建設部会行事報告


 行 事   平成23年 3月 
報 告   建設部会3月行事はありません。
 行 事   平成23年 2月 講演会報告
 開催日時   平成23年2月18日 (金) 18時00分〜19時30分
 講演名   地震被害の低減に向けた密集市街地整備の取り組み
 講演者    羽入 久仁氏  国土交通省住宅局市街地建築課市街地住宅整備室
 開催場所   弘済会館
 参加者   
報 告   Pe-CPDにてWEB聴講できます
 行 事   平成23年 1月 講演会報告
 開催日時   平成23年1月21日 (金) 18時00分〜19時30分
 講演名   地球深部探査船(ちきゅう)と新しい地球生命科学
 講演者    平 朝彦氏  海洋研究開発機構 理事
 開催場所   弘済会館
 参加者  39名
報 告 1.南海トラフへの挑戦
 日本列島は4枚のプレートで構成されているが、プレートが沈み込む海溝で何が起こっているか長らく不明であったため、解明に向け南海トラフの研究に着手した。石油探査等で用いられている反射式人工地震波探査により、地震波と地形波を調査した結果、地層が斜めになり過去に活動していた分岐断層を熊野灘沖で発見した。さらに、活用法を公募していたアメリカの掘削船グローバルチャレンジ号に応募し、6〜7ヶ月間掘削した結果、南海トラフは堆積物が多いためマントルに引き込まれず平らになっていることが判明した。また、50万年前から積もりはじめた地層を海底4800m付近で発見し、この中に大量に含まれていた木片などにより、密度の高い濁流(海底の土石流)により富士山・富士川から海の中を約800km流れ堆積したことを証明した。

2.「ちきゅう」の建造
 地震発生のメカニズムを調査するためには、海底を深く掘削する必要があり、地球深部探査船「ちきゅう」が建造された。「ちきゅう」は、全長210m、幅38mの大型船で、ライザーパイプを外側に配置することで、海底の地面を約7,000mまで深く掘削することが可能となった。

  【ちきゅう】 総トン数 56,752トン
                                         高さ(水面から) 112m
                                         喫水  9.2m

3.地震発生帯の掘削
 掘削計画は日米主導で行われ、中国等の参加もあり国際的な枠組みで活動しており、「ちきゅう」による掘削で、上部マントルの資料採取、地下生物圏の探査、巨大地震の震源域の直接観測、地球環境の変動、の4つの科学的成果を目標としている。地震発生域は基本的には固着した面であるが、なぜ固着面が生じるか、なぜ固着面が急に破壊(=地震発生)するかを解明するため、南海トラフの海底7kmまで掘削する計画とした。来年度から第2ステージとして2年間程度かけ掘削するが、時速5ノット(15km)の黒潮が流れる厳しい条件下での調査となり、黒潮の流れをマネジメントすることが課題となる。

4.地球生命科学と資源科学への貢献
 今年5〜6月には、八戸沖で2,300mまで掘削し、深部石炭層を根源岩とする液体・ガス成分による肥沃な生命圏が存在することを解明した。さらに、レアメタル、メタンハイレード、石炭などの資源が東アジア全体に広がっている可能性も高いことを発見し、この研究にも着手した。また、沖縄トラフでは、世界最大級の海底下熱水湖を発見した。これらをはじめ、「ちきゅう」プロジェクトとしては、@地震発生のメカニズムの解明・防災対策(リアルタイム地震通報)の高度化、A地下生命圏の解明・新しい自然観・バイオテクノロジー、B大水深掘削技術・資源探査、C国際大型プロジェクトでのリーダーシップ、D未踏のフロンティア探査などに、地球深部探査船「ちきゅう」は大きな貢献をしている。

5.おわりに
 今回の講演では、日頃ふれる機会が少ないジャンルのことをわかりやすく説明して頂き、日本固有の地形や地質の成り立ち、地震の発生するメカニズムについて理解を深めることができた。また、今回紹介頂いたような基礎研究が、科学技術の発展には不可欠であると痛感した。
(藤原 重雄 記)

なお、本講演は、Pe-CPDにてWEB聴講できます
 行 事   平成22年 12月 講演会報告
 開催日時   平成22年12月14日 (火) 16時30分〜18時00分
 講演名   市民工学への減点復帰とこれからの社会資本整備
 講演者    山本 卓朗氏  次期土木学会会長
 開催場所   弘済会館
 参加者   53名
報 告 1 はじめに
 わが国の経済成長の核として活動した土木が精彩を欠いている。社会資本が充実すると、国民の意識が変化して、量的な要求から精神的な要求へと変化し、ものを作ることが自己目的化した土木とのかい離が生じている。このかい離を分析し、土木の原点に帰り、市民工学への回帰をどう果たすかが最大の課題であり、その解決のための土木改革をどう進めるかについてご講演をいただいた。概要は以下のとおりである。

