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男女共同参画推進委員会

男性技術士キャリアモデル 前田秀一さん

前田秀一さん(総合技術監理部門・化学部門)(拡大画像へのリンク)

前田秀一さん(総合技術監理部門・化学部門)

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前田 秀一 さん

まえだ しゅういち さん

技術士の気質

宝くじの1等に当たっても今の仕事を続けますか?と聞かれたら、皆さんはどう答えるでしょうか。今の仕事をすぐに辞める、という人も一般には多いと思います。経済的保証さえあれば、趣味に生きる、遊んで暮らすといった選択ができます。そちらに流れるほうが自然かもしれません。

しかし、私の感覚では、技術士のほとんどが、宝くじが当たってもその仕事を続ける、と言うような気がしてなりません。ここで言う技術士は、独立技術士だけでなく、技術士資格を生かして転職した人、企業内技術士として業務に従事している人などを含みます。私自身、以前は、一般の企業で働いていました。自分が主役としてプロジェクトを動かしていると(錯覚でもよいから)思うことができたときは、上司からの命令だから仕方がないと思ったときに比べ、仕事の効率は5倍、疲労度は5分の1でした。

たぶん技術士の多くは能動的に生きているから、どんな仕事でも自分の仕事として続けることができるのだと思います。能動的な人だから技術士試験を受けるのか、技術士になったから能動的になるのか、それは鶏が先でも卵が先でもどちらでもよいと思います。ただ、前向きな姿勢を崩さない技術者であれば、技術士はどこかで必ず出会うことになる資格ではないでしょうか。

技術士試験について

私自身が技術士試験を受けようと思ったきっかけは、実は本屋での立ち読みでした。たまたま手に取った技術士の過去問集に、「あなたが考えるグリーンケミストリーの10か条を述べよ」という設問がありました。この「あなたが考える」という部分の受験者の主張を聞いてみようという姿勢に、この国家試験の魅力を感じました。上記の過去問集を手にしたのは10年以上も前の3月でしたが、思わずその4月には願書を出してしまい、8月には筆記受験、12月には口頭試験を受けていました。受け身の試験とは思わなかったので、試験勉強は大変ではありましたが、つらいとは感じませんでした。そして、過去問集に出会ってちょうど一年後には技術士になっていました(当時は実務経験7年で第一次試験を免除されていました)。

私自身は、上記のように旧試験制度の中で勢いだけで技術士になってしまいました。一方現試験制度の下では、第一次試験から数年という期間を受験に費やすことになります。JABEEや修習技術者から技術士を目指す人も、モチベーションの維持が大変だと思います。したがって、人生のどの時期に受験するか、そのタイミングが重要です。企業にいた時代に自分の部下に、「結婚する前に勉強しないヤツは馬鹿だ、子供ができる前に勉強しないヤツも馬鹿だ」と、暴言を吐いていました。しかし本当に言いたかったのは、勉強よりもパートナーや子供との時間を大事にしなければならないときが絶対にある、ということです。優先順位が家族との絆にあると感じたときは、受験をいったんリセットし、次の機会をうかがうのもありかと考えます。技術士試験は逃げませんし、前向きに生きている限り、技術士試験から逃げることもないでしょうから。

理系女子および女性技術士の方々へ

さて、現在、私は職場を大学へと変えています。企業の技術者としての生活が嫌だったということではありません。もともと人生を二毛作のように送りたいと考えておりました。

大学に移っていなければ、独立技術士の道を選んでいたかもしれません。独立技術士はもちろん、企業内のプロジェクトリーダーでも小さなユニットのリーダー(メンバーが自分一人だけでも)でも、気持ちしだいでは、一国一城の主です。同様に、大学教授というのは、一国一城の主の気分になれる職業です。例えば、誰にも文句を言われずやりたい研究をし、少ない予算を切り詰めながらも好きなときに海外出張し、時々学生に対して偉そうなことを言っています。

