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生物工学部会

研修旅行実績(見学会および講演会)2009年

産業技術総合研究所中国センターバイオマス研究センター(拡大画像へのリンク)

産業技術総合研究所中国センターバイオマス研究センター

(画像クリックで拡大 52KB)

2009年度研修旅行記録

 日時:2009年7月10日(金) 13:00〜16:30
 場所:(独)産業技術総合研究所 中国センター バイオマス研究センター
 内容:バイオマス研究センターにて講演会と施設見学会

 日本技術士会・生物工学部会主催の夏季研修旅行として、今年度は、広島県呉市にある(独)産業技術総合研究所 中国センター バイオマス研究センター(以下産総研中国センター)を訪問した。産総研中国センターでは平成17年10月に「バイオマス研究センター」を設置し、木質系バイオマスからのエネルギー製造技術、及び、それらバイオマスエネルギーの製造、消費両面からのシステム評価、経済性評価等のシミュレーション手法の技術開発を進めている。

【プラント見学】

 産総研中国センターでは、現在木質バイオマスからバイオエタノール、及びディーゼル燃料(BTL)を一貫生産するパイロットプラントを設置、実証研究を進めており、今回はこれらのプラントを見学した。特にバイオエタノール生産プラントについては、プラント内部で各工程の詳細な説明を受けた。

エタノール生産

(1)粗粉砕工程(ホッパー、ミル)

(1)-1、木材チップを計量ホッパーに受ける。
(1)-2、第1ミル(粗粉砕機1)にて3mm角以下のサイズに粉砕
(1)-3、ふるいに掛ける。
(1)-4、第2ミル(粗粉砕機2)にてさらに細かく粉砕(木材の種類によっては省略)

(2)水熱工程(水熱処理槽)

(1)工程にて粉砕された木材を、150℃、1h程度熱水処理。
(木材の強固な構造をほぐし、リグニンを若干熱水に溶かし込む、次工程以降の反応効率を向上させる)

(3)微粉砕工程(DISC型ミル)

DISCミルにて数μmにまで細かくすることでヘミセルロース/セルロース/リグニンの結晶構造を破壊する。

(4)糖化・発酵工程(セルラーゼ生産培養槽、エタノール発酵槽)

Acremonium cellulolyticusC1株(糸状菌)培養液(糖化酵素含有)、(3)工程にて微粉砕した前処理原料、酵母を培養槽に投入し、エタノール発酵(発酵後、リグニン、菌体は回収)。

(5)蒸留・脱水工程(蒸留塔、脱水膜)

(5)-1、(1次蒸留)
   培養上清を蒸留し、高濃度エタノールを取得(含水エタノール)。
(5)-2、(脱水工程)
   脱水膜(ゼオライト膜)による脱水。この段階で純度99.8%以上のエタノールとなる。

BTL

 BTLは(Biomass To Liquid)の略であり、バイオマスから液体燃料を合成する生産手法を示す。
 BTL技術では、木質バイオマスからディーゼル燃料を生産する。プラント内部は見学不可(外観のみ見学)。生産フローの概要を下記に示す。

(1)ガス化
 原料の木質ペレットを蒸し焼きにすることで、COとH2にまで分解。

(2)ガス精製
 活性炭を用いた乾式ガス精製、この段階で硫黄成分を除去。

(3)ガス圧縮

(4)FT合成
 Fisher-Tropsch-Synthesis反応により、ディーゼル燃料を合成。

【坂西欣也先生によるご講演】

 プラント見学に引き続き、(独)産業技術総合研究所バイオマス研究センター長 坂西欣也先生より、「木質バイオマス等のリグノセルロースからのバイオ燃料製造技術開発とバイオリファイナリーへの展開」と題してご講演いただいた。講演の冒頭で、「『リファイナリー』とは『成分分離』という意味であり、『バイオリファイナリー』とは、種々のバイオマスの特徴を活かした形で付加価値成分へと分離することを意味する」、との説明があった。以下に概要を記す。

《バイオマスエネルギー利用技術》

 バイオマスエネルギー利用には、原材料の種類、生産物質の特性などによって、様々な製造形態が適用される。例えば薪利用、メタン発酵などの地産地消型、バイオエタノール、バイオケミカルズ生産などの産業利用型などがある。産業利用型としてバイオエタノール、ポリ乳酸、バイオPEなどが挙げられる。

