男女共同参画推進委員会のホームキャリアモデル
女性技術士キャリアモデル 野方美歩さん
のがた みほ さん
社会人として歩み始めた当初、技術者として長期的なキャリアを積むことは考えていませんでした。
20代前半で結婚し、機械設計の技術者として働きながらも、子供ができたらこの仕事を続けられないだろうと漠然と感じていました。まわりの先輩女性技術者は、結婚や出産を経て、この仕事から離れてしまう人ばかりだったからです。
20代後半に差し掛かった頃、なかなか妊娠できなかったため、不妊治療を開始。治療はタイミングが重要で、通院の頻度も高く、仕事との両立に悩むようになりました。上司に相談したところ、「お腹が大きくなれば応援できるのだけれど」と言われ、両立は難しいと判断し、退職しました。その後は、時間の調整がしやすいよう、派遣の事務員兼CADオペレーターとして働きながら治療を続けました。
治療開始から3年が経ち、なかなか結果が出ず、仕事にもやりがいを見出せずにいました。機械設計の仕事から離れたことで、その仕事が好きだったことに気付いたと同時に、自分の技術力の衰えにも危機感を感じていました。精神的に辛い日々が続き、「本当に欲しいのは子供ではなく、治療の結果なのではないか」と考え始め、治療をやめる決断をしました。
その後、技術者としての仕事に復帰。その際に技術顧問から「技術者にとって最高峰の資格である技術士を目指してみてはどうか。きっとあなたの将来のためになるだろう」と受験を勧められました。「そんな難しい資格は私には無理だ」と思いながらも、今後技術者としてのキャリアを積むなら、何らかの証明が欲しいと思い、技術士になることを決意しました。
現在はテーマパークで、ハロウィンやクリスマスといったシーズナルイベントやショーに関わる機械の開発に携わっています。これらのイベントやショーは、パークの魅力を高める重要な要素です。チーム全体でアイデアを出し合い、最適な解決策を見つけるプロセスは非常に刺激的です。もちろん、課題も多くあります。安全性の確保は最優先事項であり、設計段階から厳しいチェックが求められます。今までの業務経験や技術士受験時に習得した知識が大いに役立っています。
自分が担当した業務で、多くの人々に喜びや楽しい体験を提供できることに大きな達成感を感じています。
どんな仕事でも楽しいことばかりではありませんが、自分の努力の先に誰かの笑顔があるのなら、技術者としてこれほど嬉しいことはありません。ユーザーの反応を身近で感じられることは、仕事をする上でのモチベーション向上に繋がっています。
技術士になって良かったことは大きく3つあります。
1つ目は、社外の技術者や業界の専門家との繋がりができたことです。受験時に指導を受けた先生を通じて生まれたご縁や、技術セミナーへの参加時に、技術士としての立場が新たな人脈を広げるきっかけとなりました。最新の技術動向やノウハウを共有するだけでなく、より多くの異なる視点やアイデアに触れることができ、自身の視野を拡げる機会となっています。また、仕事を紹介してもらえることもあり、新たな挑戦の機会にも繋がっています。
2つ目は、他の資格取得に繋がったことです。前職では機械器具設置の監理技術者に必要とされる資格保有者が不足していました。技術士となったことで監理技術者を担えるようになり、会社にも貢献できました。技術士は業務独占資格ではないため、あまりメリットがないと言われがちですが、技術士になることで得られる役割や、受験時に科目免除になる資格なども多く、メリットは大きいと感じています。
3つ目は、仕事をしながら勉強をする習慣が身に付いたことです。私は自身の技術力に全く自信がなく、技術士になれたら改善されるのかと思っていました。しかし、勉強をする中で「自分はこんなにも何も知らないのか」と無知であることを自覚し、合格後には技術士のみなさんのレベルの高さを痛感して、さらに自信を失いました(笑)。これは自分の中でとても良いことだと感じています。なぜなら、技術士になった現在も勉強を続けるモチベーションとなっているからです。技術士の責務である『継続研鑽』に繋げることができていることを前向きに捉えています。
現在の会社へ転職する時に、単身赴任となりました。多くのユーザーの反応を直接感じられるテーマパークでの業務に魅力を感じたこと、そして夫からの励ましの言葉もあり、悩んだ末に転職を決意しました。女性の単身赴任はまだまだ珍しく、驚かれることもありますが、働き方が多様化している中で、男女の差はないのではないかと感じています。1週間から10日程度、自宅に戻ってリモートワークをすることもあります。柔軟な働き方に対応してくれる会社やまわりの人たちにはとても感謝しています。
不妊治療をしていた時から10年ほど経ちましたが、当時こういった働き方ができていたら良かったと思います。晩婚化に伴い、当時よりも治療する人が増えています。先の見えない治療中は、仕事が精神的な支えになる部分もあるので、時間単位の休暇制度や不妊治療費に対する補助制度、産業医やカウンセラーへの相談など両立しやすい支援が今後も増えてほしいです。
どんなライフスタイルを選んでも、自分が理想とするキャリアを歩んでいける、そんな世の中になってほしいと願っています。技術者として研鑽を積みながら、自身の体験を発信、共有することで、同じ境遇にある女性技術者が前向きにキャリアを築いていけるよう支援することが、私の今後の目標です。
※注:記事は2024年11月現在のものです。
■技術士部門
機械部門(機械設計)
■プロフィール、趣味、資格
1984年生 静岡県出身
勤務先:テーマパーク 開発部門
資格:技術士(機械部門)、消防設備士、秘書技能検定1級
趣味:読書、芸術鑑賞、愛猫に遊んでもらうこと、ネイル
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