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生物工学部会

研修旅行実績(見学会および講演会)2016年

研修旅行の様子(拡大画像へのリンク)

(画像クリックで拡大 47KB)

研修旅行記録

【日時】平成28年7月29日(金)12:30-18:00(終了後懇親会)
【訪問先】とっとりバイオフロンティア(鳥取県米子市、鳥取大学医学部米子キャンパス内)
【懇親会】(米子駅周辺)

【内容】
1. とっとりバイオフロンティアの概要
 とっとりバイオフロンティアとは、鳥取大の染色体工学技術をコアとするバイオ産業創出を目指した鳥取県の産学官連携の研究拠点である。鳥取県は全国の都道府県で人口が最も少なく、さらに人口流出が続く状況に危機意識を持ち、バイオ領域の研究開発と事業化の橋渡しを目的に2011年4月に鳥取大学米子キャンパス内に施設を建設した。鉄骨3F建ての研究施設は、オープンラボ(1F)、遺伝子・細胞実験室(2F)、インキュベーション施設(3F)から構成され、廊下続きで動物飼育室(臨床実験施設6F)にアクセスできる設計となっている。1F, 2Fのオープンラボと分析機器は、民間企業も気軽に利用できる運用システムで、遺伝子組換え実験、細胞実験、マウス実験が可能である。3Fのインキュベーション施設には、トランスクロモソミックス(TC)社 [鳥取大染色体工学研究センターの押村特任教授が社長;完全ヒト抗体産生ラットの開発、抗体医薬開発]、 (株)ジーピーシー研究所 [創薬支援ツール開発;ほ乳類の体内時計遺伝子BMAL1の発現を発光イメージングする動物評価系]などVB4社が入居している。
 研修会の冒頭、片寄佳人氏(公財法人 鳥取県産業振興機構 バイオフロンティア推進室長)から「とっとりバイオフロンティア」についての説明があった。同推進室が目指すゴールには人材育成と鳥取大卒業生の雇用確保があり、人材育成にも力点をおいている。鳥取大学生に技術士の資格取得を薦め、合格にむけて学習サポートを行っているとの説明もあった。

2. 染色体工学研究センター
 久郷裕之氏(染色体工学研究センター センター長)から同センターの基盤技術となる人工染色体ベクターの説明を中心とする講演があった。染色体工学研究センターは、染色体工学技術を基盤として鳥取大学の国際競争力を高めることを目的に、押村教授[人工染色体ベクターを開発]が2009年に開設した研究教育機関である。生命現象研究部門、染色体医療学研究部門、バイオモデル動物開発部門、ゲノム編集技術開発部門から成る。
 人工染色体ベクターとはヒト21番染色体のセントロメア[長腕と短腕が交差する部位]とテロメア[両腕の末端]間を欠失させてloxPサイトを組み込んだ遺伝子発現ベクターで40-250Mbの長大なDNA配列を搭載できる。その特徴は、任意の遺伝子が搭載でき挿入塩基長に制限がないこと、染色体ゆえにコピー数が一定で長期間安定に保持され、細胞から細胞への移送もできることにある。ヒト21番染色体以外にマウスの人工染色体ベクターも開発済みであり、筋ジストロフィーの遺伝子治療や菌類の抽出ライブラリーを活用した医薬リード化合物探索や生物農薬の開発などの研究テーマに利用されようとしている。

3. 遺伝子実験施設の見学
 とっとりバイオフロンティアの建屋周辺にある、鳥取大学生命機能研究支援センターが所有する遺伝子実験施設を見学した。生命機能研究支援センターとは、鳥取大学の設備を学部横断的に有効活用することを目的に設立された大学内の組織である。次世代シーケンサー、共焦点レーザー顕微鏡、FACSなど最近のバイオ研究に必要不可欠な機器が稼働していた。

4. 次世代高度医療センターの見学
 次世代高度医療センターは、医師や研究者が診療科の枠を越えて高度な臨床研究を行うために整備されたセンターで、臨床研究のみならず、鳥取地域における医薬品・医療機器の製品化や産業化もバックアップしている。テムザック技術研究所の社長が述べていたが、鳥取大学医学部はとても風通しのよい組織風土で、良い意味で鳥取地域の頂点としてバイオ産業の創出や育成に貢献しているらしい。今回の我々の見学も、医療とバイオ産業との垣根を取り払った育成的な視点で受け入れている。鳥取大学病院の目玉機器は、なんといっても手術支援ロボット「ダヴィンチ」である。しかし、見学ツアーは、手術室(ダヴィンチ見学)班、MEセンター班、放射線治療棟班の3班に分かれたため、私が見聞したMEセンターをご紹介する。MEセンターとは、メディカルエンジニアリングセンターの略で、病院内の医療機器を管理・メンテナンスする臨床工学技士[医療機器の専門職]が勤務する部門である。臨床工学技士の方から、緊急的に心臓の補助を行うIABP(大動脈内バルーンパンピング)装着、軸流ポンプ式人工心臓、ペースメーカーの説明を受けて見聞するとともに、個々の医療機器の課題について生の声を拝聴する機会を得た。命と直接関わる製品ゆえにリスク回避と利便性のリスク/ベネフィットをどのように按排するか難しいところだが、患者のQOLや満足度を高めるための工夫はまだまだ必要であり、その戦略策定や中小企業との橋渡しにおいて技術士が携われる分野と拝見した。

5. 株式会社テムザック技術研究所の見学
 同社は、生活支援ロボットメーカーの株式会社テムザック(福岡県宗像市)の子会社で、医療用ロボットの研究開発会社として2014年に米子市に設立された。アメリカ西海岸のホテルをミニチュア化したような木造2階建ての社屋は、バリアフリーの1階部分と技術者(がアイデア出しに苦悩する状況を想定して)に配慮した2階部分から成り、アイデア重視の研究開発型企業のようである。鳥取大学医学部との共同研究が米子進出のきっかけながら、鳥取大学医学部の、風通しのよい組織風土、企業連携して製品化・ビジネス化を推進する取り組みに感銘を受けて会社を設立したものと拝見した。嘔吐反射もする美系女子の医療教育用シミュレーションロボット、ベットから車椅子の移動がスムーズな移乗・移動支援ロボット(電動車いすの一種)、歩行支援ロボットなど今後の製品化が楽しみな医療教育・介護支援ロボットを見聞した。

6. 所感
 鳥取大学医学部を中心とする産学官連携の拠点「とっとりバイオフロンティア」ならびに関連施設の見聞、テムザック技術研究所の訪問は、鳥取大学病院の風通しのよい組織風土を礎とする産学官連携の取り組みとその心意気が感じられるとても有意義な研修旅行であった。とかくリスク回避を重視して停滞しがちなのが日本の医薬品・医療機器開発であるが、企業連携して製品化・ビジネス化を推進する鳥取大学医学部と鳥取県の取り組みは、実践的で惹かれるものを感じた。

(記録者:中野 哲郎)

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