防災特別委員会

     



 
第7回 2006年6月28日
宮島 圭司
 活断層と構造物
 活断層という言葉は、1995年の阪神大震災以後、市民権がえられたといえるが、地学の研究者や技術者の間では、1980年に東大出版会から発行された「日本の活断層―分布図と資料」というカタログにより、活断層の認識が広まっていったと思われる。私が初めて活断層と向かい合うようになったのは、1961年に設立されたばかりの本州四国連絡橋公団神戸調査事務所に配属され、世界最大の吊橋となる明石海峡大橋建設のため、明石海峡の海底地質調査を担当したときである。
 明石海峡大橋計画の初期段階において建設省と国鉄が実施した地質調査結果によると、明石海峡では、第四紀層(大阪層群)と花崗岩が断層で接していることが判った。地質年代のもっと新しい第四紀層を切断、変位させている海底の断層は、まさに活断層である。調査結果によると、数本の活断層が淡路島から本州に向かって、明石海峡を斜めに横切って分布している。そのため、明石海峡大橋の架橋ルートは、活断層を避けることができず、その対応が公団の技術者のあいだで問題になり、種々の検討を行った。その結果、橋梁基礎は活断層を避けた位置としたが、橋梁の耐用年数(100〜200年)に対し、活断層の活動間隔は数千年なので活断層が供用中に活動する確率は低く、橋梁の耐震設計上はこの活断層を特に考慮しないことにした。この技術判断は、結果的には誤っていたのであるが、当時はまだ海底活断層の活動履歴などの詳細な特性が判っていなかったので、やむをえないと思っている。また、橋梁直下に発生した兵庫県南部地震により、短周期成分の卓越する直下型地震に対する吊橋の耐震安定性が確認される結果となった。まだ洗礼を受けていない、長周期成分をもつ海溝型巨大地震対する吊橋の耐震性については、検討する余地が残されているように思われる。

 我が国は、大陸プレートと海洋プレートが接する変動帯に位置するため、地殻変動が激しく、全国的に種々の規模と活動性をもつ活断層が分布している。ダムや発電所のような「点」の施設は、活断層を避けて立地することが可能であるが、道路や鉄道のような「線状」構造物は、明石海峡大橋や丹那トンネルの例で判るように、活断層を完全に避けて建設することは困難である。諏訪山断層と呼ばれる活断層上に建設された山陽新幹線新神戸駅では、高架橋を山側、中央部(断層上)、海側に区分し、それぞれ独立した構造物として設計された。兵庫県南部地震においては、諏訪山断層が直接動かなかったため、ほとんど被害はなかった。このような特殊な構造物設計により活断層に対応する方法もあるが、活断層により発生する強震動や地盤変位を考えると、活断層上で全く被害を受けない構造物を建設するのは困難である。多少の被害は許容するが致命的な損傷を受けないとか被害を受けても短期間に復旧できるよう、構造物の特性に応じて多様で柔軟な設計が求められると思う。

   

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