男女共同参画推進委員会のホームキャリアモデル女性技術者キャリアモデル 平塚由香里さん
ひらつか ゆかり さん
私は、大学を卒業後電機メーカーに入社し、いくつか職場を変えながら、さまざまな形で技術に関する仕事を続けてきました。また、家庭では、1児の母親として、子供たちがより楽しく生きていく可能性を広げるための活動も行っています。一つの企業で働き続けてきたわけではなく、必ずしも順風満帆の人生とはいえません。それでも、いくつかの転機を乗り越え、変化を経験するたびに広がる自分なりの生き方を模索してきたつもりです。技術を世の中に役立てていく仕事の面白さを、曲折はあっても楽しみながら歩み続けている例として、少しでもご参考になれば幸いです。
大学時代に情報理論を学び、符号化技術が家電製品に有効活用されていることを知って、私も学んできたことを製品に生かせるような仕事ができればと、電機メーカーに入社しました。希望がかない、ディジタル製品の開発を行っている部署に配属されて基盤技術を製品に応用していく仕事に携わりました。まだ世の中にない製品の開発に関わっていくのはとてもやりがいがあり、楽しく仕事をすることができました。また、情報家電製品に関する仕事ということで、女性が身近に使用しているものでもあり、女性としてのアイデアを求められるなど、男女の別なく活躍できる環境でした。出産育児制度も整っていて、とても働きやすい環境にありました。
「鉄腕アトムを作ってみませんか」という一風変わった誘いの言葉に引かれて再就職したのが、次の設計会社でした。前の会社とは異なり、少人数の会社でしたが、個人の能力が非常に高く、自立しており、なんでもできる方ばかりだった印象があります。仕事好きな方が多く、自身で設計した回路に対し「この子」と呼ぶなど、作ったモノに対して愛着を持って働いている姿に私も感化されました。製品に対して自分の子供のように愛情がわき、モノづくりの醍醐味(だいごみ)を味わった時期でした。いろいろな経験ができる半面、専門に特化することは難しく、お客様主導での仕事となることもあって、自分のペースで働くには自分で切り開いていかなければなりませんでした。この当時、技術士の資格を取得しています。会社には技術士がおらず、どんな資格かよくわからない中でのチャレンジでしたが、周囲は温かな目で見守ってくれました。
創る側から、保護する側へ。かねてから興味のあった知財分野に転職し、特許出願に際して技術調査を行う仕事をしています。毎日、たくさんの技術的思想に触れることができ、興味深い日々を過ごしています。直接的にモノづくりに関わることはなくなりましたが、特許の権利化に携わることにより、技術を守り活用するという立場から社会の役に立つことができればと思っています。職場には女性が多く、子供がいても頑張り続ける方がたくさんいて、女性であることを全く意識せずに活躍できる職場です。
転勤:まさかと思っていた主人の転勤が決まり、関西から関東へ。仕事も、国内の規格の強かった家電から、ディファクトスタンダード(業界標準)色の強い情報分野へ。世間知らずだった私は、日々、カルチャーショックを感じていました。今思えば、変化により世界が広がったのは、非常にありがたい機会だったのですが、それまでの流れの中で、次に何をしようかおぼろげながら見えかかっていた時期での転勤は、当時の私にとっては、つまずきを感じさせられた出来事でもありました。そんな中で、周囲に温かく迎え入れていただけたのは本当に幸いでした。
仕事に影響があるのでは? となかなか踏み切れずにいた出産。時期は遅れ、体力的に厳しい年齢での出産となってしまいました。出産直後から、てきぱきと動ける若いお母さんに体力差を感じました。また、職場復帰したものの、今までと同様にフルに時間が使えないもどかしさと、子供に正面から向き合えないつらさが高じて、仕事との両立をいったん断念することに。制度は十分に整っていたにもかかわらず、自分自身に負けてしまった経験でした。今では、長い仕事人生、早めに子供を産んでしまうというのもありだったのかな、と思っています。また、技術者としては、遠方の母の力を借りるのに情報技術(IT)を工夫して利用した経験から、技術を安全安心な生活のために役立てたいと強く思うきっかけとなりました。
いったんは断念した仕事ですが、その後再就職することができたのは、自分自身がやってきたことを必要としてくれる会社があったからでした。そういった意味で、モノづくりって楽しいし、技術者でよかったなと思います。また、それだけにとどまらず、以前から興味を持っていた知財の世界へのチャレンジを試みたことも有意義でした。まだまだ未熟な自分ですが、変化は成長へのチャンスであり、視点を変えるよい機会となっていると感じています。働き方って、答えは一つではなく、自分次第でいろいろできるのではないでしょうか。そんな生き方ができた自分は恵まれていると感じています。
私のもう一つの顔は、子供を持つ母親です。子供と関わることは、私にとって最高の楽しみです。なぜなら、子供は自由で、発想が豊かで、ワクワクさせてくれるからです。そこで機会があれば、公民館などで工作や実験を行う活動に参加させてもらっています。自分の子供だけでなく、違った個性を持つ子供たちと関わることから、意外な発見をさせてもらったり、きらきらと輝く瞳から元気をもらったりしています。身の回りの不思議に気付き、知りたいという欲求が強い子供たちの興味の芽を摘まず、科学技術の楽しさを伝えることができれば、母親である技術者としては冥利(みょうり)に尽きるというものでしょう。
私にとって、技術士の最大の魅力は、いろいろな価値観を持つ方々と出会える場があるということです。自分の価値観がすべてではなく、さまざまな分野でのものの見方を学び、何がよいのか考える機会を頂けるのは、とてもよい経験になっています。まだまだ未熟な自分ですが、人間として成長していける楽しさを感じられる機会でもあります。
また、私の現在の仕事に直接的に必要な資格ではありませんが、自覚を高めるには非常に有効だと思っています。これまで述べてきたように、女性はさまざまな変化に他律的に遭遇する可能性が高く、一つの企業に勤め続けることができるとは限りません。そんなとき、自らの意思で道を切り開いていこうという覚悟をもたらしてくれたのが、技術士であるということでした。また、企業に勤める上でも、自分で考えるという姿勢を育てていくのに役に立つと思います。
一つの分野で大成できなくても、いろいろな分野で積んできた経験を生かして融合させることにより、何か新しい広がりを生み出せるように頑張っていきたいと思っています。一つの専門分野だけでなく複数の専門分野に関わり、技術の創造と知財の保護活用という二本の柱を軸に、幅広い知識と考え方および倫理観を身に付け、総合的な視点から知的創造サイクルを通して社会に貢献できるよう活動していきたい。常に何かにチャレンジし続ける心を忘れないようにしたいと思います。
※注:記事は2015年10月現在のものです。
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