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建設部会

平成29年2月 建設部会講演会報告

開催日時:平成29年2月15日(水) 18時〜19時30分
講 演 名:最新の技術をまとった地下鉄東西線 −技術的課題とその対策−
講 演 者:森研一郎氏 仙台市交通局 次長
講演場所:パシフィックコンサルタンツ(株)本社16F 会議室
参 加 者:38名(会員35名、非会員3名)

1.はじめに
仙台市地下鉄東西線は、国内最後の地下鉄新線工事とも言われ、これまで国内各所で培われた最新技術を適用して計画がすすめられた。建設時には様々な課題に直面したが、それらを適切に解決しながら、約12年の事業期間(工事期間9年)を経て、平成27年12月に開業を迎えた。
仙台市に入所以来35年間地下鉄事業一筋で、東西線事業に深く関わられた森研一郎仙台市交通局次長に、建設時にどのような課題に直面し、それらに対してどのような対策を講じたかについて、ご講演いただいた。

2.事業の概要
地下鉄東西線事業は、図-1及び図-2に示すとおり平成4年に全線開通した地下鉄南北線に直交する形で仙台市を東西につなぐ全長14.4km、13駅を整備する事業である。概要は、表-1に示すとおりである。特筆すべきは、事業許可時の事業費から400億円超の事業費を縮減して完工を迎えたことである。

      <表-1 事業概要>
  路線名 仙台市高速鉄道東西線
  施設概要 建設延長14.4km  13駅
  事業費 約2,298億円(159億円/km)
      ※事業許可時 事業費 2,735億円
     【内訳】用地費    107億円(▲36億円)
         土木・軌道費 1220億円(▲268億円)
         建築設備費   620億円(▲59億円)
         車両費    89億円(▲74億円)
         間接費 262億円(0億円)
  予測需要 平成27年12月開業時乗車数 8.0万人/日
          (※平成29年1月実績6.0万人/日)

3.事業における課題とその対策
(1)急曲線・急勾配のある路線計画
当事業の路線は、平面線形では「R 105mの最急曲線区間」を有し、縦断線形では「延長1.1km、勾配57‰の最急勾配区間」を有するものであり、急曲線・急勾配に対応する車両の選定が求められた。
その対策として、車両は、大江戸線(東京都営地下鉄)と同様の「三相リニア誘導電動機式」を適用して急勾配に対応し、急曲線には「リンク式操舵台車」を適用して対応した。リンク式操舵台車は、台車の箱軸を伸縮させながら台車の車軸をレール曲線(円)中心に向かせる機能を有することから、車輪がアタック角を持たずにスムーズに急カーブを走行できるものである。これにより、曲線走行時の騒音・振動が低減され、脱線の危険性が無くなり安全性を確保できた。

(2)高地下水開削工事
当事業の地盤は、図-3に示すとおり「活断層 長町‐利府線」の東西で地質が急変するという特徴がある。活断層の西側は、浅層から軟岩地盤が出現する。活断層の東側は、地下水位が高く、透水性が高い砂礫地盤が深層まで連続する。
したがって、活断層より東側の工区では、駅部を主とした開削工事において、地下水対策をいかに講じるかが課題であった。

[1]六丁の目工区(六丁の目駅以外は後述の卸町工区と同タイプの地盤条件)
地下水位が高く巨礫を含む硬質地盤(N>30)において、掘削底面の安定対策として、床付け盤下に遮水層を造成することとし、スーパージェット工法を採用して対応した。同工法は、このような地盤条件(巨礫を含む硬質地盤)での適用事例がなく、改良体造成径の設計値を確定することが難しかった。そこで、試験施工を実施し、改良体造成径φ4mを確認して、それを設計値とした。なお、改良体造成は、巨礫による改良体造成の不均一性を見越して、層厚を8m確保して遮水性能を高めるとともに、盤ぶくれに対しては改良体のせん断強度で掘削底面の安定を確保する設計とした。

[2]卸町工区
地下水が高い砂礫地盤(巨礫はなし)において、掘削底面の安定対策として、床付け盤以深の土塊重量と地下水による揚圧力が均衡する位置に遮水層を造成することとし、高圧噴射攪伴工法を採用して対応した。掘削底面の安定のためには、土留め壁長38m(柱列式地中連続壁)の先端に遮水層を造成する必要があり、深い改良(削孔)深度に対して工程短縮が課題であった。そこで、綿密な地盤調査を実施し、不透水層(粘性土層)の存在を確認し、その不透水層を勘案した掘削底面の安定検討に基づき、深度13mまで掘削後、その掘削面から遮水層を造成することで改良深度を低減し、工程の短縮を図った。