2 土木の現状認識
 1990年代以降実質GDPは500兆円前後で推移しているものの、特例公債残高は上昇し続け経済の停滞と財政悪化を招いている。また、高齢化は2050年には現在の25%から40%に上昇、全人口に占める65歳以上の人口の割合も上昇し、一方で、14歳未満の子供は大きく減少が見込まれるなど、建設界を取り巻く情勢は大変革の時代に入っている。
 社会資本整備が一定のレベルに達するとともに国の財政状況も厳しくなり、新たに維持管理と長寿命化が問題となる時代になった。そして社会資本・公共事業のあり方について多くの無駄が指摘されるなど、整備をする立場の技術者と市民との間に大きな意識の「ずれ」が生じてきている。
 こうした大変革の時代に入っていることを認識し、私たち建設関係の技術者は、市民工学という原点に立ち返り、将来の社会資本整備を考えていく必要がある。あわせて、子供たちの理科離れや物づくりへの情熱が薄れていくことは、科学技術をベースにした将来の国づくりにとって憂慮すべき問題であり、社会インフラや工学への関心を呼び覚ます社会実践教育の全国展開に取り組むことが喫緊の課題であると述べられた。

3 土木改革を目指す
 土木改革を目指すには、過去の大きな転換期における技術の歴史( 1)日本固有の技術(たとえば、鉄道技術の進展の事例)、 2)海外から学んだ技術 3)経験から学んだ技術)に学ぶことが大切であると指摘された。
 土木改革を進めるうえで、土木の課題と役割は市民に対して土木への理解を促進させ、物づくり偏重から総合マネジメントへと舵を大きく切っていく必要があること、また、行政と市民が合意形成を図り進めた「歴史回復と環境都市へ−韓国清渓川」、「創成川(北海道札幌市)の再生」の環境修復事例、及び「都市への発展へ−景観の一新を目指す日本橋構想(上空が首都高速道)」などを参考に紹介された。
 また、PFI事業やPPP事業などの制度の活用に向けて、民間投資がしやすい環境整備やPFI推進のための制度の見直しが必要であること、さらに、今後の大きな課題としては、将来を担う学生、社会人、子供への教育が大切であること、特に、学生については土木工学科の名称が消滅し、土木が希薄になっている現状があること、土木技術者の品質保証(学会資格制度)や専門教育補修、社会人への防災啓発等の再教育の場が必要であること、また、子供に対しては社会科教育の充実、理科離れを食い止めること、さらに、国際対応として学生・専門家の教育拡大を図る必要があるなど、広範な土木改革案が示された。

4 具体的な実践活動
 産学官のソサイアティである土木学会の果たす役割は大きく、学会活動を見える化し、土木界をリードできるよう技術推進機構の事業体制の強化として、教育・資格部門では、土木学会技術者認定資格(2001年度創設)の抜本的な改善、国際化戦略部門では、プロジェクトマネジメントのできる人材の育成、社会活動部門では、学会活動や子供の総合学習への協力、及び出前講座や市民講座などを検討していきたいと述べられた。

5 おわりに
 私的な実践活動として、未来の社会資本整備や交通ビジョンを提起するため、産官学、現職・OBの壁を越えて、情報と技術と交流ができる場として社団法人「未来のまち・交通・鉄道を構想するプラットフォーム」を設立し、ビジネスモデルとして、まち・交通・鉄道調査計画技術者のスキルアップを図るワークショップ研修を実施していく決意を述べられた。

ご講演を聴講し、大変革の時代を迎えて土木の原点に帰れとの熱いメッセージと、土木技術の見える化に向けて提示された土木の目指す方向をしっかりと受け止めていきたいと思いました。


【写真-1】 講演される山本氏 


【写真-2】 講演会の状況

河北慶介 記)

 行 事   平成22年 11月 現場研修会報告
 日 時  平成22年 11月 9日(火) 13時30分〜16時00分
 見学会  首都高速道路(株)中央環状品川線工事見学会
 見学先  中央環状品川線大橋ジャンクション
 説明者  首都高速道路(株)大橋建設事務所  佐伯  公所長
 (財)首都高速道路技術センター 特別広報担当 川瀬 修氏
 参加者   40名
報 告 1.事業概要説明
 中央環状品川線は、中央環状線の南側部分を形成し、高速湾岸線から分岐したのち、目黒川および環状第6号線(山手通り)の地下空間をトンネルで北上し、中央環状新宿線および高速3号渋谷線に接続する路線である。本路線が完成することで、高速道路全体のネットワークが効率よく機能し、慢性的な渋滞が緩和されることが期待されている。また、品川線の整備により中央環状全線が完成する。このうち、大橋ジャンクションは、中央環状新宿線・品川線と首都高速3号渋谷線を接続するジャンクションである。最大約70mの高低差がある中央環状線と3号渋谷線を2回転のループで結ぶ構造となっている。大気や騒音等、周辺環境への影響を低減するため、地上のループを覆うなどの対策を講じている。
 大橋ジャンクションおよび連結路工事について、工事全体の整備状況および技術的課題等について説明を受けたのち、ループ屋上および連結路トンネル工事を主体に見学し、質疑応答の機会も与えてもらい、有意義な研修となった。

