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建設部会

2019年7月 建設部会講演会(報告)

日 時 :令和元年7月17日(水) 18:00〜19:30
講演名 :「近年の防衛事情」
講演者 :パシフィックコンサルタンツ(株)事業本部
 技術顧問 増田 慎吾氏
講演場所:機械振興会館 6階 6-67会議室
参加者 :51名(会員:48名、非会員:3名、WEB聴講:67名)

1.はじめに
 増田氏は1976年4月に当時の防衛施設庁に入庁以来、2011年8月の退官まで、一貫して防衛とともに歩まれてきた。自衛隊は、防衛出動が主たる任務とするが、近年、災害派遣、国際緊急援助、等任務が多様化してきた。特に、災害派遣は、建設部門とも関係が深い。
 本講演会では、わが国の防衛行政の概要を解説いただくとともに、自衛隊の災害派遣を中心とする近年の状況について講演いただいた。

2.講演内容
【自衛隊の任務と災害派遣】
・自衛隊の任務、職員の構成等の概要を解説いただいた上で、災害派遣の実績や東日本大震災における活動の状況を話しいただいた。
・自衛隊の任務は、本来任務と付随的な任務に区分でき、さらに、本来任務は、主たる任務(防衛出動)、従たる任務(治安出動、警護出動、災害派遣、機雷等の除去、国民保護等派遣、国際緊急援助活動、国際平和協力業務等)に区分できる。付随的な任務は、土木工事の受託、教育訓練の受託、南極観測への支援等がある。
・自衛官の数は、定員約24.7万人であるが、原員は約22.7万人であり、定員に達していない。また、自衛官の警察官に対する割合は、7割程度であるが、海外では逆に警察官の軍人に対する割合は7割が一班的であり、わが国は自衛官の数が少ない。
・大きな災害がない都市は、2〜3万人の自衛官が災害派遣に従事する。活動の内訳を見ると、急患輸送や消火支援が多い。
・東日本大震災のときでも国防を考慮し、東北派遣されなかった部隊もあった。災害時であっても国防は前提である。

【変動する我が国の取り巻く環境と防衛大綱】
・国際情勢の変化に伴うわが国の防衛環境の変化について解説いただいた上で、防衛政策の変遷にいてお話をいただいた。
・自衛隊は、警察予備隊として発足したことからもわかるように、警察の延長としての位置づけであった。日米安保体制は、盾の役割を果たしてきた。
・しかし、中国、ロシア、北朝鮮の活動が活発化による東アジアの緊張の高まり、米国の軍事力は相対的な低下、防衛に対する国民の理解の向上により状況が変化している。
・このような環境の変化を受け、わが国は、日米安保体制を維持するともに、憲法の範囲内で自衛隊の積極的役割を追及する必要性が強まっていると考えられる。
・一方で、わが国の防衛は、戦力の不保持、防衛費の実質的な制限(GDP比1%以下)、自衛隊の主たる任務以外の任務の増加といった面で自ずと限界がある。
・昭和51年から策定されている防衛大綱も、これらの我が国を取り巻く環境の変化に合わせて改訂されている。51大綱では基盤的防衛力の整備がテーマであったが、07大綱では災害派遣、16大綱ではテロへの備えが加わり、30大綱では従来の陸海空の防衛力に宇宙、サイバー、電磁波といった新領域を加えた多次元統合防衛力の整備を進める方針が示されている。自衛隊の役割はさらに拡大している。

【災害派遣の制約】
・上記のわが国防衛の現状を踏まえ、災害派遣の課題についてお話いただいた。
・大阪周辺では、陸上自衛隊の主力部隊が兵庫県に配備されている。大阪で大規模地震が発生した場合、淀川の橋梁の強度不足から自衛隊の車両が渡れず、大阪方面に展開できない恐れがある。
・和歌山県御坊市は南海トラフ地震に伴う津波による浸水が想定されている。陸上自衛隊駐屯地も浸水想定区域に位置している。南海トラフ地震発生時には、一旦は自衛隊も避難する必要があるが、隣接する特別養護老人ホームの入所者にどのように対処するかが課題となっている。都市計画、まちづくりから検討しておく必要がある。
・太平洋戦争時には、大地震や台風、豪雪等の災害が発生した。その時は、軍は災害対応に従事できず、警察と隣組で対応した。有事の際にも自然災害が発生する恐れがあるが、自衛隊は対応できない可能性もあるため、自治組織の強化が必要ではないか。

【もっと広い意味での災害対応の必要性】
・市民保護(自然災害及び重要事故への対応)と民間防衛(武力攻撃に対する被害の最小化)の概念がある。わが国はでも民間防衛の強化が必要ではないか。
・災害には自然災害(地震、台風等)と人為的災害(戦争、テロ等)がある。中国は、いずれも有事と位置づけたならば、国民を動員し対処する仕組みを持つ。
・韓国内で有事が発生した場合、韓国の世情から自衛隊機の受け入れに難色を示す可能性がある。このため、有事の際、邦人輸送できない場合も想定した上で、民間も含めた対策が必要。

【統一がとれた対応の必要性(スターバックス)】
・スターバックスはコーヒーを売る店ではない。職場でも家庭でもない安らげる場所とのコンセプトの下に、全てのサービスが展開されている。
・防災計画においても、1つのコンセプトの下に全ての施策を展開することが必要ではないか。

3.おわりに
 防衛行政の概要から自衛隊の災害派遣の実情、俯瞰的な視点からの災害の捉え方、最後は、スターバックスを例にコンセプトの下に一貫性ある施策を行うことの重要性まで、興味深いお話をうかがうことができた。
 特に、自衛隊の災害派遣の厳しい実情をうかがい、防災のあり方を根本から考え直す時期に来ているとの認識を強くした。
 建設部会の技術者が接することが少ない防衛事情について、防衛省職員としてのご経験をもとに、分かりやすく解説いただいたパシフィックコンサルタンツ(株)事業本部技術顧問増田慎吾氏に感謝申し上げます。

以上

講演会担当:森田、太田、山岡(記)

写真ー1講師:増田慎吾氏(拡大画像へのリンク)

写真ー1 講師:増田慎吾氏

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写真ー2質疑応答の様子(拡大画像へのリンク)

写真ー2 質疑応答の様子

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