2010年に開催した例会及び講演会の報告等を掲載しています。
岩本正和 先生 東京工業大学総合理工学研究科化学環境学専攻、教授
シリカ系ナノ多孔体は大表面積、均一かつ制御可能な規則性細孔という特徴を持っている。演者らは、ほとんどすべての原子が表面に位置、内壁は擬似的に均一な表面、ナノ細孔に起因する特殊な機能、に注目し研究を進めてきており、その過程で、テンプレートイオン交換法等の新手法を開発するとともに、エチレン→プロピレン等の新反応に遭遇できた。本講演ではナノ空間の新機能の開拓が新しい機能材料化学、触媒化学を誘起する可能性について紹介され、非常に興味深い講演であった。
北本達治 氏 技術士(化学部門、総合技術監理)
急速に進歩し、新しいものが次々と現れる科学技術分野で、最先端の成果を速やかに理解し、習得し、現実の社会で使いこなしていく主体として、 科学者・技術者の果たすべき役割は大きいという。グローバル・コンペティションの時代の中で各国とも次世代の教育、特に理系の教育に力を入れている。それに対して日本の次世代層の理科離れが問題視されてから久しいが、実態は余り改善されていないという実情が紹介された。各国の取り組みや技術士としてできることの一つとして、演者の豊富な理科特別授業の実践の経験が紹介され、大いに参考になった
若手グループ主催(第3回休日開催行事)
松本真一 氏 三菱化学(株)知的財産部
庄野文章 氏(社)日本化学工業協会常務理事
化学物質は、日本の化学産業の重要な基幹製品であり、開発競争力を支える基礎材料でもあるが、過去の不適切な処理や管理が公害を生んだ経験から、有害性が懸念される物質の使用を止める等のハザード管理(第一世代管理)、次いで科学的根拠に基づくリスク評価等による物質毎の適正なリスク管理(第二世代管理)が行われるようになってきた。化学物質は国境を越えてグローバルに移動する。ナノテクノロジーやバイオテクノロジー等の新技術の展開は目覚ましい。そのような科学技術環境を背景として化学物質の総合管理がどのように行われているか、最近の技術と国際的な活動が紹介された。
岡田宗久 氏 技術士(化学部門)、クラレテクノ(株)
アルコール水溶液の膜分離プロセスの開発を、パーベーパーレーション法(PV法)で検討した。PV法とは孔の無い均質膜を介して供給液を蒸発させ、透過蒸気として濃縮液を得る方法であるため、浸透圧や気液平衡にかかわらず、膜自身の性能により目的成分を分離できる特徴がある。システムのイソプロパノール(IPA)脱水能力は、12kg/hr, 90% IPA→ 99.9%であり、半導体・液晶製造ラインに付属・設置し、IPA回収精製システムとして、実用化され、すでに15年以上使用されている実績を紹介された。
福岡伸典 氏 元旭化成(株)新事業本部技術アドバイザー
透明性・耐衝撃性が抜群で、パソコン、携帯電話、光ディスク、シート等、幅広く用いられ、エンジニアリングプラスチックとして最大の需要(330万トン)を誇るポリカーボネート樹脂(PC)は1958年の工業化以来、全てCOを原料とする方法で製造されていた。
CO2を原料とする世界初のPC製造プロセスが旭化成によって開発され、工業化(2002年:合弁)に成功した。現在、旭化成法による世界の4社の新設プラントから、高品質・高性能のPCが市場に提供されている。調査・探索研究から始め、パイロット開発を経て工業化まで25年をかけた技術の概要が紹介された。
・日本技術士会全国大会(三重県四日市市)にあわせて中部化学部会、近畿化学部会と合同で開催
・三菱化学四日市工場見学
・本部、中部、近畿の化学部会の情報交流会 その後、全国大会のウェルカム・パーティに合流
9月度化学部会例会・見学会は技術士全国大会にあわせ、近畿支部化学部会、中部支部化学部会と合同で、9月24日に四日市で開催された。見学会は中部支部化学部会の皆様のご尽力により、三菱化学・四日市事業所を43名で訪問した。三菱化学・四日市事業所は化学製品の一大拠点であり、また研究開発拠点として技術開発を進めており、大きな工場施設と研究所に驚き、レスポンシブル・ケア活動にも積極的に取り組んでいて、感銘をうけた。