《新エネルギー導入計画》

 新エネルギー導入政策として、2010年には年間約50万klの輸送用燃料をバイオマスから生産する目標が掲げられている(総合資源エネルギー調査会 新エネルギー部会資料)。バイオマス由来輸送用燃料としてバイオエタノール、BDFが実用化されており、現在は第一世代と呼ばれる技術が主流である。第一世代の技術とは、植物油、さとうきび、とうもろこしなどの食糧資源から上記液体燃料を製造する技術である。産総研中国センターでは、第二世代の技術開発を行なっている。第二世代とは、草や木質バイオマスなど、非可食資源からBTLやバイオエタノールを製造する技術である。

《我が国のバイマス賦在量と利用状況》

 我が国には現在約2000万tの未利用バイオマス(農作物中の非食用部、及び林地残材の合計)が存在しており、それらをバイオ燃料製造の原料として利用する技術開発が必要である(バイオマス・ニッポン総合戦略推進会議、国産バイオ燃料の大幅な生産拡大、2007)。

《木質系バイオマスのエタノール変換工程》

前処理工程

 木質系バイオマスはセルロース、ヘミセルロース、及びリグニンによって強固に組織されており、このため糖化工程の効率化が大きな技術課題になっている。
 糖化方法には大きく酸加水分解法、酵素加水分解法が存在し、それぞれに課題がある。酸加水分解法では廃液処理、環境負荷の問題や、過分解物による発酵効率低下、収量低下などが、酵素加水分解法には糖化効率上昇の為に前処理が必要であり、この前処理がコストを大きく上昇させている。産総研中国センターでは、酵素糖化の際の前処理技術課題を解決すべく、セルロース化学・木材化学的に無理のない前処理技術の研究開発を行い、水熱処理、メカノケミカル処理を融合させた技術を開発した(前述プラント概要参照)。水熱処理、メカノケミカル処理により、上述した強固な木質組織は超微細繊維(フィブリル)に変化し、酵素糖化効率が大幅に改善されることが明らかとなった。

糖化・発酵工程

 糖化工程では、独自に育種、培養技術を開発した、セルラーゼ高生産菌、Acremonium cellulolyticusC1株を用いており、前処理技術を合わせて効率的な酵素糖化・エタノール発酵生産技術を開発中。通常酵母は5炭糖(キシロース等)の代謝能力が低く、エタノール収率が低い原因となっているが、現在は酵母にキシロース資化能力を付与する研究や、元来、キシロース資化能力を有する微生物(細菌)にエタノール生産能を付与するなどの手法によるエタノール生産技術が報告されている。

《国産バイオエタノール実用化への課題》

(1)安価な原料の安定供給
 ・セルロース系原料の価格を15円/kgとすると、エタノールの製造コストにおける原料コストは50〜60円/kgとなり、総製造コストの半分程度を占める。

(2)低コストの製造技術
 ・低環境負荷な前処理技術
 ・糖化酵素の生産コストの低減
 ・キシロース等5炭糖の発酵速度の向上

【あとがき】

 産総研中国センターは周囲を大手製紙メーカーのプラントに囲まれており、木質バイオマス利用技術の推進には恵まれた環境であると想像される。しかしながら現在、製紙原料となる原料木は主に海外からの輸入がほとんどであり、国内林地残材の利用は進んでいない。
 日本には大量の林地残材が存在するが、そのほとんどは、収集、運搬コストが高価であることから利用されていない。国内林地残材の利用促進の為には、効率的な伐採、収集機械の開発や、林業の活性化が必要である。
 また、木質バイオマスからのバイオエタノール製造事業を収益事業にする為には廃棄物の有効利用が必須であり、特にリグニンの有効利用技術開発が期待されている。森林は新たな木々が生長することで、二酸化炭素を吸収すると共に多様な生態系を維持する役割を担っており、計画的な伐採が森林機能の維持には必須である。その為にも、国内林地残材の有効利用技術の一つとして、バイオエタノールの製造技術は大きな意味を持つのではないだろうか。国内バイオマス資源を利用したエネルギー生産は、製造コスト、収益性という企業的観点だけではなく、多方面からその意味を精査することが大切であろう。

 (記録者:佐藤俊輔)

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