2.見学会状況
 見学会参加者は、13:30に大橋ジャンクション内の事務所に集合し、佐伯所長、川瀬氏より首都高速中央環状線、大橋ジャンクションの工事状況および技術的課題等など工事全体の説明を受け、その後2班に分かれて大橋ジャンクション屋上および連結路トンネル工事をそれぞれ見学した。
【大橋ジャンクション】
 大橋ジャンクションでは、地球温暖化やヒートアイランド対策等の観点から3つの緑「街並みの緑」、「公園の緑」、「自然再生の緑」の形成に取り組んでおり、これにより都市部における緑化の創出に貢献するとのことである。主な取り組みは次の通りである。
  • ジャンクション屋上は、目黒区と連携して公園整備を行う計画で、回遊式の公園とする予定である
  • 換気所屋上は、地域の環境改善に寄与できる緑化空間の整備を計画している
  • ループ壁面は、コロッセオ風デザインを採用し、周辺環境との調和を考え、オオイタビ等を用いた地表面から緑化を行う計画である
  

  【写真−1】 佐伯所長による概要説明      【写真−2】講演会場

【大橋連結路工事】
 連結路工事は、山手通りの支線に開削部を設けて、その先端からシールド工法により連結路を構築し、その後に大井方向からの本線シールドトンネル間を地中で切り開いて分合流部を構築する計画との説明であった。シールドは、上層と下層の2本のトンネルを1台で掘進する工法を採用しているとのことである。

  

【写真−3】大橋ジャンクション屋上     【写真−4】大橋連結路に使用されるシールドマシン

3.おわりに
 今回の見学会は、首都圏における大規模な都市土木の現場ということで、周辺環境の保全を図りながら工事を遂行するということで貴重な見学会でした。
 工事説明ならびに現場立会い等に携わっていただいた首都高速道路(株)ならびに工事関係者の方々に感謝いたします。



 【写真−5】見学会参加者

 (鈴木 久尚 記)

 行 事   平成22年 10月 講演会報告
 開催日時   平成22年10月21日 (火) 18時00分〜19時30分
 講演名   産業界におけるヘリコプターの使命
 講演者    荒井 謙司氏  新日本ヘリコプター株式会社 営業部 物輸業務グループ 主任
 開催場所   日本工営株式会社会議室
 参加者   23名
報 告
1.ヘリコプターの歴史
 ヘリコプター(Helicopter)の語源は、ギリシャ語でらせんを意味する「ヘリックス」(helix)と、翼を意味する「プテロン」(pteron)を組み合わせてできており、「らせん状の翼」はヘリコプターの特徴をずばり表現している。
 レオナルド・ダ・ヴィンチ(イタリア)は数々の発明や絵画を作成しているが、15世紀後半(1483年)の設計スケッチ「エアスクリュー」はヘリコプターの原図とされている。全日空の前身の会社はヘリコプター会社であり、このスケッチを基にした社章を用いていて、以前は旅客機の垂直尾翼にペイントされていた。
 実際にヘリコプターが誕生したのは、このスケッチから400年以上経った19世紀初頭、1907年にブレゲー兄弟(フランス)による有人浮上成功(1.5m浮上)の後、モーリス・レジェ、ポール・コルニュ(ともにフランス)が自力有人浮上に成功した。これは、ライト兄弟が飛行機による初飛行に成功した3年後になる。
 さらにその16年後の1923年マルキス・べスカラ(スペイン)が史上初めて操縦可能なヘリコプターの作成に成功し、現在のヘリコプターの原型が完成した。
 写真の機体はシコルスキーが1942年に開発した初の量産型ヘリコプターで、改良型も含めると各国の軍隊に400機以上納入している。ベルエアクラフト社のベル47型ヘリコプターは、1973年の生産終了までの30年間に約6000機が生産され、世界各国の空を飛んでいた。
 純国産ヘリコプターが世に出るのは、それから50年以上経った平成に入ってからで、三菱重工業が1997年にMH2000型の型式証明を取得した。

  
  【写真−1】シコルスキーVS-300           【写真−2】ベル47型ヘリコプター


2.ヘリコプターによる事業
 初のヘリコプター運航会社が誕生したのは昭和27年、ヘリコプターによる森林や水田への薬剤散布、送電線の延線、取材や広告宣伝、漁業パトロール、映画撮影協力(嵐の中のシーンで風の発生装置としての参加)などの営業飛行を行ってきた。
 昭和31年の関西電力黒部川第四発電所建設工事や昭和34年の伊勢湾台風災害復旧支援などで、物資を輸送する手段としてヘリコプターが着目されるようになった。ジェットエンジンを搭載するハイパワーなヘリコプターの出現もあり、昭和39年の富士山山頂へのレーダードーム輸送に象徴されるような大型物品の輸送も可能になった。
 昭和30年代後半から昭和40年代は日本経済が高度成長期となり、電力需要が急増したことから山岳地での送電線建設や水力発電ダムの建設が急増し、ヘリコプターでの資材輸送が本格化。これ以降、電力設備の大型化やスキー場のリフト建設、伐採樹木の搬出や山小屋への荷揚げなどの新規分野の需要もあり平成10年頃までは平均して高稼働率の時代が続いた。
 資材輸送以外では、報道空撮・治山緑化・送電線巡視・調査測量・旅客輸送・ドクターヘリなど時代の要求に合わせた飛行形態や使用機種が求められている。

3.ヘリコプターによる鉄塔一括撤去
 新日本ヘリコプター梶A中部電力梶A潟Vーテックの3社は、ヘリコプターによる鉄塔撤去用搬送補助装置を開発し、鉄塔を現地で解体することなく一括して吊り下げ、ヘリポートまで搬送して横に倒した状態で解体する方式を確立した(特許出願中)。
 この工法は、@鉄塔周辺の作業スペースの縮小(作業のための樹木伐採の削減)、A鉄塔上部での高所作業の削減(安全性の向上)、B地上での機械工具を活用した解体作業の効率化による工事費の削減などの効果がある。