化学部会情報交流会は16時からじばさん三重の研修室で開催、岩崎部会長の司会で、化学部会(本部、近畿、中部)の活動紹介及び参加者の自己紹介がなされ、大変盛況で時間が不足気味であった。その後、参加者は全国大会交流会の席に移動し、懇親会に合流、さらには多くの有志により二次会も開催され盛り上がった。
岡部 徹 先生 東京大学生産技術研究所 サステイナブル材料国際研究センター教授
グリーン・イノベーションを推進するためには、ハイテク機器や省エネ機器の開発は欠かせない。たとえば、ハイブリッド自動車や電気自動車に必要な高性能モータや蓄電池には多量のレアメタルを必要とする。また、太陽電池やその周辺機器もレアメタルの塊である。レアメタルやその化合物の需要は、今後、拡大を続け、その重要性はいっそう高まるだろう。本講演では、レアメタル資源とリサイクル技術について、現状や今後のトレンドついて概説された。レアメタルは枯渇するというのは誤解、情報操作によるものであり、従来王水にしか溶解しなかったPtや貴金属を塩水に溶かしてリサイクルしようという研究などが、印象的であった。
講演会終了後、夕食を食べながら岡部先生を囲み、アットホームな雰囲気で参加者の自己紹介とデスカッションを重ね、レアメタルについての理解を深めた。
講演1:「ナノパーティクルテクノロジーとその安全性」
江見 準 先生 金沢大学名誉教授、日本粉体工業技術協会会長
2000年のクリントン元大統領の演説をきっかけにナノテクノロジーの研究が全世界に広がり、10年経過した。この分野の研究がどの程度進歩したのか、1nmから100nmの粒子を対象としたナノパーティクルの分野での研究の進展状況について、何故ナノ粒子か、から始まり、ナノ材料の製造法、機能化、工業化に焦点を当てて述べると共に、ナノ粒子が生体にどのような影響を及ぼすかについて、フラーレン、CNT(カーボンナノチューブ)、酸化チタンなどの研究例をもとに、現在提案されているリスク評価の方法がを紹介された。また、環境中に放出されるさまざまなナノ粒子の有効な除去方法についても紹介があった。
松井武久 氏 技術経営研究センター所長・元三菱化学、農業環境技術研究所監査役等・機械部門技術士
世界は、近年、人口増加、発展途上国の急成長、地球温暖化等、急激な変化に伴い、水不足、食糧不足、食料価格高騰等が大きな問題となっている。一方、日本の農業は零細農家が多く、補助金政策から脱皮できず、国際競争力が弱く、食料自給率は40%前後で低迷している。講演では、未来の農林業を夢のある産業にするために技術士から新たな提言をされ、聴講者に大きなインパクトを与えた。
(1) 何故、日本の食料自給率(40%)は先進国の中で最低なのか?
(2) 何が、農業における問題・課題か?
(3) 農林水産行政について(動向)
(4) 未来農林業への提言と技術士の役割(具体的活動事例紹介)
1.技術士全国大会(四日市)にあわせ、各支部(近畿、中部)化学部会と共催で、化学部会例会を四日市で開催することになった。化学部会として初めての試みであり、多くの会員の参加が望まれる。
2.理事会報告:高橋会長が事業受託における日本技術士会の基本方針を発表されたが、その骨子は、受託事業は事業利益の追求ではなく、社会貢献活動の一環で、発注者は官公庁、学協会を基本、民業を圧迫しないよう一般競争入札には基本的に参加しない、随意契約の場合は受託するというもの。やや後ろ向きの表現であり、今後も総務、企画委員会等で検討を加えていくことになる。
3.「中小企業支援技術士業務調査」事例募集:中小企業交流実行委員長から、中小企業を支援している技術士の事例を募集し、調査報告書の作成を計画しているので、ご協力をお願いするとのこと。
若手グループ主催(第2回化学部会休日開催行事)
〜化学系技術者向け講演・交流会〜
講演1:「化学物質管理の最新の動向 〜改正化審法について」
半沢昌彦 氏 日本化学工業協会化学品管理部長
2009年に化学物質審査規制法(化審法)が大幅に改正され、2010年より段階的に施行されている。本講演では、まず化学物質管理を巡る国際的な動向(欧州REACH、アジア各国の規制)について概説し、次に旧化審法の概要を簡単に紹介していただいたのち、化審法見直しの経緯およびその改正内容について、国内の環境変化や国際動向、および旧法の課題等と関連付けて説明いただいた。