(3)軟岩の異常土圧
宮城野通駅(建設時仮称:新寺駅)付近は、深度約10mまでは砂礫層、それ以深は軟岩層が存在する地盤条件であった。過去の南北線建設時の経験から、砂礫層と軟岩層の層境で「異常土圧」が発生することが認識されていた。したがって、層境の山留めは、切梁、腹起の部材発生応力度が許容応力度の30%以下となる設計を行った。実測では、層境で想定以上の異常土圧が確認されるとともに、切梁軸力が管理値を超過した。切梁軸力増加の原因は、周辺地盤変位抑制のため施した山留め材へのプレロードが原因と考えられた。本地盤は、大きな異常土圧は作用するものの、地山自体の自立性が高いため、過度なプレロードは不要との知見を得た。

(4)シールド発進到達土留め
シールド通過部の土留め壁にはFFU(Fiber reinforced Formed Urethane)を採用し、シールド機による直接切削が可能な土留め壁とした。FFUは重量が軽いため、土留め壁施工時に泥水中に沈設できない(浮く)という事態が発生したが、泥水の比重を調整して対応した。

(5)重金属含有土の処理
仙台市域の基盤岩(竜の口層)は、重金属を含有することが判明した。対応が必要なる掘削土量は約50万m3に上った。土壌汚染対策法(以下、土対法)に定める溶出量試験結果より、重金属含有土は、掘削直後は砒素が溶出、溶出水はアルカリ性から中性を示すが、時間経過に伴い酸化が進み、カドミウム、フッ素が溶出、溶出水は酸性を示すという性質を有することが判明した。
当初は底盤のみ遮水性を持たせた盛土により還元的環境を形成するという対策工法であったが、平成22年に改正された土対法に準じ、上部にも遮水シートを施し対象となる掘削土全量を埋立て封じ込め処分することとした。なお、本事業は土対法改正前に開始した事業であることから改正法の適用を免れることができたが、公の立場を重視して、改正法を適用して対応した。採石場跡地を利用して埋立てを封じ込めすることに加え、埋立てに余った約6万m3は再資源化処分(セメント等)して対応した。

(6)オオタカの環境保全
竜の口橋梁の近傍でオオタカの営巣が確認され、オオタカの保全処置が必要となった。コンディショニング(段階的にオオタカを工事に慣れさせる)の実施、警戒色の排除、工事騒音の低減などの対応に加え、近傍200m内の営巣跡を封鎖、200m外に人工巣を設置して営巣地を移動させる対策をとった。その結果、営巣地はうまく移動され、毎年ヒナが生まれるなど、オオタカの保全に成功した。なお、旧営巣地では橋梁により生息地が分割されたことから、別のつがいが営巣している。

(7)東日本大震災からの復旧
東西線は、阪神淡路大震災後の新耐震基準に準じた設計であったことから、大きな被害はなかった。土留め壁の一部破損、シールドセグメントの変位(最大100ミリメートル移動)によるセグメント内部剥離等が発生した程度であった。なお、地震により路線全長が約40センチメートル伸びた。
旧耐震基準で設計された南北線は、橋梁を中心に橋台パラペットの破損などの被害を受けたが、耐震補強(橋脚鋼板巻立等)を施したものには大きな損傷は見られなかった。

(8)風致地区での橋梁デザイン
杜の都・仙台を象徴する風致地区で架橋の必要があった。対象となる広瀬川橋梁のデザインは、設計コンペを実施し、応募27案の中から選定した。
本橋梁は、平成25年度土木学会田中賞を受賞するなど、高い評価を得ている。

4.おわりに
様々な課題に際して、培われた技術及び経験に裏付けられた対策を講じられ、無事故で無事全線開通を迎えられた仙台市交通局及び工事関係者の方々の技術力に感心するとともに、分かり易くご丁寧に個々の事例をご説明いただき、大いに勉強・啓発された講演会であった。技術分野では、先人の知見・経験に学びながら、常に創意工夫が必要であり、我々技術士も不断の自己研鑽が求められることを改めて感じた。
今回の講演会の講師を快くお引き受けいただいた森研一郎氏には、改めて心から感謝申し上げる次第であります。

講演担当:松本、垣本、宮下、阿山(文責)

図ー1路線平面図・路線縦断図(拡大画像へのリンク)

図ー1 路線平面図・路線縦断図

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写真ー1講師(拡大画像へのリンク)

写真ー1 講師

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