 
【写真−3】スーパーピューマ(AS332L−1)による鉄塔の吊り上げ

4.感想
 鉄塔一括撤去の新工法についてはビデオによる紹介もあり、ヘリコプターの活用例として分かりやすい説明であった。また、費用についての質問に対してもていねいに答えていただき参考となった。

 (西村 正直 記)

 行 事   平成22年 9月 講演会報告
 開催日時   平成22年10月12日 (火) 18時00分〜19時30分
 講演名   韓国における建設コンサルタントの実情と公共工事発注方式
 講演者    鄭 東錫氏  曉正建設株式会社 部長
 開催場所   日本技術士会葺手第二ビル A・B会議室
 参加者   28名
 報 告 1.はじめに
 我が国の公共工事の発注量は年々減少傾向にあり、建設コンサルタント業界も受注の確保、拡大に苦慮しているのが現状であります。このような背景もあり、更に海外へ積極的に進出し受注拡大に向けた取り組みが重要になってきています。
 そこで、様々な分野において関係の深い隣国、韓国の建設コンサルタントの現状について、名古屋大学大学院(土木工学専攻)修了後、大林組(名古屋支店)でシールド工事現場等に勤務し、現在、母国韓国の曉正建設株式会社で活躍中の鄭 東錫氏に講演をして頂きました。

2.韓国建設業界の現況と課題
 建設業者数は産業設備、造景業者は若干ではあるが増加してきていますが、全体では年々減少しています。一方、建設コンサルタントは近年増加傾向にあり、業者間の競争は激しく、上位20社が受注量の大部分を占めているのが実状であります。
 また、韓国建設業は、海外での競争力が弱いことや建設技術の質的な発展を遂げ海外市場の開拓を如何に行っていくのかが、これからの課題となっています。

     表−1 建設業者数(2010年度)
建設業 全体 土建 土木 建築 産業設備 造景
14,001 3,965 3,466 4,863 322 1,385
コンサルタント 全体 専業 兼業
4,267 2,362 1,705

            表−2 受注高の推移
区分 2005 2006 2007 2008
建設業 国内(億won) 993,840 1,073,184 1,279,118 1,200,851
海外(億$) 108.6 164.7 397.9 476.4
コンサルタント 国内(億won) 45,018 54,538 51,429 66,436
海外(億won) 1,848 1,751 6,936 6,776

3.公共工事の発注方式と課題
 韓国の公共工事の発注は、国(政府)が工事の提案を行い、それを受けて民間業者(建設会社とコンサルタントのJV)が逆提案を行っていく流れで発注が行われ、その方法として以下の3つがあり、工事の難易度によってその方法が選択されています。
  1. BTL(Build-Transfer-Lease):民間(JV)が建設 → 政府が運営 → 施設レンタル
  2. BTO(Build-Transfer-Operate):民間(JV)が建設 → 民間が運営 → ある期間後政府に移す
  3. TUN-KEY:発注者が基本設計と工事金額を算定 → 民間(JV)が提案設計及び工事金額の再提案
 このような発注方法による課題として、
  • 工事金額中心で設計を行うため、新技術を適用するのが難しい
  • コンサルタントの考えが反映するのが難しい
  • 業者決定の審査委員の専門性に問題がある
 等が挙げられています。

4.最近の工事例の紹介
 今年発注された代表的な工事として、以下の3例の事例紹介が行われました。
  @BUJUN-MASAN複線電鉄民間投資施設
  ・発注方式:BTL方式
 ・施設概要:本線L=32.5km(シールドトンネル) 駅5箇所 信号所2箇所
 ・総事業費:13,397億WON

 ADEGOK-SOSA複線電鉄民間投資施設
 ・発注方式:BTL方式
 ・施設概要:本線L=3.7km 駅5箇所
 ・総事業費:14,171億WON

 Bソウル地下鉄9号線3段階建設工事
 ・発注方式:TUN-KEY方式
 ・施設概要:シールドトンネルL=2.16km 駅2箇所
 ・総事業費:1,160億WON

5.おわりに
 今回の講演では、我々の知り得ない韓国の建設業界の実状などのお話もあり、貴重な機会を提供して頂きました。講演の後は、韓国のJV参加による発注方式や技術士の現況についての質問など、活発な質疑が行われ、盛会のうちに講演を終了することができました。

  
  【写真−1】 講師 鄭 東錫 氏           【写真−2】質問する参加者

  (宮下 紀代則 記)

 行 事   平成22年 8月 現場研修会報告
 日 時  平成22年 8月 5日(木) 14時30分〜16時30分
 見学会  我が国屈指の研究施設「鉄道技術総合研究所」の現地施設
 見学先  (財)鉄道技術総合研究所
 説明者  情報管理部技術情報  新井課長
 総務部広報担当     丸山様
 参加者   22名
 報 告 1.はじめに
 鉄道技術総合研究所は、国鉄の分割・民営化に先立ち、1986年(昭和61年)12月に設立され、JR各社の発足と同時に、国鉄が行っていた研究開発を承継する法人として活動を開始しました。
 車両、土木、電気、情報、材料、環境、人間科学など、鉄道技術に関するあらゆる分野を対象としているそうです。
 今回の見学は、当研究所の研究施設を見学し、現代において最も普及した輸送設備である鉄道関連の技術的な課題、未来への取組みについて最先端の技術的研究開発の一端を見ることで、鉄道技術への造詣を深め、その研究開発の重要性を少しでも感じ取れれば、有意義な時間となるであろうことを期待し、計画したものです。

