 研究所見学は西、中央、東の3つのブロックをご案内いただいた。どのブロックも建物外観のオレンジ色のパイプ(アーチビーム)が天井を支えているため、柱のない開放的な空間で明るい。西ブロックはメディカル用酵素の研究開発を行い、中央ブロックは産業用酵素(主に食品加工用酵素)の研究開発を行っている。東ブロックは最先端技術を応用した酵素研究ならびに菌株のスクリーニング、菌株の管理が行われる。研究所の地下室には、振とう培養器をはじめ、温度・通気量・攪拌速度・pHなどの培養条件を検討する2Lの培養装置、スケールアップの検討にあたり加圧も可能な5L、そして20Lのジャーファーメンターがずらりと並ぶ。さらに高解像カメラを搭載するコロニーピッカーがあり、高精度・高速な自動釣菌を実現している。その他の施設として、図書室(約6,000冊所蔵)や会議室、応接室、食堂(管理栄養士による栄養バランスのとれた日替わりランチメニューあり)、仮眠室やシャワールームが完備されており、思う存分に研究開発に打ち込める環境が整えられている。
 研究所見学終了後、公益社団法人 日本技術士会 柿谷理事より工場・研究所見学のお礼、感謝の気持ちを込めて、冊子「新バイオの扉 −未来を拓く生物工学の世界−」(生物工学部会創設20周年記念出版物)が天野エンザイム株式会社様に贈呈された。

4.懇親会
 名古屋駅前の飛騨牛料理のお店で懇親会が開催され43名が参加した。懇親会の途中、海外出張から帰国されたばかりの豊増会員(天野エンザイム(株))やオプショナルツアーでお世話になる太田会員(菱太産業(株))も加わり大いに盛り上がった。参加者一人一人が自己紹介を行い、見学会でお世話になった水戸会員(天野エンザイム(株))にお礼と感想が述べられた。

5.オプショナルツアー
 夏季研修旅行の翌日、オプショナルツアーとして、菱太産業株式会社の太田屋守山工場とアサヒビール株式会社の名古屋工場の見学会が開催された。
 太田屋守山工場の見学では、太田会員(菱太産業株式会社 常務取締役)より「白醤油」の製法や製造工程、生産計画などを詳しく説明いただき、実際の製造現場を見学した。
 白醤油は江戸時代の後期頃、愛知県で生まれた醤油で、一般的な醤油は原料が大豆と小麦を半々にして作られるのに対し、白醤油は原料のほとんどが小麦のため、色が淡く琥珀色に輝き、豊かな香りとほんのりとした甘みがある。その淡い色を守るため製造工程では加熱処理をしないこと、もろみから白醤油を引き出す「生引」では一番搾りと二番搾りをブレンドして製品化していること、鍋料理やおせち料理に使用される白醤油が10〜11月に多く売れるため、その3 ヶ月前の6〜7月の暑い時期に仕込んでいること、など質疑応答も含めて太田会員から詳しく説明いただいた。その後の見学会でも、各製造工程の設備を間近で解説していただき、白醤油についての知識・理解を深める大変貴重な機会となった。
 アサヒビール株式会社の名古屋工場見学では、名古屋工場 総務部 部長 東様、品質管理部 副部長 八幡様より会社概要ならびに名古屋工場の概要を説明いただいた。そして工場見学の後、できたてのビールを試飲した。
 概要説明では、アサヒビール株式会社における品質保証に関して、食品に求められるものの変化、お客様のニーズに応える姿勢・対応、ビールの鮮度に関する取り組みなど、具体的な事例をもとに説明いただいた。普段何気なく目にする缶蓋のプルタブや瓶ビールのバックラベルの印字、段ボールカートンの表示等にお客様の生の声が活かされていること、お客様の要望に応えた結果、業界で初めて製品の原材料・成分一覧表をWeb公開したこと、お客様からの容器別の様々な問合せに対応し、それらを積み重ねることで問合せ件数が年々減っていること、などお客様のニーズを確かめながら品質の高い製品を生産している取り組みを説明いただいた。絶え間なく改善する意識と仕組みが社内組織に浸透・定着し、日本初の辛口生ビール「アサヒスーパードライ」を生み出した、お客様のニーズに応えるという姿勢、文化が脈々と受け継がれていると感じた。

6.所感
 天野エンザイムは2000年に社名を変更し、長年取り組んできた酵素分野に経営資源を集中的に投下する戦略をとった。今や酵素が食品や医療・製薬に必要不可欠なのは言うまでもないが、2000年当時、酵素一筋に舵を切った同社の経営判断、先見の明には驚かされる。微生物は食糧生産や環境、新規エネルギー生産など様々な分野の問題を解決する無限の力と可能性を秘めている。微生物と歩みを共にする同社の幅広い分野の活躍が期待されると同時にビジネスにおける「継続」「選択・集中」「強み分野を生かす」大切さを改めて感じた。

(記録者:高橋 俊哉)

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