もっとも、私が学生に対し偉そうなことを言えるのは、私が彼らより優れているからというわけではありません。たまたま彼らより早く生まれたから、に過ぎません。実際、もし先輩や同級生だったら、逆に教えてもらっていただろうと思わせる学生がたくさんいます。また、お互い現在の立場においてすら、教えを請いたいと時に思わせる学生もいます。その多くは女子学生です。彼女らからは、特に交渉力を学びたいと思っています。例えば、私の所属する学科ではありませんが、こんな話がありました。国際会議での発表のために海外に向かう同級生に対して、「おみやげはいらないから」と時間と場所を変えて3回も繰り返した女子学生がいました。1回ならその言葉を真に受け、何も買ってこないところです。しかし3回も言われると、よほど鈍い人でない限り、買ってこないとまずいと気づきます。相手を気遣う言葉を繰り返しながら相手にプレッシャーを与え、思い通りにことを運んでしまう、すごい交渉力だと感心しました。

学生ですらこの調子ですから、理系女子の最高峰にいる女性技術士の交渉力には、大いに期待しています。技術士の中で女性の占める割合は1%くらいだと聞きます。しかしその存在感たるや、私にはその何十倍もあるように感じます。女性技術士の数をもっと増やしていくべきという意見をよく聞きます。それはその通りだと思います。ただ現時点でも、女性技術士の方々には技術士ワールドを牽引していくポテンシャルがあるのではないでしょうか。技術士の知名度を上げるために、技術士の中から、例えばノーベル賞受賞者のようなヒーローを出すことが効果的だと考えたことがあります。今思うと、ヒロインのほうがよりインパクトがあると考えます。

なお、私事ながら、学生の頃から理系女子の交渉力の高さに圧倒されてきたので、せめて私生活においては議論に負けたくないと、英文科卒の女性と結婚しました。ところが、ここでも交渉に勝ったことはありません。週末に映画館に行っても、意見が一致したとき以外は、見たい映画を見ていません。また、いまだに自分がほしいと思った車を買ったこともありません。結局のところ、理系文系を問わず女性の交渉力のほうが強いのか、単に私個人が弱いだけなのかわかりません。

企業の若手技術者および社会に出て行く学生の皆さんへ

就職活動を支援しているときに、学生の皆さんが宝くじの1等に当たったとしても続けたいという仕事に出会えるとよいな、とよく思います。企業の若手の技術者の方々からは、そんなに仕事はおもしろいものではない、という声が聞こえてきそうです。しかし、それは本人の気持ちの持ち方しだいの部分が大です。

どんな仕事であれ、3年間はだまされたと思って真剣に働いてみてください。博士号を取ればその分野の専門家とみなされますが、一般に博士課程は3年です。ですからどのような技術分野であれ、3年間真剣にやれば、その分野の専門家に仲間入りと考えてよいはずです。3年後にその会社のその技術分野において、余人を持って代え難い存在になっていれば、会社における待遇が大きく変わります。プロジェクトリーダーにでもなっていれば、気分は一国一城の主です。宝くじが当たってもその仕事を続けたい、と思うようになっていても不思議ではありません。

それでも、会社における人間関係に問題があると言うのであれば、身につけた技術を武器に外に出ればよい。言い換えれば、武器を身につけていないうちは、外界に飛び出してはいけません。外に出たら、これまでの自分の専門技術を生かしつつ、また3年をかけて自分にとっての新たな専門分野を開拓すればよい。もちろん同じ企業にとどまった場合でも、次の3年は次の専門を極めるべきです。こういった3年間を何回か繰り返し、気付いたら技術士として活躍していたなんていうのが理想です。

いつか皆さんと、お互いに一技術士としてお会いできるのを楽しみにしています。

学生たちと(拡大画像へのリンク)

学生たちと

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経歴

1989年 王子製紙株式会社 中央研究所 入社
1994年 サセックス大学(英国)大学院化学研究科博士課程Ph.D
2003年 技術士 化学部門(有機化学製品) 登録
2005年 技術士 総合技術監理部門 登録
2010年 東海大学工学部光・画像工学科 専任教授  専門:イメージングマテリアル、電子ペーパー

公益社団法人日本技術士会 会員 広報委員 化学部会幹事

趣味

乱読、積読

特技

床につくと3秒以内に爆睡できること

※注:記事は2015年10月現在のものです。

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