2.説明概要
 見学に先立ち、プレゼンルームにおいて概要説明を受けました。
 事業費については、JR各社の負担金と民間などからの受託、補助金で構成されているとのことでした。ここは、土地197,000u(東京ドームの約4倍)、建物66,600uの広大な敷地で、以前は、研究所内まで線路が引かれ、車両の行き来があったそうです。活動方針として、
  1. 鉄道の持続的発展を目指した新技術の創造
  2. ニーズに対する的確かつ迅速な対応
  3. 活動成果の情報発信と普及
  4. 鉄道技術の継承と基盤技術力の蓄積
  5. 鉄道技術者集団としての総合力の発揮
 掲げ、日本の鉄道技術の中枢としての役割を担う方針の下に活動が進められています。また、研究開発活動は、「鉄道の基礎研究」、「鉄道の将来に向けた研究開発」、「実用的な技術開発」の3本の柱のもと、「安全性の向上」、「環境との調和」、「低コスト化」、「利便性の向上」の4つの目標を掲げておられました。
 研究所に従事する522名のうち70%が研究職という技術者集団であり、世界でも最先端を行く鉄道技術を支えていると感じました。



  【写真−1】 国立研究所の全景            【写真−2】 会場での説明
   ※財団法人鉄道総合技術研究所パンフより

3.研究施設見学
 施設見学は、広大な敷地内をめぐることから中型のバスによるツアー形式で案内をしていただきました。その主なものは、

 (1)トンネル覆工模型実験装置
   老朽、変状トンネルの経済的な対策工法や新設トンネルの合理的設計法を検討開発するための模型実験装置である。実験装置は、地盤とトンネル覆工の相互作用が再現でき、また、3次元的な実験も可能なものとなっている。
 (2)総合路盤試験装置
   実物大規模の路盤や軌道に列車荷重を模擬した繰り返し荷重を連続的に載荷する試験装置で、新しい路盤構造の開発、噴泥現象の解明などに使用されている。
 (3)車両試験装置
   実際の車両の走行状態を再現し、営業線では実施不可能な車両や軌道の条件などについても試験を行い、その影響や問題点を調べる試験装置である。
 (4)大型振動試験装置
   構造物模型や実軌道、実台車などを載せて、震度7クラスの地振動の模擬が可能な大型2次元振動試験装置で、加振ストロークは±100cmで、最大積載重量は50トンである。
 (5)駅シミュレータ
   実際の駅で実施することが難しい駅の中の旅客流動や快適性に関わる温熱環境、音環境などについて実験を行う施設である。

各々の研究施設において、担当されている研究者の方々から丁寧な説明があり、見学者も熱心に聞き入り、各施設において質問が絶えませんでした

  

                     【写真−3・4】 施設見学状況

4.おわりに
 施設見学の後、再びプレゼンルームにて質疑応答が行われ、
・研究者の構成
・鉄道事故の原因の究明、検証
・海外への鉄道技術の指導、支援、普及の現況
・技術資料、情報などの入手方法
・新設構造物の建設に関わる研究開発と既設構造物の維持に関わるものの割合について
 等、専門的な質問に対し、的確・適切な応答をしていただきました。
 最後に、8月初旬の猛暑のこの時期に、見学会を受け入れていただき、丁重かつ丁寧な対応をいただいた鉄道技術総合研究所様、ならびに貴重な時間を割いていただき、説明、案内、質疑に対応していただいた新井様、丸山様、施設のご説明をいただいた研究者の皆様、誠に有難うございました。鉄道技術に関する一部の知識と貴研究所の存在意義を習得できたことで、この見学会が成果あるものとなったことをここに報告します

(千々岩 三夫 記)

 行 事   平成22年 7月 見学会報告
 日 時  平成22年 7月 2日(金) 13時00分〜16時00分
 見学会  羽田D滑走路建設工事見学会
 見学先  羽田空港D滑走路工事現場及び国土交通省東京空港整備事務所見学展望台ほか
 説明者  今野 頼夫  国土交通省東京空港整備事務所第三建設管理室 室長
 磯部 征史              同                   建設管理官
 参加者   33名
報 告 1.はじめに
 羽田国際空港は、年間6,700万人が乗降する世界的規模の空港であるが、日本のハブ空港として更に発展させるため現在3本ある滑走路を更に1本増設することになり、現在の空港の南側約600Mの海上に幅425〜522M、延長3,120Mの人工島を建設、滑走路専用とすることになった。人工島は、多摩川の河口部に位置するため河川の通水性等に悪影響を及ぼさないことを考慮し河口に近い部分1,100Mを鋼管杭による桟橋タイプ、他の部分2,020Mは、地盤改良併用に依る盛土方式といった規模的には世界的に類のない特殊構造のものである。この上に4本目となるD滑走路(2,500M×60M)を設けるものである。これ等の建設について、桟橋と橋梁による連絡誘導路・連絡道路(4橋・各延長620M)を含め、3企業体とのPFI方式に依る工事が進行している。建設部会として、この拡張工事全体について、平成20年10月22日(水)に国交省東京空港整備事務所松永康男企画官に講演をお願いして勉強し、平成21年8月7日(金)には船舶により桟橋部の施工状況を海上及び桟橋上から、説明を受けつつ見学した。今回は、連絡誘導路も通行可能となり、バスを利用し最終段階になっている工事について、舗装工事・桟橋と盛土接合部工事等を主体に見学、工事全体についての技術的問題点等についても詳細に説明を受け、質疑応答の機会を与えてもらい、懇切丁寧に応えて頂き、有意義な研修となった。