今回の改正では、化学物質管理の枠組を化学産業からサプライチェーン全体へと広げること、従来のハザードベース管理からリスクベース管理に変わること、国際動向に対応すること、および既存物質を含めた包括的な管理体制の導入、などが大きなポイントとなっている。改正化審法のスキーム、段階的な施行スケジュール、今後の課題、および事業者の取り組み等についても詳細にご説明いただいた。
講演2:「化学プロセスの安全フレームワーク」
熊崎美恵子 先生 横浜国立大学大学院環境情報研究院 准教授
毒性・腐食性・発火爆発危険性を有する化学物質や化学反応を扱う化学プロセスは、必然的に人や社会に危害を及ぼすリスクを伴う。リスクアセスメントはそのリスクを管理するための方策であり、抽出された危険源はフレームワークに沿って合理的にリスクを低減することができる。本講演では、リスクアセスメントの手順、本質安全化の取り組み、被害の拡大を防ぐ防護層の考え方について、わかりやすく説明していただいた。
最後に、米国で実際に起こった爆発事故の経緯や原因を詳細に紹介する貴重なビデオ映像を放映していただき、いくつもの要因が複合的に組み合わされて起こる実際の災害の恐ろしさを実感することができた。
講演3:「インクジェット受容層用材料についての業務経験から」
中田将裕 氏 王子製紙(株)技術士(化学)
近年技術的な進展が著しいインクジェット用紙の開発について、実際に開発に携わった経験を基に、基材表面に塗布される受容層の技術開発について紹介していただいた。
写真印刷用の光沢インクジェット用紙には、シリカ微粒子などの微細顔料からなるインク吸収層が塗布されている。本講演では、この吸収層の乾燥時にひび割れが発生するという課題の解決をテーマとして取り上げた。塗布するコロイド粒子の分散凝集挙動の制御技術を中心に開発を進めた結果、ひび割れを抑制するだけでなく、従来以上に高性能低コストの受容層を開発することができた。
講演4:「電子ペーパーの表示方式と用途展開」
前田秀一 先生 東海大学工学部教授 技術士(化学・総合)
電子書籍等の新たなメディアの表示素子として注目されている電子ペーパーの技術動向について総合的な見地から紹介いただいた。
現在の電子ペーパーの表示方式における主流は、電気泳動方式である。しかし、電気泳動方式に対して、部分的(例えば、視認性、応答性、カラー化、メモリー性、フレキシビリティなど)に優位にある、様々な他の表示方式が存在する。そしてそれらの研究開発は今後も続くと思われる。また電子ペーパーのキラーアプリケーションは、視認性とメモリー性を生かした専用機(例えば、高齢者向け電子書籍、屋外専用サインディスプレイ、知的作業専用パソコンディスプレイなど)にあると考える。
澤本光男 氏 京都大学大学院教授、前高分子学会会長
本講演では、将来に向けた高分子科学と工業の将来課題について各種資料を参照して展望され、とくに高分子材料創成における研究動向を議論された。同時に、このような動向の一例として、精密ラジカル重合の開発と機能性高分子材料やその基盤材料の精密合成に関する研究も紹介された。社会が持続成長可能であるための、世界的複合課題に対する高分子科学と工業への、期待と果たす役割は大きいことを示された。
腰原伸也 氏 東工大・理工学研究科・物質科学系教授、JST,CREST
量子ビーム技術を基盤とする光観測技術は飛躍的進歩を遂げ、触媒を始め各種機能を生み出している電子と、構成原子の構造が連携しておりなす映画が撮影可能となりつつある。一方で物質科学側においても、従来の静的構造に基盤をおいた「基底状態の物質科学」から、動的構造・非平衡エネルギー流の中におかれた物質の特性探索へ、という新しい方向性が強く叫ばれている。これは従来の情報技術や物質転換の速度と効率の壁を打ち破るために必要不可欠なパラダイムシフトである。本講演では、このような科学技術の現状を背景に、物質創成と観測技術開拓の「コラボ」によって生まれようとしている「非平衡物質科学」の状況を紹介された。
沖津 修 氏 沖津技術士事務所
日本社会は変化の真っ只中にあるが、米国発金融危機後の不況が改善に向かっているようだ。日本の人口動態、GDP推移、貿易推移などに関する統計データを分析してみた。近年の中国経済の発展が日本人にとって戸惑いを与える一方で、日本経済の牽引役になっている現状が数値データとして見てとれる。また、国内のデフレの原因も世界経済の変化の影響であることも見て取れる。本講演では、これらの結果をもとに、日本の現状と今後について考察し、さらに、これまでの技術士業務を通しての経験談をふまえ、これからの技術士の役割について意見を述べられた。
