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農業部会

食品の放射能汚染について(掲載 2011/11/9)

ご承知のように、福島市のある地区で、630Bq/kgという暫定規制値を超えたお米が検出された。
また、同じ地区で、新たに1,270Bq/kgという、より高い放射能を持ったお米も検出された。

では、500Bq/kgのお米(玄米)を食べると実際にはどの程度の被ばく量になるのだろうか。

放射性セシウムを含む食品を口にした場合の内部被ばく量についてインターネットで検索すると、セシウム134では10,000ベクレルを口にした場合の内部被ばく線量が0.19mSVで、セシウム137では0.13mSVと出ており、平均すれば、0.16mSVとなる。
日本人のお米(精米)の平均消費量は1年間あたり約60kgとなっている。
白米に含まれるセシウムは玄米の約2分の1なので、玄米の500Bq/kgは白米では250Bq/kgとなる。
すると、1年あたりの放射能は、60kg×250Bq/kgで15,000ベクレルということになる。
10,000ベクレルあたりの内部被ばく線量が0.16mSVなので、15,000÷10,000×0.16で0.24mSVとなる。
これは変だ。
500Bq/kgのお米(玄米)を食べていると年間1mSVの内部被ばくを受けることになっているのに、計算ではその約4分の1の内部被ばくしか受けないことになる。
一体どういうことになっているのだろうか。

国際放射線防護委員会(ICRP)の2007年の勧告では、自然・医療被ばく線量を除いた1年間の被ばく線量の限度を平常時は1mSV未満、緊急時には20〜100mSv、緊急事故後の復旧時は1〜20mSvと定めている。この勧告に基づき、福島原発の事故に際し、ICRPは日本政府に対して被曝放射線量の許容値を通常の20〜100倍に引き上げることを提案した。ただし、事故後も住民が住み続ける場合は1〜20mSvを限度とし、長期的には1mSv未満を目指すべきだとしている。

これを受け政府は、1〜20mSVの地区を汚染状況重点調査地域に指定し、国の負担で除染を行うこととしているが、風評被害を恐れ、指定に尻込みしている市町村が多い。
また、厚生労働省は、来年の4月から上記の規制値を年間5mSVから1mSVに引き下げると表明している。
これが実現し、玄米の規制値が現在の500Bq/kgから5分の1の100Bq/kgに引き下げられれば、今年の米で、現在の規制値はパスしていても、100mBq/kgを超えるものは販売出来なくなる恐れがある。
もちろん、来年以降の米も100Bq/kgを超える米は出荷できなくなるので、大変厳しい規制となる。

ここで考えなければならないのは、ICRPの勧告は、事故後の被災地に人が住み続ける場合の外部被ばくに関わるもので、食べ物に含まれた放射性物質に由来する内部被ばくについては言及していないことだ。
少し前に、東京都世田谷区のあるスーパーの敷地で高い放射線量が検知された。
毎時最大170μ(マイクロ)SVで、年間被ばく線量に換算すると1,500mSVになる。
しかし、これは埋却された廃棄ラジウムから発生する放射線による外部被ばくであって、スーパーで売られていた食品に放射性物質が含まれていたなのではない。
テレビ報道の中で、ある主婦が、「この店で買った野菜を食べてしまったが大丈夫でしょうか?」という質問をしていたが、答えは「大丈夫」なのである。

内部被ばくとは、食物に含まれた放射線物質に由来する被ばくのことで、先に示した5mSVは、規制値の食品を毎日口にした場合に受ける年間の内部被ばく線量を表している。
では、規制値を超えた食品を毎日口にするような状況が起こり得るだろうか。
私たちは、家でも外でも、各地で生産されたさまざまな食品を口にしている。
決して、ある地区で生産された特定の食品を選んで食べているわけではない。
したがって、5mSVという内部被ばくは、理論的にはあり得ても、実際には起こりえない数字になる。
外部被ばくの場合には、汚染地に住んでいれば、誰もが被ばくを免れないが、内部被ばくは食生活次第だ。
水道水や牛乳については当然厳しい管理がされており、放射能は規制値を遥かに下回っているはずだ。
他の食品でも、例えば米では、1mSVという規制値に対し、実際の内部被ばく線量は0.24mSVだ。
したがって、現在の基準でも、年間内部被ばく線量が1mSVを超えることはまずないと考えられる。
なのに、なぜあえて1mSVという、現在の5分の1の厳しい基準を設定することになるのだろうか。

インターネット情報では、日本における自然放射線量は年間1.5mSV(世界平均は2.4mSV)で、集団胃検診(バリウム検診)による被ばく量は15〜30mSVにもなる。(0.6mSVや4.1mSVという数字もあり、胃検診の際の被ばく量についても正確な情報提供が必要だ)
こういった数字と比べた場合、1mSVという規制値はあまりにも高すぎるのではないだろうか。
現在の500Bq/kgでも次々に規制値を超える米が見つかっているのだ。
規制値を100Bq/kgに引き下げれば、いったいどれだけの汚染米が見つかることになるのだろうか。
それだけではない、そういうことになれば、風評被害のさらなる拡大にもつながりかねない。
国民の安全のために政府が必要な規制を行うことは当然のことだが、必要以上の規制を敷けば、復興の足を引っ張ることになるのではないか。

平成23年度第3次補正予算が可決し、セシウムの除染作業が今後本格化するが、除染された農地で生産された農産物が新たな風評被害のために売れなければ、何のための除染かということになる。
福島への応援は、放射能についての正しい知識を持つところから始めなければならない。

本ブログは11月22日に掲載したが、不正確な記述や誤った個人的見解があった。
お詫びを申し上げ、再掲させていただく。

このページのお問い合わせ:農業部会

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