  【写真−1】 講演の状況

2.見学状況
 見学会参加者は、13:00に空港の西側に隣接した天空橋駅に集合、全員チャーターバスに乗車し、完成間近い国際ターミナルビル、新ビルに切り替えられたモノレール・旧レールの撤去状況等を車窓より確認しつつ展望台に到着、展望台2階にて拡張工事プロジェクトの説明ビデオを見、今野室長より新滑走路建設についての技術的問題点・解決策をはじめ拡張工事全体の説明を受け、質疑応答をまず行った。深い軟弱沖積層、河口地域等の多くの難問題に対応して、100年以上問題なく大丈夫な滑走路として供する、桟橋・盛土複合型(ハイブリッド方式)人工島、桟橋・橋梁方式の連絡誘導路等をいかに計画、設計、施工をしたかについて説明を受けた。特に、平成20年10月の講演会で主要な技術的問題点として話された、鋼管杭の腐食、盛土の沈下・法面の耐震性、桟橋と盛土接合部の地震時の問題 の3つの事項について、今回その後の施工フォローを含めた詳細な説明を受けた。

  • 鋼管杭の腐食防止については、特殊塗装・アルミ等に依る流電防止に加えて鋼管内の温度をクーラーにより自動制御しつつ、腐食防止状況をフォローして行くとのことである。
  • 盛土部については、サンドコンパクションパイル等の先行施工等により既に7〜8mの沈下が促進されており、現在の残留沈下は、1.5m程度推定され、この程度であれば、舗装面は、軽微なオーバーレイの繰り返しでクリアー可能と考えるとのことである。法面部については、下部の影響範囲に対し全面地盤改良等により強化しており、地震時の滑り、沈下等に対してもOKとのことである。
  • 接合部付近については、盛土部の桟橋部に対する不同沈下、地震時の変位に対応して、この部分には特殊軽量材料による地盤改良・埋め戻しを行い不同沈下を押え、接合部の下部は、鋼管矢板井筒の上に滑り支承で桟橋側の荷重を受け、表面には特殊伸縮継手装置を取り付けた構造としてあり、突発的な大地震に対しても、大惨事にはならない様な対策が施されているとの説明であった。
 滑走路拡張工事は、PFI方式で発注され、3JVが受注、平成19年3月31日に着工、延べ270万人・日の人が建設に従事し、今秋に竣工、10月21日(木)にオープン等の説明を受け、3階展示室に移動し、具体的な図面、資料等により更に詳細な説明を受けた後、バスで連絡誘導路を渡り、桟橋部へ移動、下車して舗装完成状況、白線施工状況、接合部施工状況等を見学、説明を受けた。盛土部へは現在舗装工事の最盛期とのことで進入出来ず、接合部及び連絡誘導路よりの遠望となった。バス車内で質疑応答をしつつ展望台に戻り見学会を終了した。バスで天空橋経由JR蒲田駅と移動し無事解散した。

   

    【写真−2】 工事現場状況                           【写真−3】 現場見学状況

3.あとがき
 今回の見学会により、建設部会の一連の羽田拡張工事についての研修は、終了となるが、今回は、今野室長よりプロジエクト全体の事も含め懇切丁寧に説明・案内を受け、完成間近かの状況をじかに見学することのより、計画・設計・施工等についても十分理解することが出来たと考える。今野室長はじめ関係者の皆様に深く感謝したい。今秋、開港とのことであるが、9月11、12日の空の日には、応募によりほぼ完成した状態を見学できるとのことである。完成後の維持管理もPFI方式で行うとのことであるが、日本が世界に誇る建設技術等が適切に駆使され、この世界に類のない滑走路が建設され、末永く有効利用され、益々世の中に貢献して行く世界に誇る日本の宝としての社会資本が出来たと確信した次第である。



     【写真−4】 見学会参加者

(吉田 圭佑 記)

 行 事   平成22年 6月 見学会報告
 日 時  平成22年 6月 22日(火) 14時30分〜16時00分
 見学会  東京スカイツリー建設工事
 見学先  東京スカイツリーインフォプラザ(東武タワースカイツリー株式会社) 東京スカイツリー建設現場
 説明者  東武トラベル・スカイツリー営業推進部 谷口担当
 参加者   40名
報 告 1.趣旨
ライジングイーストと名付けられた“新しい下町”を創造するプロジェクトの一環として建設が進む東京スカイツリーの建設工事現場の状況を直接見て知識を得、全体像を把握するために見学会を計画した。
去る平成22年2月16日(火)には、東武タワースカイツリー株式会社 営業計画部の望月課長を招き講演会を開催しており、70名に及ぶ盛況振りで関心の深さが窺われた。今回の見学会において建設中の現場を見学し、さらに知識を深めることで東京スカイツリーの存在感を実感できると期待された。