資生堂リサーチセンター(横浜)
角田剛久 氏 宇部興産(株)企画管理部企画・マーケティングGr
近年、有機金属錯体は多くの魅力ある機能が見出され、多くの分野から機能材料として期待されている。これら有機金属錯体は金属イオンと有機配位子の組み合わせにより機能制御が可能であり、分子そのものが機能性素子として働く。つまり、分子構造設計=機能設計であり、機能をいかに発現させるかは金属錯体の分子設計に依存するところが大きい。また、合成の面からは中心金属に配位子置換不活性型の金属種を持つものが多く、合成条件の厳しいものが多く、収率や副生成物など実用化に対して多くの課題がある。本講演では色素増感型太陽電池用の色素を例に取り、これらの問題に対するUBEの取り組みについて紹介された。
宮田隆夫 氏 技術士(化学、総合技術監理)米国陸軍国際技術センター科学顧問
従来、科学技術の研究体制について、日本は長期的な見地から実施し、米国は短期的な成果至上主義と言われてきた。本講演者が勤務する米国陸軍国際技術センターの組織、業務内容について紹介された。米国陸軍は長期的視野に立ち、基礎研究のサポートを実施しており、あまり知ることができなかった分野であり、興味深かったし、日本の科学技術研究のあり方を考える手助けになった。
御園生 誠 先生 東京大学名誉教授 JSTプログラムオフィサー、日本化学連合
現代文明が必要としている大量の一次エネルギーをいかにまかなうべきかは、21世紀最大の課題である。新エネルギーや電気自動車を導入すればすぐにでも脱化石エネルギーが実現すると考える向きもあるが、それは大いなる幻想であると。これらは高価なうえ二酸化炭素削減効果が小さい。他方、化石エネルギーには地球温暖化のリスクがある。本講演では、時間軸と量的関係を見据えつつ、地球温暖化のリスク及び新旧エネルギーの得失を冷静に評価し、その上で、今後の一次エネルギーのあり方と、どうすれば持続可能な低炭素社会に軟着陸できるか解説され、その方向と対策を示された。エネルギー問題を考える上で非常に役立つ講演であった。
講演会の後、御園生先生を囲んでミニ討論会(23名参加)が実施された。
演題:エネルギー・資源問題の本質本講演では、まず、時間軸と量的関係を見据えつつ、地球温暖化のリスクおよび新・旧エネルギーの得失を冷静に評価し、その上で、今後の一次エネルギーのあり方につき、方向を間違えず穏やかな対策を着実に実施すれば、持続可能な低炭素社会に軟着陸できることを示したい。
田村亘弘 氏 新技術協会 参事、元旭化成研究機関長
現在、資源の枯渇が叫ばれる一方、利用されたものが環境中に排出され、その処理に十分な対応策が取られていない。この問題に“衆知を結集しなくてよいのか”という問題意識をもつべきであり、また、我が国に元素のフローを司る素材産業のハブ機能をもたせること、石油精製、石油化学、ファインケミカル合成等に用いられる触媒の貴金属及び既に米国で“戦略物質”として扱われている“リン”をリサイクルさせること等が我が国の急務になっており、技術士業務の一つと位置付けて欲しいと講演された。
中村博昭 氏 技術士(化学部門)
2009年11月1日施行外為法が22年振りの大幅改正にもかかわらず、日本社会での関心は極めて低い。「安全保障貿易に係わる輸出管理の厳正な実施について」という経済産業大臣通達が新興途上国による大きな経済の潮流変化に飲み込まれている。安全保障をめぐる国際間の厳しい緊張とわが国の憂慮すべき現状を打破する力を有する唯一のプロ集団は技術士であると自ら標榜し、昨年末にCP&RMセンターを始動させた。当センターは技術士の業務拡大の柱として日本技術士会でも大々的に取り上げることになった。また、日本から海外へ輸出される全ての輸出貨物、提供技術について「輸出管理コンプライアンス」とは何かを考え、実際私達は何を、どのように、どこまで徹底しなければならないのかを具体的な事例を挙げて解説してくれ、とても役立つ講演であった。
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