2.説明概要
インフォプラザのプレゼンテーションルームにて、谷口担当の説明を受けた。
【建設地の選定とその条件】
  • 周囲には高層ビルなどがなく、スカイツリーの本来の姿である広域、大容量の電波塔としての機能を十分に果たすことができる
  • 近隣に観光地があり、観光施設としての役割を担い、周辺にかつての下町の賑わいを取り戻すことが期待される
  • 建設のために必要な用地が確保できた
  • 東武伊勢崎線、都営浅草線、京成押上線、東京メトロ半蔵門線が集結する交通アクセスのよさ
このように、ここには、東京スカイツリーの建設条件が揃っていた。

【計画のコンセプト】
ビジョンは、都市文化創造発信拠点、都市型生活コミュニティー拠点、都市型観光の広域交流拠点として、タワーのある街作りを目指している。

【期待される効果】
  • 自立式電波塔として世界一の高さ(634m)を誇り、情報発信の拠点を担う
  • 浅草など周辺に観光地があり、集客条件もよく地域活性化のための観光拠点の役割を果たす
  • 完成したタワーからの眺望は、関東一円75kmにおよび、そのスケールの大きさは新名所のシンボルにふさわしい
【アクセス】
業平橋駅(東武伊勢崎線)、押上駅(東武伊勢崎線、都営浅草線、東京メトロ半蔵門線、京成押上線)
最寄り駅に4路線が集中している。

【デザイン】
タワーは、下から上に向かっていくに従い、三角形→おにぎり形→丸と形状が変化していき、見る角度から様々なシルエット(そり、はらみ)を見せ、圧迫感が少ないデザインになっている。
スカイツリーの底面は一辺70mの正三角形、東京タワーは一辺80mの正方形で、634mと333mの高さの差から考えるとそのスリムさが窺われる。

姿
 2008年07月     着工
 2009年04月   塔体鉄骨開始
 2009年06月    50m
 2009年08月   100m
 2009年11月   200m
 2010年02月   300m
 2010年03月29日    333m(=東京タワー)
 2010年06月22日   398m(=当日)
 2011年春    上棟
 2011年冬    竣工
 2012年春    開業

   【写真−1】 谷口担当による説明
  
左手前方の円は、最大鉄骨φ2300mm暑さ100mmの実大模型である

3.インフォプラザ屋上からの施工状況視察
インフォプラザ屋上からの見学では、商業施設の工事から塔体の工事まで全容が眺望でき、工事の複雑さと規模の大きさを感じとることができた。
工事が進む大型商業施設にはショッピング施設のほか、ドーム型シアターや水族館なども建設される予定である。
限られた敷地内で、さまざまな工夫と綿密な計画により円滑に施工されており、現在、塔体上部にタワークレーン4基を据え施工は着々と進められている。
情報発信の拠点、観光拠点、新名所のシンボルとしての完成後の姿を想像し、低迷気味の日本のひとつの明るい兆しをこのタワーに期待し、見学会を終了した。

    
     【写真−2】 建設が進むタワー            【写真−3】 見学参加者


(建設部会 千々岩三夫 記)
 行 事   平成22年 5月 見学会報告
 日 時  平成22年 5月 19日(水) 14時00分〜16時30分
 見学会  京王電鉄調布駅付近地下化工事
 見学先  京王電鉄京王線および同相模原線調布駅現場構内入坑
 説明者  京王電鉄株式会社 鉄道事業本部調布工事事務所 岩村所長
 参加者   29名
報 告 1.事業概要説明

調布工事事務所にて岩村所長から事業概要の説明を受けました。
事業内容としては京王電鉄京王線の柴崎駅付近から西調布駅付近と相模原線の調布駅付近から京王多摩川駅付近にかけて、道路と鉄道との連続立体交差を行うものです。この事業は、京王線の柴崎駅〜西調布駅間約2.8qの区間と相模原線の調布駅〜京王多摩川駅間約0.9qの区間を地下化することにより、18箇所の踏切道を廃止するとともに8箇所の都市計画道路を立体化するものです。

 地下化計画区間について、シールドトンネル区間、開削トンネル区間のそれぞれの工事の特徴などについて説明を受けました。とくに、第4工区では、調布駅から京王線と相模原線に分かれる区間を1台のシールド機を使用した3回のUターン施工であること、営業線の直下を4.3mの低土被りで施工すること、最小離隔0.424mの超近接併設であること、および急曲線施工であることなどについて説明を受けました。

  【写真−1】 岩村所長による概要説明


2.工事現場見学
 説明をひととおり伺った後、2班に分かれて第4工区のシールド現場および調布駅の開削トンネル現場見学しました。シールドは現在相模原線下り(3本目)を施工しており、掘進中のシールド機および後方設備を見学しました。その後、調布駅の開削工事現場に移動し、営業線を仮受けしながらの大規模掘削および躯体工事を見学しました。
 現場見学を終えて、工事事務所会議室にて質疑応答を行いました。質問は事業内容から施工方法、跡地の利用方法など活発な討議が行われました。
 
  【写真−2】 調布西立坑(パンフレットより)

3.おわりに
 今回の見学会は、首都圏における大規模な都市土木の現場ということで、周辺環境の保全を図り、営業線の安全を確保しながらプロジェクトを遂行するということで貴重な見学会でした。
 工事説明ならびに現場立会い等に携わっていただいた京王電鉄鰍ネらびに工事関係者の方々に感謝いたします。


(建設部会 鈴木 久尚 記)
 行 事   平成22年 4月 講演会報告
 開催日時   平成22年4月16日 (木) 18時00分〜19時30分
 講演名  世田谷区のユニバーサルデザインについて
 (バリアフリーからユニバーサルデザインへ) 
 講演者    亥ノ瀬 久美氏 世田谷区役所都市整備部地域整備課 都市デザイン担当係長
 開催場所   日本工営株式会社 本社ビル3F大会議室
 参加者   30名
報 告

1.福祉のまちづくり
 世田谷区では昭和50年に特別区ということで区長を公選し、自治の独立を目指し自主的な運営ができるようにした。その中で昭和51年に第1回雑居まつり(羽根木公園)、昭和54年に羽根木プレーパークの開設などは市民の団体が手作りで運営を始める住民参加型の原型となった。
 昭和55年には都市景観、公共施設のデザインなどの向上を図るため都市美委員会が発足し、福祉・安全設計指針を策定した。これはバリアフリーを進めていくうえで必要なものであった。

2.福祉のまちづくりのための施設整備要綱
 昭和57年には、「福祉のまちづくりのための施設整備要綱」をつくり、区立施設を建設する際のルール・基準とし、民間施設にも協力依頼するなど画期的であった。昭和57〜61年には福祉のまちづくりのモデル地区として梅丘駅周辺のバリアフリー化に着手し、歩道の有効幅員を広げたふれあい通りガードレール、枝道との交差部における枝道のかさ上げ、車いすでも使える電話ボックス、車道を横切る緑道の段差解消の工夫などの対策を実施した。

3.やさしいまちづくりのための施設整備
 「福祉のまちづくりのための施設整備要綱」の制定から10年が経過し、社会の状況や区民意識の変化等を背景に、平成5年に「やさしいまちづくりのための施設整備(要綱)」を整備した。主な変更点は、すべての人を対象としたこと、事前協議対象施設を拡大したこと(スーパーマーケット、飲食店、理・美容院など)である。
 平成7年には、「福祉のいえ・まち推進条例」を策定し、公共や民間の建築物、集合住宅、道路、公園、公共交通施設を対象に、届け出を義務化した。平成11年には、福祉的環境整備推進計画として「バリアフリー世田谷プラン21」を策定し、既存施設の整備改善の計画、基準に適合しない施設の建替え、少子・高齢化に向けた移動交通などへの対応を検討した。
 平成18年には、ハートビル法に基づく義務規定を追加して「福祉のいえ・まち推進条例」を改正した。適合義務として建築物では200m2以上、集合住宅では1000m2以上とし、これを守れないと建築ができないこととなった。

4.バリアフリーからユニバーサルデザイン
 「福祉のいえ・まち推進条例」は、主にハード面である施設整備を重点とし、福祉的な配慮の行き届いた環境の整備と向上に限定していたため、福祉を広くとらえることを背景に「ユニバーサルデザイン推進条例」を平成19年に整備した。この条例とは別にはユニバーサルデザインの理念に基づき、バリアフリーを継続、発展させるために、建築物のバリアフリー化を強化させるバリアフリー建築条例も策定した。

5.ユニバーサルデザイン推進に向けた世田谷区の取組み
 世田谷区ユニバーサルデザイン推進計画は、平成19年に制定した「世田谷区ユニバーサルデザイン推進条例」に基づいて生活環境の整備に関する施策を総合的、計画に推進するための基本となる計画として平成21年3月に策定された。

6.ユニバーサルデザインとは
 ユニバーサルデザインの基本は、次のとおりである。
@特別な配慮ではない、自然な心づかい
Aだれにでも使いやすく、分かりやすい建物・施設の整備、案内方法などの工夫
B区別や選別をしない
Cだれもが満足する情報提供の仕組みやサービス上の配慮

 世田谷区の取組み事例としては、道路幅員が約6m、延長約450mの松陰神社通り商店街での整備がある。この整備は平成16年〜平成19年に実施した。主な整備は、道路の排水を中央排水とし道から店の入口の段差をなくしたことである。

7.最後に
 世田谷区では福祉のまちづくりをキーワードに、区が自主的に運営したことがきっかけと  となり、ユニバーサルデザインを推進してきた。講演者の亥ノ瀬係長は、これまで世田谷区が取組んできたユニバーサルデザインの経緯と歴史について講演していただき、すべての区民のために活力に満ちた世田谷区をつくりあげていくという熱意が感じられた活気ある講演会となった。


   

     【写真−1】 講師 亥ノ瀬 久美氏             【写真−2】 講演会場

(建設部会 鈴木 久尚 記)

 本講演は、日本技術士会Pe−CPD 講演内容のHP視聴により視聴することができます(会員IDとパスワードが必要です)。